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2011年9月22日

vol.87 JA会津みなみ(福島県)

福島地図.jpg前回に引き続き福島県を訪れました!

今回は福島県南会津です。

晴天に恵まれ、空気がきれいなおかげで空も植物も家々も道もくっきり色濃く見え、周囲は山々に囲まれたとても美しい場所でした。

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お話を伺ったのはJA会津みなみに出荷している3軒の生産者さんです。


まず室井豊一さんのもとを訪れさせていただきました。
選花をしている現場は真っ白なカラーがたくさん。

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ラッピングなしでもこのカラーを束ねて持っただけで、持った人を120%引き立てるような美しさです。

また、選花をする台の端に花びら2枚のカラーたちが。
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白ウサギの耳みたいでこれもまたきれいだと思ったのですが実はこれは奇形で、株から最初に花が出てくる時に気温が高いことが原因です。また、高温により白のカラーに若干のピンクが入ってしまうこともあるようです。


次に室井さんの花作りはどのようなものなのでしょう。かつて南会津町を流れる水無川(みずなしがわ)周辺は石ころだらけの川原だったそうです。

そこに昭和44年からの開拓パイロット事業で川原の上に土を30cmの高さ分敷き詰められました。そこで植物を植えることができるようになり、桑やブドウなどを栽培し始めました。
しかし、養蚕の衰退で桑畑が荒廃したり、ブドウは取り入れた品種が南会津の地の環境条件と適さず、うまく実をつけなかったりとうまくいきませんでした。室井さんもこれまで葉タバコ、畜産、アスパラガス、グラジオラスといろんな生産に携わってきましたが、いつもどうしたらこの地で農業ができるかをずっと試行錯誤してきました。30cmの深さの土で生産できるもの。。。それもちゃんと利益が出て、地域の産業として根付く農業でなければならず、どんなに質の良いものを1本2本作ることができたとしても、経営として成り立たなくては意味がないと熱く語ります。また、それを考え続けるのがライフワークだというところに揺るぎない芯を感じ、心にしみるものがありました。
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自分の農業だけではなく地域の農業を活性させるところまで見ていらっしゃるのが溢れるバイタリティーの秘訣でしょうか。現在は生産の8~9割がカラーで、連作障害を防ぐためにヒマワリ、ケイトウ、スターチスなども作られています。そもそものカラーとの出会いは、会津の西部地区でカラー作りをやめる方がいるとJAから知らせがあり、カラーの持つ気品や、株が増え続ける球根の性質などに魅力を感じ、それをならやってみようと球根を買い取ったところから始まりました。やめる方の畑に行って鍬(くわ)で球根を掘り起こしたそうです。

また、カラーは気温がマイナスになると土の中では球根が溶けてしまいます。土の中でも越冬できる品種もありますが多くは毎年冬前に掘り起こして予冷庫に入れます。

1-1.jpg球根はこの農業用の黒いコンテナに入れてから予冷庫の中に収められます。このコンテナが500個分ほどできるそうです!入りきらなかった分は農協の予冷庫を使います。室井さん個人の予冷庫は設定温度を冬場5℃に設定しており、除湿機を予冷庫内に入れ湿度管理も行いますが、除湿機の運転により設定温度が多少高くなるので温度・湿度管理に気をつけ確実な越冬を行います。


そして、カラー作りで室井さんが大切にしているのが、できる限り球根と地力(ちりょく : 土地が作物を生育させることのできる能力)で育てることです。元々この土地の水はけが良いこと、気候が涼しいことによりカラーにとってはとても環境が良く、自然の力だけで美しいカラーが作れます。肥料は使っても植物にとって優しいミネラル系の肥料を使用しています。
チッソ系の強い肥料を使うと見かけが大きく丈の長い花を作れますが、茎が軟弱で日持ちも悪くなるので、それは本意ではないから使用されていません。

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このような小さな粒のミネラル系の肥料が畝沿いに蒔かれていました。
また雑草も肥料として活かします。土から抜いた後も畝間に置いて緑肥(育った植物をそのまま畑にすきこんで肥料にすること)として用います。


生産から流通までの安全性などを第三者目線で総合的に評価するMPSという認証があります。生産者向けMPS認証の中に農薬や肥料などによる環境負荷をAからCまでランク付けする評価基準があり、室井さんは最も環境に対して負担をかけていないAの評価を得ています。
決してMPSを取るために頑張ったわけではなく、自然の力を大切にし、生産に取り組んできた結果として取れたと語るのはとてもかっこいい。
触らせて頂きましたがカラーの茎はとてもしゃんとして固い。細胞が密に詰まっているのが分かるというか。
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形はウェーブがなく、花の口が少し反り返っているものが理想です。
1-4.jpg写真で言うと左の方が理想的です。


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冬場は骨の折れるハウスの除雪、また翌春に向けて栽培結果の分析を行います。その年の気象条件と採花の始まり、ピーク、終わりの状況を捉えておくと翌年以降の栽培から出荷計画に活かすことができます。このように毎年のデータを蓄積することによって生産や出荷作業の計画の目処が立ち、予定していたことと3日間以内のずれで抑えられると言います。春から秋まで長い期間作り続けているのに3日間だけの誤差で収まるのは驚きです。今までの栽培結果をこうして分析するのも楽しいとおっしゃいます。
とても元気な産地さんだという印象が残りました。


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続いて所変わって部会長の室井和之さんを訪れました。
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ちょうどカラーを選花しているところでした。どんな基準で選花しているのか聞いたところ、「花屋さんが嫌がるものは出さない」ということでした。
例えば軟腐病(細菌により茎、またひどい場合には球根まで溶けてしまう病気)にかかっていないもの、また形が整っているものをしっかり選びます。


また選花をしている室井和之さんのお隣では奥さんも出荷作業をされており、お願いしてテープで茎を巻きつけるところをゆっくりやっていただきました。透き通るような美しいカラーが傷つかないよう、1本1本器用に束ねて専用の機械で上下2ヶ所束を巻きつけます。2-1.jpg2-2.jpg

