ヒント:海に囲まれていて観光客は船で訪れる。
ヒント2:標高が高いところからの見晴らし。
ヒント3:馬
ヒント4:巨大地層
ヒント5:パッションフルーツ(ジュース)
う~ん、あまりヒントになっていないかもしれないので、わからなくてもお気になさらないでください。
そんなヒントの中でも「伊豆大島」とお答えになった方は大正解◎!サスガ!
ナントこのたび、産地ウンチク探検隊は、山手線から最も近い伊豆諸島こと「大島」にランディングいたしました!!
オメデトウ*【祝】*:・゚\('∇'*)*:・゚*:・゚
伊豆諸島といえども「伊豆」とは名ばかりの東京都ですが、東京都内で生産される多くの切り花は、実はこの伊豆諸島で生産されているのです。
その花き生産で有名な伊豆諸島の一つが大島。
とりわけブバルディアにおいては全国トップクラスの名産地。
その名産地に、昨年4月に新しくブバルディアの生産法人が誕生しました。
その名も「大島みらい農園」。
昨年、ウン探が送り込んだ産地ウンチク偵察隊の情報によると、どうやら新規生産者さまは尋常ならぬ様子。本土から若い人たちが集まりなにやら都会のストレスを拭い去り、かなり楽しそうにブバルディアを生産されているというではないか。
これはなにか秘密がありそうじゃ。
産地ウンチク探検隊としては放っておけぬと、使命感から訪問に至ったわけです。
※産地ウンチク偵察隊とは架空の部隊ですのでご了承ください(笑)!
秘密を知っているかもしれないと偵察隊から紹介されたのは、東京都大島町役場観光産業課農業係主任の雨宮祐一郎(あめみや・ゆういちろう)さん。
この並々ならぬ目ヂカラが、大島町のすべてのことをご存じであることを物語っています。
早速「大島みらい農園」さまへ。
ここで大島みらい農園さまの基本情報。
圃場面積1.3ヘクタール、露地とハウスとでブバルディアを中心にハランのほか、野菜(島唐辛子を含む16種類)を生産しています。
雨宮さんがこの新規産地の真の姿を明かしてくれました。
「実は、大島みらい農園とは大島町新規就農者支援研修センターの屋号なんだ。
新規就農者支援研修センターとは、島内農業者の担い手確保のために、島内外からやる気のある方を対象に、島内にいる現役農家が実践的に指導することで、短期間で就農を目指すという企画です。
平成27年の4月立ち上がった就農支援プロジェクトだよ。」
平成27年4月・・・というと昨年の4月からスタートして今ちょうど1年半といったところですね。
「農地は大島町が借り上げ、生産圃場としているんだ」
なるほど~。その力強い目ヂカラとは裏腹に、とても優しくまろやか~な口調の雨宮さん。
そこで生産されている花こそブバルディア!
ブバルディアとは、別名ブバリアと呼ばれることもありますが同じ花を指します。(今回は時々略して「ブバ」と呼ばせてくださいませ)
和名を管丁子(かんちょうじ)といいますが、管状の丁子(クローブ)と思うと、なんだか言い得て妙ですね。
←クローブ。確かにブバルディアの一つ一つの花に形が似ています。
なぜブバルディアをメインに生産されているのでしょうか。
「大島では昭和28(1953)年にブバルディアの生産を始めたんだ。ブバルディアの生産は全国でもパイオニアと言っていいと思うよ。
しかも、ブバルディアは通常は季咲きで秋に開花するものだけど、大島で周年栽培の技術が確立されたんだ。
その技術と生産力を生かして、みらい農園でもブバルディアを栽培しているんだよ。」(←まろやか声で)
周年栽培の技術が確立してからというもの、大島では年3回の収穫期を迎えるようになりました。その分生産量も増えることとなり、この技術が次第に国内の各産地に浸透していったのです。
では、この大島町就農支援プロジェクトの研修生をご紹介しましょう。現在3名いらっしゃいます。
まずおひとりは、山口芳和(やまぐち・よしかず)さん。
埼玉県上尾(あげお)市のご出身のIターン生。
プロジェクト開始当初(昨年の4月)から研修されている第一期生です。大島の未来を作る元祖研修生ですね。
こちらのお二人は、第2期生の石川ご夫妻。栄貴(ひでたか)さんと陽菜子(ひなこ)さんです。
「陽菜子さんは、ウチの大島優子(元AKB)ですよ」と雨宮さん。
あ~、なるほど大島町だけに!確かにカワイイ!ナットク(゚▽゚*)!!
