2016年2月15日
vol.113 JAふかや 後編■チューリップ(切り花)
さいた~、さいた~、チューリップの花がぁ~♬
この歌の通り市場にはバラエティ溢れるチューリップが市場に流通しています。
そのチューリップの切り花はほぼ国産。なかでも埼玉県のチューリップ生産量は全国第2位で、その多くを深谷で担っているのです。
全国に誇る深谷のチューリップ生産者さん代表で訪れたのは、チューリップ部会部会長の田尻貞由(たじり・さだよし)さんとご子息の田尻重之(しげゆき)さん。
お二人ともナント素敵なスマイルなのでしょう。
田尻さんは面積600坪(≒畳1,200枚!)ほどで、チューリップの水耕栽培をしています。
みなさま、チューリップの水耕栽培ってどんな様子か想像できます??ウン探は・・・正直に申しますと想像できませんでしたが、このように栽培されていたのです。
ジャジャン!
ふむふむ、水槽になっているベンチに水を入れて、その上にプラグ苗のポットのように賽の目に分かれたトレーを入れ、その賽の目ひとつひとつにチューリップの球根を置いていくとッ。
ひとつのマス目の下には穴が空いていて、そこから下根が伸びて水を吸収するというしくみです。
みなさまの想像と近かったでしょうか。
この水は流れているのですか?
「あまり流れていないよ。流れていると万が一病気が入ったときに、蔓延しちゃうからね。
蒸散や球根が吸収するなどして、減った分を足すといったところだよ」
深谷のチューリップ生産はほとんどが土耕栽培です。しかし、田尻さんを含め2軒の生産者さんが水耕栽培をしています。
田尻さんはなぜ水耕栽培を選ばれたのでしょう。
「この辺りは荒川の砂質土壌でね、土は硬いし、石はゴロゴロ入っているし、ジャリジャリしているので、土耕栽培には向いていないんだよ。
同じ深谷でも、利根川と荒川の間の地域は関東ローム層でふかふか土壌。そのような所では土耕栽培を選ぶし、うちはジャリジャリしているから水耕栽培を選んだんだよ」
水耕栽培のメリットはなんでしょうか。
「① 定植から収穫までが速い
1か月と1-2週間で出荷できるからね。
② 作業効率が良い
ベンチで高く設置している分、腰を曲げる必要がないから作業効率も良いし、身体への負担が少ない。つまりその分、長い間仕事ができるということでもあります。」
なるほど。
では、水耕栽培のノウハウはどのように得たのでしょうか。お手本となる産地などはあったのでしょうか。
「特にどこをお手本としたというのはないかなぁ。いろいろな産地の見学には行ったけどね。
自分流で最初は畳1枚分の大きさでやってみて、これは大丈夫と思って徐々に大きくしていったんだよ」
モデルはオランダ方式だったりするのでしょうか。
「いやいや、オランダのやり方とは全然違う。特にマネようとも思わなかった。
この地の気候風土に最も合うやり方を自分で経験を重ねながら作り出していったんだよ。いろいろ失敗しながらね。
オランダには独特のノウハウがあって、1シーズンに5-6回収穫しちゃうみたいなんだけどね。うちは今は2回。」
ではご自身で全て考えてやられたということは、色々と御苦労があったこととお察しします。
「そうだね、いろいろ失敗もしたよ。
水温が上がってしまって、全部腐ってしまったり・・・何かしらの菌が入って腐っちゃったんだろうね。
肥料を入れてみたら根っこが黄色くなってしまったり・・・だから今は肥料を一切入れていないんだ。」
チューリップにとって水温はどのくらいがいいのでしょうか?
「根が張るのに最適な温度は8-9℃くらい」
水耕栽培では水道代が高くついてしまうのではないかと心配してしまいますが・・・?