そして室井さんの場合、カラーの球根はすべて冬前に掘り上げてしまい、冷蔵設備のない小屋の中でもみ殻の中に埋め込むことで越冬させます。
なぜもみ殻なのかというと、室井さんはカラーだけでなく出荷量の多いもの、少ないもの合わせて8種ほど(カスミソウ、ダリア、マリーゴールドなど)の品目を育てていらっしゃるのに加え、稲、豆、そばも栽培なさっており、秋の収穫時にはとても忙しい。その時期が終わってカラーの球根の越冬準備をするとなると、球根にとって良くない環境になってしまい、冬まであまり時間がありません。

水気があると腐りの元になるため掘り上げたものを乾かす必要があるのですが、予冷庫を使うとなると長く乾燥させてから入れることになりますが、もみ殻を使う方法なら数日干しただけで後はもみ殻の中に入れておけば越冬できます。
というわけでもみ殻を使われています。

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もみ殻の中は冬でも7~8℃で安定して保たれていて、球根たちは根も茎も付いた状態で入れられます。茎は球根から3cmほど付いています。
多少の水分はもみ殻が吸い取ってくれるそうですが、以前、茎を今の3cmほど残した状態よりもっと長く付けたままもみ殻に入れた時もあったようです。その時はもみ殻が水分を吸収しきれなかったため球根が溶けてしまったそうです。そこで今の3cmくらいに落ち着きました。若干の長さの違いが大きく左右するのですね。
球根は上に重ならないように平らに並べ、その上にもみ殻を敷き、またその上に球根を並べまたその上にもみ殻を敷くといった繰り返しがなされます。つまりサンドイッチ状態です。


除雪機を使って球根にもみ殻のふとんを被せます。
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なるほど除雪機にはこうした使い方も!


圃場ではカラーは施設栽培ものと露地ものがありました。施設の中は真っ白なカラー(クリスタルブラッシュ)が元気良く咲いています。また、露地のカラーはピンクやオレンジといった色ものが咲いていました。


驚いたのが発色の良さです!夏場出荷のカラーは露地でしっかり日光を当たった方がで施設で育てるより発色の良い花ができるのです。


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非常に濃い。ピンクにしてもオレンジにしてもこんなに濃いカラーたちは初めて見ました。


また、こちらはダリアです。人の身長より高い!
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こちらの黒蝶という品種は大人の手のひらを広げたくらい大きいです!
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ダリアは頂芽優勢(ちょうがゆうせい)の植物です。芽が出て茎が伸びていく過程で、てっぺんの芽(頂芽)、及びその茎(主茎 : しゅけい)が最もすくすくと育ちます。
2-11.jpg根元を見ると主茎が切られていました!


理由は丈の長い花を作るためでした。主茎は花芽をたくさんつけ、育ちも旺盛ですが短いところで枝分かれし長さが取れないそうです。一方茎の側方から出ている側枝(そくし)は枝分かれせず長く伸びるので丈の長いダリアを作ることができます。
というわけで主茎の根元で切って側枝に栄養が行くように工夫をなされているのですね。
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また、ハウスの中は虫が少ない。
ハウスの上にUVカット加工の遮光幕を被せているので、遮光と紫外線のカットによりスリップスなどの虫が寄りつくのを少なく抑えられています。今年も秋の収穫時は忙しいと思いますが頑張ってください。


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お次は渡部善蔵さん。
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カスミソウをメインで栽培されています。
DSC09544.jpgもともとはリンドウの栽培をメインにしていましたが、花腐菌核病(はなぐされきんかくびょう : 菌により花に斑点が生じて花全体が茶色くなり茎を侵す病気)などの病害に悩まされていました。
そこで標高550mの南会津の涼しい地でカスミソウを作ったところ、うどんこ病(うどん粉をかけたように白くなる病気)などの病害もなくうまく栽培できたそうです。南会津の地は水はけがよいし、加えて気候が涼しくカスミソウに非常に適していたのです。
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JA会津みなみは平成23年6月にエコファーマーという環境にやさしい農業に取り組んでいる認証を取得しています。(エコファーマーとは、堆肥などを使った土作りと化学肥料・化学農薬の使用の低減を行っている農業者の愛称で、各県の知事が認定します。)
昔はカスミソウの農家はチッソやリン酸系の化学肥料を、ボリュームが出るようにとたくさん使ってきました。しかし、徐々に土のバランスが壊れていってしまったそうです。そこで、会津みなみの部会全体で改良が行われました。土壌診断を行ったり、普及部での分析をもとに、有機肥料を用いて土壌改良に取り組みました。土壌を改良するには2~3年もの期間がかかりました。


渡部さんは染めカスミソウも作っています。
息子の亮平さんが主に行っていて、前回ウンチク探検隊で訪れた昭和花き研究会の菅家さんに教わった経験があるそうです。
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季節にもよりますがピンク、ブルー、ラベンダーあたりが安定して人気があります。
染める時間は1時間~2時間ほどで天気、湿度によって大きく異なります。例えば夏場の乾燥した頃だと30分~1時間で早くも染まります。また、色はブルーだと80cmで1時間~1時間30分で染まるのがピンクだと2時間かかったりします。

染め時間を把握することは植物の呼吸を感じることでしょうから、とても繊細な花との向かい合いを日々されているのですね。
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さて圃場も訪ねました。
細かな工夫が見られました。畑の畝に敷いているシート(マルチと言います)は一般的に多い黒ではなく銀色を使用しています。銀色のおかげで光を反射させ茎の下の方にも光を当てることができるのです。
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それから、6月から11月までの出荷を安定して行いたいという考えから、苗から畑への植え付けの際には一週間ごとにずらしながら植えていくそうです。

これで苗の状態から7週間目です。DSC09554.jpg

まだ高さは10~15cmといったところでしょうか。12~13週目には採花できます。この頃には60~70cmになっているのだから急成長ですね。


夏は2番花が咲くころが採花目安です。
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どれが2番花か。
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上の写真の番号順に1番花から3番花までです。