栄貴さんは大島ご出身。大学時代に農業を学びに本土の大学へ。そこで陽菜子さん(神奈川ご出身)と出会い、東京での会社勤めを経て、現在は大島に戻り、Uターンで研修制度を活用しています。
山口さんは、なぜ大島で農業研修をしようと思われたのですか?
「以前からリフレッシュを兼ねて、趣味の旅行で大島にはよく足を運んでいたんだ。」
大島のいいところはどのような点ですか?
「景色もきれいだし、一つの島でこれほど豊かなところってそれほどないかなって。東京都心からも近くてアクセスしやすいしね。
3-4年くらい前から通い始めたんだ。」
曰く「通う」ほど大島への旅がお好きな山口さん。当初は日帰りで訪れていましたが、それが1泊で通うようになり、そのうち2-3泊するようになり、徐々に泊数が長くなって気付いたら"住んじゃった!"という感じなのだそう。
まさに大島に魅了された山口さん。元々田舎暮らしに憧れていたのもあり、大島町役場のプロジェクトに応募しました。
結構なチャレンジだったと思いますが、不安などはなかったのでしょうか。
「農業の素人の私でもできるのかな~なんて思っていたよ。
勇気も必要だったし、周りからも随分と"どうしてわざわざ海の向こうまで行って農業するんだ"って言われたしね。
でも私は、何度か大島に通っているうちに、"海の向こう"という違和感や心理的な距離感も払拭されていたので、ここに飛び込むのは問題なかった。
プロジェクトは立ち上がったばかりだったので、一期生として何でも思ったことを実現していけるのではないかと思ったんだ。」
引っ越してきて研修生となると住まいがどうなるのか気になるところですが、研修生は大島町役場借り上げのお部屋に住まわせてもらえるのです。
研修期間は2年!
ン??では、この2年が終わると・・・?
「独立して営農していきます!」
大島で、ということですよね?
「はい、そのための研修です。独立支援まできちんと受けられるんです。
既に農地の目途をつけていて、そこでブバルディアを生産していこうと思っているんです。」
山口さんが来年独立したら、大島の営農プロジェクトの第1号モデルとなるわけですね。
「失敗できませんね!」(・Θ・;)アセアセ...
そうですよ~!山口さん、失敗できませんね。応援しています♪
石川ご夫妻はこの4月に研修生として参加したばかり。
ご両親が農業をしているわけではないのですが、将来的には御祖父母さまの農地を開拓して、ブバルディア生産で独立を目指します。
陽菜子さんにとってこの研修はいかがですか?
「毎日楽しい♪」
ぬぁんと!どのようなことが楽しいですか?
「新しいことばかりですし、これまで大学で学んできたことが大切なんだなって改めて実感することが多いですね。
授業内容も含めてやっててよかったと思うことがたくさんあるんです」
研修で大変なことは何ですか?
「土壌消毒かな~。重装備でやるものですから。」
重装備ってどのくらい?
「マスクを付けて防護服を着てね。作業をするにも動きづらいんです」
「こんな感じだよ」と見せてくれた写真はコチラ★
じゃじゃ~ん!
「コレ、わたし^^」
というのは陽菜子さん。
カッコイイ~(≧∇≦)
宇宙服のようですね!
何がカッコイイって陽菜子さんの立ち方がカッコイイです!
連作障害を避けるため、土づくりのためにも植え替え時に土壌消毒は基本。不織布でできた防護服を着て、仕事をする人の健康を保ちながら進めていきます。
栄貴さんにとって、大島での研修生活はいかがですか?
「新卒の時は東京で会社勤めをしていたときは営業をしていましたが、都心のコンクリート砂漠で朝早く満員電車に乗って、夜遅く帰宅して、寝て起きて、また満員電車に乗ってという生活をしていたら、ストレスも多いことでしょうが・・・」
あ~、アタクシ、今そんなカンジの生活しています・・・
(-▽ -;*)ゞアハハ
「そのような生活に私もピリオドを打って、心豊かな生活に戻って良かったと思っています。
ここに来れば、太陽とともに起きて、今日も疲れたな~と思ったら海岸線に出て、きれいな夕日を眺めながら心を休めれば、ストレスも吹き飛びます。人間性を取り戻すこともできます!
←陽菜子さんが撮影した夕日
星もこぼれ落ちてきそうなくらいきれいですよ☆」
会社勤めで営業をしていて、農業へ転職されたことについてはいかがですか?