「井戸水を使っているんだよ。
以前、保健所に調べてもらったときは、その井戸水は飲み水で使えるくらいきれいで清潔。
深谷の市営水道は地下水を使っているほどなんだ。」
水はきれいで日照量も多くて、深谷はイイトコロですね~♪
その土地の環境とあるものを生かしてチューリップ栽培をされている田尻さん。まさに地の利栽培を実現されています。
あらら~?
こちらのハウスでは何やらおとぎ話に出てきそうな美しい少女が椅子に座っています。
「私の奥さんです。」
うわっ。遠巻きでしか拝見できませんでしたが、美少女系ですね。何をしていらっしゃるのですか?
「水耕栽培を始める準備。球根を一つ一つのマス目に配置していっています。」
このような形で届いた球根をひとつひとつマス目にセットしているところです。
そして水耕栽培でグイグイと伸びて、1か月と1-2週間ほどで出荷というわけです。
チューリップはひとつの球根から1本(1輪)咲いて、収穫したらそれで終了。次の花を咲かせるためには新しい球根をセットします。
「ウン探さん、チューリップでどうやって収穫するか、知ってル??」
うーん、?c(゚.゚*)エート。。。普通にハサミで切る?
「球根ごとプラグから取り出して、このような機械で球根を切り取るんだよ!」
えぇッ??チューリップって機械で球根を切り取るんですか?知らなんだぁ。
機械で収穫する花って国内では珍しいかもしれませんね。
「ほら、これが収穫した後の球根だよ。」
「元々はこのようにくっついていたんだけどね」
「昔は包丁で切っていたんだけどね。
チューリップの茎元ってよく見ると少し白くなっているでしょ。その白い部分が球根の中に入っていたところなんだよ。」
そういえば・・・σ(゚・゚*)
チューリップの茎元って白くなっていますね。
そうか!ここが球根の中に入っていた部分ということなのですね。
田尻さんの軽トラには収穫が終わった球根の山・・・!
亀仙人のヒゲのような白い根がもしゃもしゃと生えていますが、これらはどこに行くのでしょうか?
「畑だよ。」
ん?畑に?また?芽が出てくるとか??
「畑に持って行って肥料として使うんだよ。球根はほとんどデンプン質だからね。」
へー、そうすればゴミもなくなるし、畑は肥えるし一石二鳥ですね。
ところで、品種が豊富なのがチューリップの魅力の一つですが、品
種選びはどのようにしていらっしゃるのですか?
「出荷量の多いピンク、黄色、赤は人気の定番として大切に作るけど、遊びゴコロで10-20%くらいは新陳代謝用の新品種も導入するよ。
毎年同じ品種ばかりでも、作っていて面白くないからね。
品種選びはその品種が水耕栽培に合っているかどうかも検討しながら、ウチの栽培環境に合ったものを導入する。
今年はトータルで80-90品種くらいあるかな。
あとはJAふかやの花き担当をしている髙野(こうの)さんの言うことを聞く」
強力なアドバイス力を持つJAふかやの髙野さん↓ 生産・出荷を牽引します。
なるほど、最後は髙野さんですね。深谷にはマーケットの声を細かく聞き分けて、未来を読む敏腕アドバイザーがいらっしゃるわけですね。
そして田尻さんをはじめ、生産者のみなさまとの信頼関係が構築されているからこそ、敏腕マーケッターのアドバイスを信じて品種を導入する!納得です。
■ちょっとおまけ「球根について」
チューリップの球根はオランダから輸入します。
みなさん、オランダの大地を色鮮やかなストライプ模様に彩るチューリップ畑の風景、わかりますか。あのチューリップ畑は、切り花用チューリップの球根を養成しているのです。日本に届く球根もあの景色の下にある球根なのです!