また、この秋採花した後は、植えられている中の半分ほどの株を越冬させることになります。また春先にも採花するためです。冬場はハウスのビニールシートも取ってしまうので直接カスミソウの株に容赦なく寒い風や雪が降り積もることになります。
越冬なんてできるのかと思われますがほとんど雪腐れなどはないそうです!
「冬越しの株」、、、恐れ入りました。


では大変なことはどんなことでしょう。
花がまだまだ咲く段階までいかないときはハウスをビニールシートで被っておらず、鉄の枠組みがむき出しの状態です。カスミソウは雨に当たり過ぎると花が咲きにくい性質があるので、ある段階まで育つとハウスにシートを被せます。しかし、時期的に台風が来るのでシートが飛ばされる危険もあり、いつ被せるかタイミングを決めるのが難しいそうです。
また、性質が強いといっても病気が発生しないわけではないし、ネズミやコオロギ、カラスがカスミソウをかじってしまう被害もあります。日々の雑草を取る作業も体力のいる仕事です。
それらを経てこの粒の大きな美しい花ができあがっているのですね。
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カスミソウは地中海沿岸原産で、暑さに強いおかげで葉焼けもなく、一方雪の中で越冬もできてしまいます。おまけに染めることもできます。ふわふわとした優しい見ための花ですが、性質は非常にタフなんだということを強く感じました。

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今回3軒の生産者さんを訪ねましたが、どの生産者さんも
南会津の気候をよく把握していて、涼しくて水はけの良い土地に基いた花の栽培をしていました。


こんな手間暇がかかったきれいな花が大田花きに出荷されているのはありがたいことです。


大田花きでは先月8月8日~12日に中央通路のショーケースで展示が行われました。DSC09348.jpg

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最後に今回はJA会津みなみの星さんにご同行して頂きました。余談ではありますが上の写真のかわいい女の子たちが写ったJA会津みなみのポスターですが、その中の一人は星さんのお嬢様です。みんなほんとにいい笑顔です。自然の恵みと共に生き生き生活しているのが感じられます。


会津みなみの特徴は束共選といって、生産者の方で等級ごとにある程度分けられたものをJAでさらに束ごとに秀や優に選び抜き、市場へ出荷します。更に長さだけでなく重さの規定もあり品質が整っています。
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星さんはそのような集荷と選花作業、生産者への市況報告など非常にマルチにお仕事をなさっているのでした。
また冬にスキーができる山や、松茸が採れる山、春アスパラの美味しいことなどいろいろ教えて頂き、暖地にはない、涼しさを元にした会津田島の自然の魅力を感じました。


                                              (文責:Kadono Hiromi)

2011年7月 1日

vol.86 昭和花き研究会(福島県)

お待たせしました!
ウンチク探検隊結成6年目、取材回数第86回にして初めてのカスミソウ特集
しかもお邪魔したのは業界でも超有名人の昭和花き研究会会長の菅家博昭さん

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こちらが菅家さん。
菅家さんといえば、農業と花き業界について最も真剣に考えていらっしゃる方のおひとり。メディアでの登場頻度も高く、ご存知の方も多くいらっしゃることとは存じますがッ!


ウン探では、ダレモシナライ昭和花き研究会、及び菅家さんの秘密を探ってご紹介させていただくことに致しましょう。


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さて、昭和花き研究会は菅家博昭さんを会長とし、福島県大沼郡昭和村でカスミソウを生産する28人の生産者さんから成る生産者組合です。昭和村は豊かな自然に恵まれた大変良いところなのですが、本日は先が長いので、そのあたりのことは割愛させていただきたいと思いますので、是非昭和村のHPをご覧いただければ幸いです。


さて、昭和花き研究会は夏場のカスミソウの大産地として、またカスミソウをカラフルに染色した染めカスミ商品の先駆者として日本を代表するカスミソウ産地のひとつです。
こちらは、昭和花き研究会のカスミを(大田市場では)大々的に販売されている中央花卉さん店頭。大田市場で買い出しされていらっしゃる方の中で、ご存知のない方は恐らくいらっしゃらないでしょう。
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いざ初潜入です!


昭和村に入り、途中まで出迎えて下さった菅家さんの穏やかな運転の後を追い、やってきたのは思わず深呼吸したくなるようなフレッシュエアーに包まれた山里。
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木や土の匂い、水が流れる音、種々の花たちが咲き乱れ、虫たちが活動し、"自然が息づいている"という感じがします。草木の精霊に出くわしてもきっと私は驚かなかったことでしょう。


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シャクヤクもここではまだツボミ。
ここも東京も同じ日本ですか。東京コンクリート砂漠から300km離れたこのようなところでカスミソウが作られているのですね。


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さて、体内酸素をフレッシュエアーに入れ替えたところで早速圃場へ。
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こちらはカスミソウの苗。あたくし、カスミソウの苗って初めて拝見しました。
このような形をしているのですね。
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「そうだよ。よく見ると、いろいろな葉の形があるでしょ。品種が違うからなんだけど、ここ昭和花きには3年後の日本に流通する新品種が必ず入ってくるんだ」

ほんと、よく見ると葉の形がトレーによって異なります。

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新人のカスミはデビューの3年も前からこちらでトレーニングするのですか。

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「3年かけて手入れ方法やテストマーケティングを行い、うまくいったものだけが市場に流通するんだ。うちにあるカスミの30品種のうち、10品種がトライアルだよ」

なるほど、昭和花きは日本で栽培がうまくいくかどうかのトライアル圃場としての機能も持っているのです。これはもう日本のカスミソウの将来は昭和花きが握っていると言っても過言ではありません!

デビューするかどうかの判断のポイントは、
① 出荷規格が80cmだからそれを満たせるような樹勢があり、すっと伸びるものであること
② 生育が良好であること

主にこの2つ。

では、3番目に"見た目"ですね?花だったら必ず大切なポイントになってくるかと思いますが??