「営業の時は会社の商品を販売していました。会社の商品は自分で企画したものでもなければ生産したものでもない。
だけど、花や野菜は自分で作ったもの。
他人が作ったものを販売するよりも、本気になれるし、お客様に喜んでもらえることでなによりやりがいを得ることができ、この仕事をやっていて良かったと思えるところです。
夏は暑いし体力的に厳しい点もありますが、やはり"楽しい"方が勝ります。」
農産物生産は商品のメーカーであり、営業でもあるわけですから、販売結果やお客様の声が成果として全て自分に返ってくることが何より楽しいとおっしゃいます。
そしてもうおひとりご紹介させてください。このプロジェクトに欠かせない方がいらっしゃいます。
この就農支援プロジェクトでは地元の農家・関係機関が協力して、より実践的な農業を学んでもらうために研修カリキュラムを組んでいます。
そこで、現場を知り尽くしたブバルディアを含む切り花類の講師、営農指導ご担当の五味秀策(ごみ・しゅうさく)さんです。
五味さんは、大島の西側に位置する神達(かんだち)地区でブバルディアを生産されていた五味文明(ごみ・ふみあき)さんのご子息。日本のブバルディア栽培のサラブレッドとあれば、そりゃあもう品質を見る厳しさは尋常ではありません。
2013年の土石流災害で約1.4ヘクタールの圃場を消失してしまいましたが、着々と復活の準備をしつつも、研修講師として力を貸してくださっています。
しかも、五味さんは8年間、島外の某生花店さまでお勤めされていました。店長経験もです。
生産に加えて小売りのこともよくご存知!生産と小売と両方における豊富な知識と経験を生かしてご指導にあたっています。
五味さんのお父様がブバルディアの生産を始めましたが、お父様がブバルディアの生産を始める前までは「馬方(うまかた)」といって、観光客を馬に乗せて引くお仕事をされていました。
馬方というこのお仕事、「馬は馬方」ということわざがありますが、「何事も専門家が一番」という意味。その専門家の象徴的なお仕事としてことわざになるくらい、馬方とは奥が深く、昔から専門性の高い職業なのです。
三原山が大きな観光資源の大島では、登山が人気で、馬方への需要が非常に多かった。そして当時の給料も良かったんです。
それなのになぜお父様の代でブバルディアを作り始めたのでしょうか。
「父はちょうど私が生まれた昭和50年にブバルディアを作り始めたんだけど、もしかしたら将来馬だけではやっていけなくなるかもしれないという危機感があったんじゃないかな。
決して当時は馬方の所得は低いものではなかったんだよ。
なにせ、1日お客様を乗せていると、多い日で公務員の月給くらいの稼ぎがあったのだから!!」
w|;゚ロ゚|w ヌォオオオオ!!
よもやウン探の聞き間違いか?
い、いま、五味さん、「1日で公務員の月給くらい稼ぐ」とおっしゃいました??
「そうだよ。」
すンごいw(゚o゚)wオオー!アゴ外れる。
昭和40年代の離島ブームで、大島でも来島者が年間84万人(現在は30万人弱)と爆発的に増加したこともあり、観光客が途絶えることがありませんでした。それだけに馬方さんの収入も良かったわけです。
「だけど天候にも大きく左右されるし・・・農業もこの点は同じだけど、観光客がいなくなれば仕事もなくなる。
環境に左右される要素が大きく、自分でがんばればなんとかなるというコントロールできる要素が少ないよね。
現に1986年に三原山が噴火して以来、観光客は激減した。その後も細々と続けていた人はいたけど、実際に今は大島に馬方さんはゼロなんだ」
羨ましいほど稼げたお仕事だったのに、数十年でゼロですか・・・(+_+。)。。。時代の変化早し。
その馬方さんの将来性を見越して、五味さんのお父様はいち早く馬方業を切り上げて農協生産に移行されたわけですが、ブバルディアに目を付けられた理由は何でしょうか。
「ブバルディアの新品種が日本に導入されたとき最初に紹介された地域はこの大島なんだ。
導入されたばかりの新品種はほかの農家さんが作っていない分、出荷量が少ないから当初は高値で取引されていたし、やりがいもあった。
また、生産を続けていく中で、ブバルディアが大島の環境に合っているという実感があったんだろうね。」
やはり「馬は馬方」、「ブバは大島」ですね。
土壌、気温、日照などに加え、もう一つ"環境に合っていた"という理由があります。
「生産の坪効率も良くてね。つまり、生産性が高いということ。しかも、生産した花をどーんと市場に送れたんだ。
大島からの場合は市場に花を送ろうと思ったら、船しか手段がない。昔は今より送料も高くてね。今のように1箱50本入りで送るわけにはいかない。運賃はかなり高額になってしまうから。
そこで・・・」
そこで?c(゚.゚*)?