でははぜ咲かせているのかというと、花色の確認のため。
「開花して花色を確認できたら2-3日くらいで、すぐにチョキン!と切ってしまうんだよ」
え!?すぐ切ってしまうのですか?WHY?もったいな~い!・゚・(ノД`;)・゚・
「良い花を咲かせるには養分が必要。その養分はもちろん球根から供給されるわけだよね。だから、球根が養分をたくさん蓄え、太らせることが重要。花を長く咲かせてしまうと、養分を花に取られてしまうでしょ。だから、色を確認したらすぐ切ってしまうんだ。私たちのような生産者が良いチューリップを咲かせるためにね」
なるほど、チューリップの花畑は、実はチューリップの球根畑だったのですね。球根の養成のために満開になってから数日のうちに全て花を切り取ってしまう。ですから、あの色とりどりのカーペットの景色を見ることができるのは1年のうちでもほんの一瞬なのです。
満開の季節にオランダにタイミング良く行けるというのはとてもラッキーなことなのですね。
「花首を切ったら球根を掘り起こして冷蔵にかけるんだ。6月下旬くらいかな」
冷蔵にかける?
「そう。チューリップは春に咲く植物でしょ。それは一旦、冬(寒さ)を経験して温かくなってきたな~と感じたら花が咲くからなんだよ。
それを今のような寒い時期に咲かせるためには、夏の暑い時に人工的に寒さを経験させないといけない。そのために冷蔵するんだ。
段階的に冷蔵していくんだけど、本冷(ほんれい)と呼ばれる冷蔵処理は5度で8週間ほど。
その冷蔵状態のまま船に乗せて日本に送ってもらうと、すぐ定植できて、この時期に開花するってワケ。」
そか、今は冬だから、この冬に出荷するためには夏の間に冬を体験させるわけですね。
これを春化処理(あるいはバーナリゼーション)といいます。
チューリップの田尻さんのところでも、良い花を咲かせるのは球根会社の連携があってこそなのですね。
JAふかやチューリップ部会 部会長 田尻さんの格言
・品種構成は的確、かつ厳格に!定番&新商品の組み合わせが肝要!
敏腕アドバイザーに従いマーケットで売れるものを投入せよ。
生産者都合で作りやすい品種を作り続けることが、生産者にとって必ずしも良いとは限らない。
・地の利を生かした生産を推進せよ。
良い花を作ることができ、且つ生産コストやゴミを削減することができる!
・チューリップは回転勝負。限られた出荷期間の中でいかに出荷量を増やすかで勝負せよ!
☆最後に
冒頭でうんちく探検隊が歌った(?)
"さいた さいた チューリップの花がぁ~"♬
という国民の誰もが知るこの歌は、世田谷区の近藤宮子さんというご婦人が「みんなの良いところを認め合いたい」という優しい思いを込めて作詞されたものです。
今回の取材でチューリップの田尻さん親子には、とても明るくお優しい印象をお受けしました。色々な人の個性やバックグラウンドを認めうように、田尻さんも色・形・個性様々な品種をそれぞれに特性を見極め1本1本育て上げ、最後は「嫁に出すような気持ちで出荷する」のだそうです。
そんな田尻さん親子も、とてもお優しい心の持ち主なのでしょう。
そして、チューリップこそ多様性を受け入れ平和を願う優しさの象徴なのではないでしょうか。
☆ちょいと深谷探訪
深谷のすぐ駅前には桜並木。3kmにもわたり約300本の桜が植栽されています。
JRの駅前すぐのところにある桜並木は全国でも珍しいと深谷市観光協会の方が教えてくださいました。
寒々しい空の下に黒い枝が浮き上がります。
しかし、よく見ると小さな花芽が。
季節になればそれはそれは素晴らしい桜並木がお目見えすることでしょう。
春はきっともうすぐ。この寒い冬を乗り越えようとする桜のつぼみのように、わたし達も今はじっと寒さを耐え、温かい春を待ちたいと思います。
JAふかや様のチューリップは3月下旬ころまでの出荷です。ぜひ春を待つわびる間に、深谷のチューリップをお楽しみください。
<写真・文責>:ikuko naito@花研