「見た目とか色形は、ここに来る前に既に選ばれているんだよ。ここではどちらかというと、生育が良好であることや、花保ちなどがチェックされるんだ」


そうでしたか。生育チェックが主なんですね。

こちらは栽培圃場です。
うわ~、霞だわ、カスミ!本当に霞んでいる感じ♪
7月7日はカスミソウの日でもありますが、まさに七夕の夜空に流れる天の川のようです。中国ではカスミのことを満天星というそうですが、その表現もよく分かるような気がします。
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「これを見てごらん。カスミソウはね、暑さに弱いんだよ。あとは急激な天気の変化に弱いね。それらに対応できなかったときに、まっすぐのびずにこのように曲がってしまうんだ。その場合はこのワイヤーで矯正するんだよ」


茎が曲がってしまったときは、この緑のワイヤーを使って矯正します。
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「畑に植えて(=定植)から30日間のうち、暑くて夜の温度が23℃以上で1週間続くと、奇形になってしまうんだ。」


カスミの奇形って例えばどんな感じですか?
「花色が緑がかっていたり、花びらがなかったり、妙に大輪だったり・・・こういうのを高温障害っていうんだ」

今回も出ました四字熟語!「高温障害」

何度で高温障害が出るかは植物によりますが、その植物に不適切な高温下で栽培することにより、正常に生長しないことを言います。ま、植物の熱中症みたいなものでしょうかね。


「カスミソウは冷涼な産地で作るもの。暑いところではできないんだよ。
世界の大産地であるケニア、エクアドル、イスラエルも暑いイメージがあるけど、夜温は8-13度程度まで下がる。この条件が大原則なんだ」


この葉のピロピロフリルも同じ現象ですか?
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「これは全く以って正常!」☆^∇゜)


あ、失礼しましたm(_ _)m 
では何かの合図でしょうか。会津産の合図?ア、スミマセン!

「これは花芽分化をした合図なんだよ。このウェーブが出てから30日で開花するんだ」


↑チョット、皆さんココ読み流さないでくださいね!
このピロピロが出てから30日で開花するなんて、ご存知でしたか?(知らなかったの、アタシだけ?)

植物が栄養生長(純粋に葉や茎が伸びていくこと)しているときは、葉はまっすぐ。
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ところがカスミちゃんが花芽(かが/はなめ)分化を決意したときは、葉の淵にピロピロが発生するのです・・・まるで揺れる乙女心がときめくかのようなフリフリ感illust478.jpg
この花芽分化を決意してからの生長を生殖生長といいます。

「カスミソウの品種にはは早生(わせ)・中生(なかて)・晩生(おくて)とあってね、それぞれ到花日数(とうかにっすう)が異なるんだよ」

うわっ!(□゚;) 出た!また四字熟語。でも慌てない、慌てない。
到花日数とは「花に到る日数」と書きますね。ですから、そのまま「畑に植えてから開花するまでの日数」のことをいいます。

「例えば中生のカスミは到花日数は60日。積算温度にして1,200℃で花が咲くんだよ」


積算温度の算出は↓
1日平均気温(最低気温15℃、最高気温25℃なら20℃) × 定植してからの日数(60日)
 = 1,200℃

早生なら定植から40-50日、積算温度1,000℃、晩生は60日以上で1,500℃といったふうになっています。

これらの品種をよく組み合わせて出荷すると、長く安定して消費者の皆様のところに供給することができるのです。

「原油価格が上がってから、早生種にしないとなかなか出荷できなくてね・・・夏は(丈が伸びずに)40cmで花が咲いてしまうんだ。これでは商品にならない。品種のリクエストに応えることより、夏場に安定してきちんと供給することを大切にしているんだ」
と菅家さんはおっしゃいます。


「昭和花き研究会は28軒のカスミ専業農家から成り立っていますが、生産指導はしません」
と言う菅家さん。
では、その28人の技術レベルの差はどのように埋めているのでしょうか。皆さん同じ「昭和花き研究会」の看板の下にご出荷されているわけですよね。ブランド(信用)に関わる重要なことだと思いますが?

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「生産勉強会や畔道講習会などはするよ。でも生産は私から強制したりするものではない。自分の責任で行うものだから、分からないことがあったら、県の先生などに聞くようにしているんだ。販売のことについては私からアドバイスすることもあるよ。でも生産には口出ししない」

なるほど"自分の責任において"ですか。昭和花き研究会は生産者さんお一人お一人がインディペンデントなのですね。

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生産のことを少し理解したところで、採花後の作業場を見せていただくことにしましょう。
こちらがその作業場です。
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一歩入るとカスミソウ独特の香りがします。カスミソウは英語でbaby's breath=赤ちゃんの息。
カスミの香りがやや気になる方も、"赤ちゃんの息"と思って、寛大な心で受け入れてくださいませ(*^-^*)


菅家さんが最も大切にしていることは、
一、 日持ち性

一、 鮮度

一、 切り前

これらに対しどのようにアプローチしているのか、見てみましょう。


さて、お邪魔した時はちょうどカスミの水揚げ&染色中。
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106d.jpg水揚げについて

何といっても、昭和花き研究会では「圃場で水揚げ」していることが大きなポイントです。
トラックに前処理剤の入った水揚げ用のバケツを積んでいって、採花してすぐ浸ける!

採花後、20分以内に前処理剤の入った水に浸けることが重要。
そのためには、作業場まで持って帰ってきてから浸けるのでは、間に合わないんだよ」

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(↑黒いバケツが前処理剤の容器)

なるほどぉ・・・どうしてそこに辿り着いたのですか?

「1999年にイスラエルに視察に行ったときに学んできたんだ。当時イスラエルはケニア、エクアドルと並び、世界でもカスミソウの一大産地。イスラエルのカスミは日本の2倍日持ちしたんだよ。

そもそもは大阪府立大学の教授の文献を読んだり講演を聞いたりしてイスラエルにヒントがあると思って行ったんだ」


行ってみたら、まさに欲しかった答えがそこにあったわけですね。


しかしそれを日本で実践しようとしたときはまだまだ
"そんな面倒なことはでぎねぇなぁ~(-ε-)"
という論調が強かったそうです。
しかし、実際にやってみると、それまでロス率30%だったカスミソウは、圃場で水揚げするようになってからロス率ほぼゼロ%になったそうです。


つまり!( ^―゜)b
栽培面積を増やすことなく、またコストをかけることなく出荷量が1.5倍になったのです!
w(゚0゚*)wow!!キョウイテキ!