「大きな箱400-500本入れて各市場へ送っていたんだよ。」
そんなにたくさん!まるで今の輸入品のようですね。輸入品なら成田空港で小分けにリパックされて市場に届きますが、まさかブバはそのまま売るなんて・・・?
「いやいや、大島のブバルディアも小分けにしてもらっていたよ。当時は各市場の人がやってくれていたんだよね。」
毎販売日ことに1ケース400-500本入れて何ケースも出荷するなんて!
「大島はブバルディアの先駆けだったから、よく売れたんだよね」
それはやりがいがあったでしょうね。
さて、ここでせっかくですからブバルディアの生産を拝見いたしましょう。
本来秋にしか咲かないブバルディアを年3シーズン出荷されいますが、どのように開花コントロールされているのですか。
(山口さん)「電照とシェード(遮光)コントロールするんだよ。」
電照とシェード↓
「ブバルディアは、キクやコスモスなどと同じ短日(たんじつ)植物。つまり、日照時間が短くなると開花する植物。
そこで、人工的に日照時間をコントロールして、秋以外も日照時間が短くなったことを感じさせて、開花に導くんだ。」
なるほど!
大島は火山でできた島と伺いましたが、何か土壌に特長はあるのでしょうか。
「砂壌土(さじょうど)。つまり砂質の土なんだ。
本来ブバルディアが好む原産国(メキシコ)の土壌条件に適合しているんだ。」
触ってみると、土はふかふか~ん(´ー`)!!
土が柔らかいのはやはりブバルディアにとって好条件なのですか?
「そうですね。
・水遣りがしやすい
・肥料を吸収しやすい
・根の張りがよくなる
というメリットがあるから、土壌はいつもフカフカな方がいいんだよ」
木本性のブバルディアは、その土壌でしっかりとした株に生長します。根元をご覧ください!
最も品質と収量のバランスが安定するのが2年目くらいの株。
1株を3~5年栽培し、収穫します。1株から収穫できるのは年間10本ほど。
「1回につき1株から3本ほど採れて、1年で3シーズンあるから1年で1株10本程度。」
と五味さん。
3シーズンはいつごろなのでしょうか?
「各農家さんによって定植時期などの違いもあり、まちまちなんだけど、大きく括れば春の時期、夏の時期、秋から冬にかけての時期です。」
従って今がそのシーズンヽ(^◇^*)/ !
ご覧ください!出荷までもうすぐな感じのこのツボミたち!
ブバリアの切り前(採花のタイミング)はどのように判断するのですか?
(栄貴さん)「ツボミがふくらみ、その花本来の色は十分載っているけど、開花前という状態でバシッと切るんだ。
八重のものだったら1-2輪咲いていても大丈夫。
これは確実に"今日切ります!"というタイミング。
たとえば、この品種(八重)でいけば、左くらいがちょうど切り時。右は早いんだ。色が十分に載っていないでしょ。」
ちなみにこちらの品種名は「ナオミ」。写真より実物を見ると、浮かび上がるような透明感のある美しい品種です。
大島の農家さんたちの中では、ファッションモデルのナオミ・キャンベルさんに因んだネーミングであると噂されています。
・・・もし本当だとしたら、すごいトリビアです。
(雨宮さん)「花開いたときはすごいと輝きで、スーパーモデルを感じるでしょ!?」
感じます!!o(>▽<o)(o>▽<)o←一同共感
ついでに言ってしまえば、「ブバルディア」という名前も人名に由来しています。その人こそ、フランス国王ルイ13世の侍医、兼パリ王室庭園の園長シャルル・ブヴァール氏(フランス、1572-1658)です。ブヴァールさんからブバルディアの名前が付いたというわけですね。
あれ?
ハウスのすぐ横の藪に・・・
なにやら実がなっていますが・・・これは何の実でしょうか?
(雨宮さん)「これは藪椿(ヤブツバキ)だよ。防風林として使っているんだ」
あは~、なるほど。これは失礼いたしました。藪ではなくて防風林だったのですね。
さすが海に囲まれているだけありますね。しかもヤブツバキってのが大島らしくていいじゃあーりませんか。
「そう、防風林として使い、実からは副産物としてツバキオイルを生産するんだ。」
無駄がなくていいですね~!すべてが効率的に循環していく。自然との共存・共栄を図る地域の人々の知恵そのものです。
①秘密の花園
あれれ??なんだかこの畝にはブバとは異なる葉が芽を出していて、雰囲気も少し違うような気がするのですが・・・これは何でしょうか。
公称ブバルディア生産がメインといいつつ、なにか秘密アイテムを隠し持っていらっしゃるのでしょうか??(ー∇ー;)
(山口さん)「これはストックだよ」
なぜ、ストック?
「ブバルディアの出荷ピークの3回のうち、そのスケジュールから外れる期間を有効に使うために、季節的にちょうどいいストックを定植してみたというわけ。
ちょうど今の時期に定植すると、今冬から年明けくらいまでのブバルディアの出荷がない時にストックの花が咲いて出荷できるから。」
なるほど圃場の稼働率を上げるために生産を始めたわけですね。
②秘密の海藻
ちょっとマッターーーーー(゚Д゚;)!!
危うく素通りするところでしたが、これまで何十軒、何百軒と圃場を訪問させていただいたウン探でさえも、なんだか見慣れないものが畝に敷き詰めてあります・・・なんじゃこれ??σ(;;;ФωФ;;;)'ナンデショゥ???
(石川さん)「海藻だよ。」
か、か、かかかかかかか、海藻??
これがッ??
(雨宮さん)「大島はところてん作れるヤツも採れるし。」
え、まさか天草(てんぐさ)??
石川さん「そう、天草も混ざっていますよ。」
え―――――、どうして、どうして?(°‐°?)(。‐。?)どこからどうやってここにそんな海藻が辿り着くのですか?
石川さん「この近くの野田浜というところがあってね、そこに打ち上がる海藻を4人(研修生と五味さん)で採ってきたんだ。
軽トラの荷台一杯分くらいね。」
ぎょえ~~~w( ̄Д ̄;)w
海藻を圃場に敷き詰めるとは!?何のためにでしょうか。ミネラル補給ならウン探の顔にも敷き詰めてほしい (○。○)!!
(石川さん)「ある農業書を読んだときに、土壌に必要な微量要素のミネラル分を海藻で補えるという記載があったんです。そこで、五味さんにやってみませんかとお伺いしてみたら・・・」
みたら・・・?
「"やってみましょう!"と五味さんが言ってくれて、早速やってみたってワケ。」
おっと、さすが五味さん。研修生の師匠であり、応援隊長でもあるんですね。
そこでみんなで採りに行ってみた・・・という実際の写真↓
(石川さん)「研修農場だから何でもチャレンジさせてくれるんですよ。自分でよさそうだなと思ったものは試すことができるのも、大島みらい農園の特長だよ」
海藻の効果は?
「今、敷いてからから2週間くらい経過するのですが、なんとなく葉の発色や生長が違うような気がします。
あと1か月くらいすると差がわかるんだけど、今の時点では何とも言えないかな~」
そのほかに、研修生のみなさまで考えて何か試してみたことはありますか?
「研修材料としてブロッコリーがあるんだけど、食べ物だしあまり農薬を使いたくないので、ミントの葉を煮出して吹きかけてみたんだ」
すると?σ(゚・゚*)
「モンシロチョウが減った・・・ような気がする~!」
"気がする"OKです!
(石川さん)「基本をしっかりすれば、研鑚を積んで新しいことをやってみようよという姿勢に対し、五味さんはいつも賛成してくれて温かく導いてくれるんです。
"失敗も経験だから"とよくおっしゃってくれるんです。」
スヴァラシー\(*^▽^*)/
そのほか、サツマイモやオクラなど、少しずつ多種の農産物を研修材料として栽培し、総合的に独立に向けて農業を学ぶ。このように研修生のアイディアを前向きに捉えて、「じゃあやってみよう!」と応援してくれる素晴らしい仕組みになっているのです。
こちらは石破茂議員が地方創生担当大臣だったときに作ったRESAS(リーサス)という地域経済の分析ツールを使った大島のデータ。大島の農業の中における分野別販売金額を示しています。
大島の農業生産の中で花きは圧倒的大品目。
それには理由があります。
実は江戸時代、米を作りにくかった大島では、年貢として米の代わりに塩を納めていました。
塩だなんて!大島らしい年貢ではありませんか。
何せ古代ローマ時代、お給料は塩で払われたというくらいですから(その通りsalary"給与"の語源はsalt"塩")、古今東西、人々の生活にとって塩がいかに昔から重要なものであったかよくわかりますね。
昔も今もミネラルをたくさん含んだ塩は人体の活動を維持するのに欠かせないもの。
現在においても工業用を含めおよそ85%が輸入に頼っているくらいですから、昔から大島の塩は貴重なものだったのです。
(雨宮さん)「塩のほかに薪(まき)を年貢として江戸の御上に納めていたんだ」
薪ですか!