花萎れでロスが出てしまう原因は主に2つ!
内性エチレン 
→いわゆる"老化現象"です。切られたとたんに自分の身から出るエチレンによって、老化を進め萎れていきます。
(ヤバイ!死ぬぅ~(≧Д≦)~と自らエチレンを出して老化を早め、慌てて子孫を残そうとするのです)

外性エチレン 
→バナナやリンゴ、排気ガスなど、自分以外の外的要因に反応して、老化を進めていきます。


そう!カスミソウはエチレンによって急速に萎れていく代表選手の一つなのですが、圃場で素早く前処理剤に浸けることによって上記①の内性エチレンをストップすることができるのです。
②はその後の管理でコントロールできますので、やはり①のエチレンを大幅にカットできるということが品質保持に大きな意味を持っているのです。

はい、ここで菅家さんが大切にしている日持ち性をいかに改善しているかがよくわかりました。


では切り前はどのタイミングで計っているのでしょうか。
「頂部の花と下枝の花の開き具合を見るんだけど、最初に咲いた花が老化する前に採花するんだ。そしてすぐに前処理剤に浸ける」

これが切り前のポイントです!

菅家さん、カスミが暑さに弱い割には、作業場では冷蔵庫を使わないのですか?

もちろん使っているよ。コレね。

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その作業場にあったのは、なんと1994年製の手作り冷蔵庫。外見も中身も一見冷蔵庫には見えません。

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て、手作り??(゚ペ)?

冷蔵庫って手で作れるものなのでしょうか。大型電化製品販売店で買ってくるものか、業務用の冷蔵庫を作る業者さんにお願いするものだとばかり思っていましたが・・・^_^;

「冷却器と発砲スチロールを買ってきて、蛍光灯付けて、ドア付けておしまいだよ。総合計25万円。同じものを"買ったら"当時で80万円」

な、なんと!
手作りってホントです!断熱のために発泡スチロールでドアができている!
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手作り冷蔵庫なんて存在するのですね!
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3分の1以下のコストで作った冷蔵庫は、丸17年(!)経った今でも現役活躍中!なんという性能の良さ!さすが菅家さん。

冷涼な地域で生産されるカスミソウはひと昔前まで、お花屋さんでは"夏場にカスミは使うもんじゃない"という定説があり、そのように伝授された方も業界内に多々いらっしゃることと思います。
通常開花している花より周りにあるツボミの方が高いところにありますが、昔はこのツボミの高さが群を抜いていて、高いところにある分、水揚げがとても悪かった(+_+)

だから、お花屋さんはこれらの水揚げの悪いツボミを切って使ったりしていたのです。花屋さんの御苦労が忍ばれますが、現在は品種改良によりこのツボミと開花している花の高さが一定に揃うようになりましたので、ツボミを切り取る必要がなくなりました。
しかし、現在では品種改良と生産者のご努力により、夏場もカスミを使えるようになりました。これは一つの革命といえるでしょう。

昭和花き研究会のカスミは夏場に安心して使える信頼のカスミなのです。


106d.jpg染色について

染めカスミをご覧になったことのある方はお気づきとは思いますが、カスミの染色は(上から吹きかけるのではなく)染料を混ぜた水を吸い上げることによって行います。


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このカップの下から3cm(=100cc)に摩訶不思議の染料(普通の染料)の入った水を入れ、カスミを10本束に束ねてこれに浸けて30分。10本で100ccですから1本あたり10ccですね。


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ただーーーしッ!(゚□゚*)b
染色が30分で終了するのは、天気が晴れのときだけです。

湿度が75%ある日は2-3時間はかかりますし、雨の日は24時間浸けても染め終わりません。。。(゚゚;)ナヌッ!?

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つまり、湿度が高いと植物の体内の水分が蒸散しないので、次の水、また次の水とホイホイ水を飲もうとしないわけですね。
だから水を吸い上げず染めに時間がかかる。ちょうど今の時期のような梅雨時期は大変!
その場合は、開花室(光と湿度をコントロール・・・詳細後述)に持っていき、そこで開花調整をしながら染め水を吸わせます。

カスミは本来とても蒸散活動の活発な植物です。
(=水が好きillust478.jpgということ)ヽ(*´▽`)◆ゞゴクゴク
だからこそ染め商品に適しているということもあるのです。

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「必ずお客様の販売計画に基づいて染めていくんだ。
これは受注に基づいてどれだけ染めるかを記したノート→

決して刹那的に染めることもないし、染めたものをストックすることもない。いつも注文を受けてから、受けた分だけ収穫、染色して、速やかに出荷する」

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はい、ここです。ここに昭和花き研究会の鮮度への取り組みの答えがありました。
これは昭和花きファンが増えるわけです。


しかし染めカスミってどのように使われるのでしょうか?
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大田市場花き部中央花卉さん店頭でへィーユーザーさんに伺ってみると、1本売りやスタンドや花束、仏花に使うようです。インタビュー当日も染めカスミを50本ご購入されたのだそう。
「真白のカスミよりも、ラベンダー色の方が寂しくないし、用途はたくさんあるんですよ」


昭和花きにとって、カスミを染める意義がもうひとつあります( ^ー゜)b

それは、染料は前処理剤を吸っているかどうかのマーカーである!ということです。

特に雨の日は蒸散しにくいだけに前処理剤を吸収しているかどうか判断する手段がありません。
しかし、染めカスミを作っている限りは、染まり具合で前処理剤を吸ったかどうかが分かるのです。

染まっていない=前処理剤を吸い上げていない
=内性エチレンをカットできない=老化一直線!=すぐ枯れる


白いカスミだけでは前処理剤をどれだけ吸ったのかがわかりません。目に見えませんから。
ですから作業する側とすれば、前処理剤に一定時間浸ければカスミは吸収したと思い込みがちです。
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しかし、集荷場で同じように咲いていても、差が出てくるのはお客様の元に届いてからです。出荷する側にとっては、結果が見えません。

そこで色付きの溶液を吸わせることで、前処理が自己満足に終わることなく、お客様のところでどのような結果になるかを目視できるようになるのです。つまり出荷後の花保ちに対する責任を全うするということなのです。

染めたときの色づき方がカスミの行方を占うキーポイント。染める溶液にもまた鮮度保持剤が入っています。

カスミソウを染めるのは、白いカスミの品質チェックにもなるということなのです!

ひとつ誤解のないよう注意していただきたいのは、「小売店舗や消費者の皆さんのところで水を吸って開花したものは白である」とうことです。その割合が多くなると、全体的には白が増えるわけですから色が少しぼやけた感じになりますが、それはそれとして味わっていただきたいと思います。新しく咲いた花がピンクやブルーでないからといって不良品ではありません。


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はい、染料を吸わせて出荷の準備ができたカスミの行く先は出荷場です。
ご案内してくださったのは、昭和花き研究会取締役の本名敬(ほんな・たかし)さん。
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最初に拝見したのは、出荷場の隣にあるこちらのシャッター・・・を開けて。。。
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シャッターを開けてドドーンと現れたのは、なんと雪室(ゆきむろ)。
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う~ん、カメラに入りきらぬぁ~~~~い!
どれほど大きいでしょうか。

う~ん、パノラマカメラがないとちょっとお伝えしきれません。
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2月末から3月にかけて、およそ300トンの雪をここに運びます。
・・・って300トンてどのくらいかよくわかりませんが、とにかくカメラには収まりきらないほどの山のような雪をブルドーザーで運び入れるのです。

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ここに入れるときは、私たちのような見学者の目を意識して、できるだけ表面がボコボコではなく、滑らかになるよう「美しく」雪室を作っているのです。
雪室の外観まで気にされるなんて、すヴぁらしいプロ意識ですね~!本名さんの仕事に対するポリシーを感じます。
この表面の美しさは本名さんの腕(!)があるが故にできた自慢の雪室なのです。

雪室の中はジンワリと寒い・・・って妙な表現ですが、入った瞬間は涼しくて気持ちよく、徐々に体が冷えてきて手先が冷たくなり、寒く感じるようになってきます。そして、まるで半袖やシャツ1枚では居られなくなるほど。
この雪室は集荷場での一時保管場所の冷気を作るためのものです。


DSC09264.jpg雪室の向こうにはカスミソウの冷蔵庫兼開花室があります。雪室から送られる冷気が約7℃。雪室内は3℃ですが、配管などでロスがあるため、このくらいの温度になります。ここが冷気の通り道。この冷気と外気と合わせ冷蔵庫の空調(温度と湿度の管理)を行っているのです。
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では本名さん、雪室を出たところで冷蔵庫を拝見したいのですが、よろしいでしょうか?

アレ??c(゚.゚*)。。。


本名さん?本名さァーーーん!
どこですか?キョロ(゚.゚*)(*゚.゚)キョロ
本名さんが消えた?

「ああ、ごめん、ごめん。メガネが曇って前が見えなくなっちゃった・・・」
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雪室内ですっかり冷えて、出てきた途端に曇ったメガネで視界をふさがれた本名さんは、立ち往生されていました。
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曇りガラスをふき取ったところで、冷蔵庫にご案内いただきましょう。
「冷蔵庫」といっても侮るなかれ、ただの冷蔵庫ではありません!「多機能冷蔵庫」です。
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採花したカスミを出荷前に一時保管するばかりでなく、開花調整室にもなっているのです。
温度が下がってくる秋口や雨続きで水揚げが思わしくないときは、照度と湿度を調整し、ここで開花を促進するのです。

こちらは↓先ほどの雪室と外気をミックスして、カスミにとってちょうどよい空気を作り出す「ミキシングルーム」です。
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(暗いのでうまく写真が撮れませんが・・・)

カスミにとって最も快適な空気は・・・
温度 13℃
湿度 65%

この状態をこの部屋で自動的に作れるようになっています。

天井にぶら下がっているこの大きな靴下のようなものは何ですか?
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「ソックダクトっていうだ。靴下(ソックス)のソック。
カスミソウはデリケートで傷みやすい花だから、直風が当たるとすぐに傷んでしまうんだ。だから、このソックダクトを通してじんわりと、やんわりと風を送るんだよ」

なるほど~。送風のときには靴下がこのように膨らみます。随所に見られる商品品質向上への配慮ですね。
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    ↓ 
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そこで疑問が浮上。。.::・゚なぜ昭和花き研究会ではカスミソウを生産しているのか?なぜ会津で造形深く農業を営む菅家さんが、あえて選んだ品目はカスミソウなのか。

はいはい、それではお答えしましょう!(ウン探の出番です!)
菅家さんは学校をご卒業されてから、農協でアルバイトをされていました。
「3年間ね。集金やら練炭の配達やらだよ」
しかし、ココ昭和村ではもともと炭焼きと葉タバコの生産が盛んで、菅家さんのお父上は戦後からずっとこのようなお仕事に従事されていたので菅家さんご自身もそれを手伝うようになり、農協のアルバイトを辞めてから7年間は、葉タバコなどの生産に携わっていました。


ところが・・・!∑( ̄ロ ̄|||)!?

1985年、日本専売公社が日本たばこ産業株式会社(JT)に民営化するとき・・・電々公社(ナツカシッ!)がNTTに民営化、国鉄(コクテツ)がJR(ジェイアーゥ)に民営化されたその流れですね・・・JTから「昭和村のタバコは買いません」というお達しがあったそうな。

その理由は、昭和村のたばこの作付面積が少なく、不採算地域としてみなされてしまったからです。質は良いけど収量が不十分ということで葉タバコを生産し続けることが難しくなってきた。

そこで、隣の田島町で成功していた例に倣い、カスミソウの栽培を始めたというわけです。それが昭和花き研究会誕生のきっかけとなり、1984(昭和59)年設立。85年にはタバコ生産を止めた人たちが続々と仲間入り。

その時に菅家さんも声をかけられて昭和花き研究会に入ることになったのです。


1980年代といえば、カスミソウが一世を風靡していたころです。どのようなシーンでも花のあるところには必ずカスミソウが入っていました。

例えば・・・
山口百恵ちゃんの引退コンサートを思い出してください!

♪Thank you for your everything, さよならの代わりにぃ~
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日本武道館で白いマイクをステージに置いて去っていったあの姿。
思い出してください、あの時、百恵ちゃんが頭に装飾していたのは・・・・


(諸事情により思い出せない方はすみません)


な、なんと   カスミソウ!ギョギョッ∑(゜◇゜;)
そうだったぁ~!!アタシも今度、頭にカスミ付けよっと(-.-)


レコ大(レコード大賞)でもカスミとカトレアの組み合わせで、受賞者の胸にコサージュが付けられていました。
そうそう、そうだった!このように、昭和50年代後半はカスミソウの最盛期であったことがよくわかります。

「あの頃はカスミソウは卸値が1本300円くらいだったんだよ。まさにカスミソウ史上最盛期だね」
ナント、卸で300円とは空前絶後の奇跡的な価格!!


話を元に戻しますが、1985年に発足した昭和花き研究会は、5年間で総面積34ヘクタール、28年経った現在ではほぼ横ばいの32ヘクタール。2ヘクタールは自然減によるもので、減少は特筆には値しません。むしろカスミソウの需要は平成を迎えてから下降傾向だったにもかかわらず、ほぼ変わらない生産面積を維持できるというのは、スゴイことなのです。


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時代の流行り廃りに振り回されず、よく同じ栽培面積を維持されていますね。
「うちはねずっと連作しているんだよ。発足以来ずっとね。でも連作障害が出たことはないんだ。土壌消毒も1度もしたことはない」


え??土壌消毒せず、30年近くも連作って可能なものなのですか?
「この辺りは多雪地帯でしょ。冬はハウスのテントを外すんだけど、そうすると積もった雪が解けるときに土壌を洗い流してくれて、土がきれいになるんだよね。だから消毒いらずなんだ。


MPSMPSmark.JPG昭和花き研究会のうち私を含めて8人がに参加しているけど、評価は92点でA評価。
このような昭和村の自然を生かした農業を行っているけど、それを客観的に評価する尺度ってこれまでなかったでしょ。自分たちにとっては当たり前のことをしているのだけど、MPSに参加して(良い取り組みをしているってことが)初めて評価されたんだよ」


どちらの農家さんも病気を出さないように土壌消毒はなかなか苦心されていることと思いますが、ここ昭和村ではその自然の恩恵に充分にあやかり、化学肥料や農薬などを一切使わずに30年間栽培を続けているのです。

自然を生かした農業へのアプローチはそれだけではありません。
こちらをご覧ください。
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腐葉土です。

これを肥料にしてポット苗用の土壌に使用します。

これらは昨年の秋に周囲の森に生えるブナやコナラ、ミズナラなどの広葉樹の落ち葉を堆肥にしたものです

これに米ぬか↓を発酵剤として混ぜて置いておきます。
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米ぬかはビタミンなので、落葉と混ぜておくと微生物が増え、臭くなりません。

苗土の3分の1にこうしてできた腐葉土、3分の1に地元で採れた籾殻を炭化させた籾殻くんたん、あとの3分の1に土を混ぜ、苗土を作ります。

(↓籾殻)
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(↓籾殻くんたん)
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(↓腐葉土と混ぜてできた土)
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このように森(FOREST)の恵みにあやかり栽培出荷しているのが、品種名FORESTという商品。


「ポット用土は自分たちで作る」これが菅家流。
人工の肥料に頼らず、山や森で得たもの、日ごろの農業による産物を最大限に生かし、次の農業に再利用する。森との共存。
これが「生まれた土地で農業を行うということ」と菅家さんは言います。

なるほど~。先ほどの雪室といい、雪による土壌洗浄といい、自然のパワーを最大限に生かした農業ですね。また、電力を使わずに地元で採れるものを最大限に利用する地元農業の叡智には頭が下がる思いです。

今度はこちらをご覧ください。
これは森の広葉樹の切り枝ですが、何に使うと思いますか?
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ヒント:昭和村の方々はこれを「手」と呼びます。


これを使って3メートル先の人の肩を叩く・・・

・・・わけではありません。ヘ(。。)☆\(゚ロ゚ )ンナワケナイヤローーーッ!

答え:野菜などを栽培する際の支柱として使います。
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「手」と呼ぶのは、植物の生長に「手をくれる」の「手」です。特に蔓物は支柱によく巻きつきますから、直射日光に照らされ熱くなったプラスチックの支柱は植物に良い影響を与えません。


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「オーガニックな畑はホームセンターには売っていない。
自分たちが森からの賜り物として毎年新しいものを頂戴してくる。ここに昭和村の農業の精神性や森とのかかわり方があるんだ」


福島第一原発が爆発したときには、親切にも周りの人から外国の土地を借りて生産できるようお手伝いのオファーがあったそうです。しかし、菅家さんはあくまでも"地元で"農業を営むことに意義を見出しているのです。

菅家さんが昭和花き研究会の会長になられた1995年、当時はバブル崩壊後でカスミからバラ生産に転向しろと言われたり、2000年ころにはトルコギキョウを作れとか、いろいろな方からアドバイスをもらったといいます。

「でも、作るものを変えたらそれまでに蓄積された努力は水の泡。作るものを変えずに、作り方売り方を変える。社会に合わせる。だからこそMPSに参加したり、エコファーマーを取得したり、染めカスミに取り組んだり・・・」


なるほど主軸はぶれてはいけません。商品は変えずに、商品の文化性を時代に合わせてシフトしていく。昭和村の農業の神髄ですね。

昭和村では、600年ほど前から(!)からむし(イラクサ科のカラムシという植物から採る繊維。麻に似ているが、漁網にも使えるほど丈夫)の生産が盛んで、「からむし織の里」と呼ばれています。
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紡績が得意な日本でこのからむし織は大変盛んになり、昭和30年代までは全国で行っていました。

しかし、現在では八重山と石垣、宮古とここ昭和村でしか行っていません。なるほど、昭和村以外は遥か南の離島ばかりです。

「そう、最後まで止めないことが価値の創造に繋がるんだよ

アタタタッ(ノд-。)。三日坊主組のウン探取材班としては心に響きます。ズシーン!

なるほど、だからこそ昭和花き研究会は発足以来栽培面積を減らすことなく、カスミソウの生産に特化し、そのメンバーのほとんどがカスミソウの専業農家としてやってこれているわけですね。全国でもカスミの生産地として確固たる地位を築いてきたのです。

それは頑固一徹に一つものを作り続ける職人というのとは違います。社会の要請に応えるために、その商品の作り方やPRポイントはシフトさせます。移り気な時代に対して都度生産品目を変えていたら生産者としてのアイデンティティーは失せてしまいます。ならば商品の付加価値を変えて売っていこうという考えなのです。


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106d.jpg消費者の皆様へお伝えしたいこと  原発の影響は?

ご存知の通り、本年3月15日福島第一原子力発電所は、世界に甚大な影響を与えるほどの深刻な爆発を起こしました。

続く3月25日、原発からの距離に関係なく福島県下全域で土壌の安全性が確認されるまで農作業は中止という要請が出されました。ちょうどカスミソウの定植の時期に当たるにもかかわらず、農作業ができずに大変歯痒い思いをしていました。

4月20日安全宣言が出され、菅家さんは翌21日に定植しました。
ですから定植後50-60日で出荷するはずの6月、及び七夕前までの出荷量は半減してしまいました。菅家さんも少なからず原発による被害を被っています。

しかし、菅家さんの出荷に対する姿勢は前向きです。
現在出荷しているカスミに関して、青果物などの放射能測定を行っている横浜の某大手研究機関に放射能検査を依頼しました。
すると6月21日付けでこのように報告されました↓
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何と書いてあるのでしょうか。
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昭和花き研究会宛てね、フムフム。

分析結果は・・・?ND.jpg


NDとはNot Detected=検出されなかったということです=^-^=うふっ♪


加えて「結果注釈」 ヨウ素 セシウム 不検出とまで書いてある。
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更にはダメ押しのように「本会のカスミソウを検査した結果、上記の通り安全です」って(≧∇≦)!!
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ヤッタ(*^^)v
昭和花きのカスミは安心安全の商品であることが第三者機関により証明されました。
定植遅れから、まだ出荷量が少ないのですが、7月11日からは通常の出荷量に戻りますので、引き続き応援のほど宜しくお願い致します!


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106d.jpg蛇足的ですが・・・

カスミソウの名前の由来は、ご想像の通り全体に白く「霞み」がかった感じになることから。


地中海沿岸原産で、日本へは1879(明治12)年に入ってきました。その頃の名は「コゴメナデシコ」

「コゴメ」とは、お米を収穫したときにできる規格外の小粒のお米のことです。小粒のコメだから「コゴメ」。「小米」と書きます。
カスミソウがこれに似ていたことから、当時このように言われました。なかなか言い得て妙ですね。

しかしながら昨今のカスミソウはお米の何倍も大きく小米どころではない。名前も変わるわけだ、コリャ。
更に進化して最近のカスミソウは、もはや"霞みそう"ではないんちゃうかと思うくらい大輪で存在感大。ダイズナデシコくらいの勢いではありますが、これはそれほど美しい名前ではありませんね・・・^_^;

なるほど、菅家さんのカスミソウもこんなに大輪。
左は大田市場で見つけた他産地のカスミソウ。右は菅家さんので、任意に選んだ一輪です。
<大田市場内>                 <菅家さん>
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こんなにも違うんですね。

ん?コゴメナデシコ・・・「ナデシコ」?
コゴメは理解したとして、ナデシコって何?


そうです。カスミソウはナデシコ科なのです!
良く見ると、カスミソウの節はカーネーションの節にそっくり!


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そういうことでしたか、カスミソウがエチレンに弱い理由。カーネーションもそうですが、ナデシコ科には内性エチレンを出すものが多く、出荷元での前処理が必須になります。納得、納得(゚ー゚)(。_。)ウンウン


猛暑日続き、湿度100%近い暑い暑い東京から昭和村への逃避行は、1日限りの避暑取材となりました。
こちらはこの地域の皆様が飲料水としている水です。
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なんとも透き通っていてキレイ! "ちべたーーーーいッ(≧∇≦)"
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昭和村からの帰り道はまるでカスミソウが道路に咲いたかのような霞。
なんとも幻想的です。
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106d.jpg昭和花き研究会の格言!

・ 採花後20分以内に前処理剤に浸けるべし。
  そのためには、圃場で前処理剤のバケツに入れるのがGOOD!

・ 染めカスミは白いカスミの品質改善手段でもあると心得よ。
  前処理剤を吸収しているかどうかは、染料を吸わせないとわからない!
  つまり、そのカスミが長持ちするかどうかは染料が証明してくれるということなのでアル。

・ 時代に合わせてチェンジするものは、作付品目ではなく商品の文化性とPR方法。
  最後までその品目を作っていれば、トップになれる!

・ 地元で農業を営むことの精神性を見直してみよう。
  大地に感謝し、自然の恩恵と森の恵みで持続可能な農業を実現すべし。
  皆さん、森を大切に♪


106d.jpg今日の四字熟語
・  高温障害
・  栄養生長
・  生殖生長
・  花芽分化
・  到花日数
・  小米撫子(=コゴメナデシコ)  カスミソウの旧名でした。
・  菅家博昭 さん  また逢ふ日まで。

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<写真・文責:ikuko naito@花研>
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