今でいう石油のように重要なエネルギーですから、塩も薪もいずれも貴重な生活資源といえるでしょう。
そこに新しく芽生えたのが園芸産業です。
大島における花き生産のルーツを辿ればそのスタートは大正時代に遡ります。大正5年にはユリ球根の出荷記録があることから、少なくともの時には既に園芸が始まっていました。昭和9年に本土へ定期船が就航すると、花き生産は出荷先を確保できるようになり、切り花生産がさらに盛んに。環境が米作に向かない大島では、将来的にも園芸を伸ばしていくべし!と方針は見えていました。
そこで、今の園芸産業があるというわけでです。
何を隠そう、今日本の花マーケットにブバルディアがあるのも大島が起源です。
そもそもは1953(昭和28)年に、ブバルディアの生産を開始。終戦が1945年ですから、戦後間もなくといった感じでしょうか。波浮(はぶ)という戦後大変栄えた港地区の温室で栽培し、大島全体に普及していったというわけです。
さらには、昭和35-40年、大島の生産者の打越憲太郎(うちこし・けんたろう)さんという方が、ブバルディアがタバコ植物で発見した光週性の質的短日植物と同じ性質を持っているといことに気づき、タバコ短日処理を応用してブバルディアで成功。
大島のブバルディア生産量がアップし安定していたところに、2000年頃からオランダのパテント種苗を買うようになり、品種のクオリティも向上しました。
(五味さん)「パテント種苗はよく改良されている品種だけに、ブバルディアの水揚げも改善。また保冷庫など温度管理設備も充実し始めたこともあり、ブバの日持ちが良くなったんだよ。」
へ~、元々ブバルディアは水揚げイマイチな品目だったのですか?
「悪いわけじゃないけど、ブバルディアは木本性(もくほんせい)の植物なので、アジサイや他の枝物のように元々は水が若干上がりにくい性質があったんだ。
また、エチレン(老化ホルモン)の影響を受けやすい品目でもあるからね」
ブバルディアはアカネ科ブバルディア属の木本性の植物。
花の業界の長い先生方にとっては、ブバルディアは水揚げが悪いというイメージがあるかもしれません。
しかーし!そんなことも今は昔。
ここ10年くらいはきちんと水が上がるように品種が改良され、またエチレン対策としてSTS(前処理剤)を使うことがスタンダードになり、且つ流通管理も適切に行われているので、きちんと水揚げをやったのに水が上がらないなんて、めったに起こらないのです。
新しい生花店さんや日頃からブバルディアを使ってくださる方なら、このようなこともご存知かと。いまどき、
"ブバルディアは水揚げが悪いのよね~"
なんて言ったら、
"あ~ら、奥様、最近のブバルディアをご存じない古い方なのね~('0ノ'*)オーホホッ"
と笑われてしまいますので、ご注意を^^!
大島町役場の雨宮さんは、このプロジェクトが次々と成功し、将来的には大島がブバルディアの生産者でいっぱいになることを目指しています!
う~ん、そんな日が到来するのもきっと遠くありません!
「馬は馬方」、「ブバは大島」!(また言っちゃった^ ^;)
観光客の減少や人口減少が課題の中、今、花き産業を介し、大島町の巻き返しは始まったところです。
・「馬は馬方」、「ブバは大島」!・・・今日、この記事をご覧になった方は、ぜひ合言葉のように覚えてください!
大島はブバルディア生産の発祥の地と心得よ!
・大島のブバルディアは年3回開花!電照とシェードで開花期をコントロール。
この技術が今や全国に普及し、花きマーケットには周年ブバルディアが流通しています!
・今のブバルディアの水揚げは最高!
理由その1:積年の品種改良により、水揚げの良い品種が流通している
理由その2:前処理(STS)技術が確立した
水揚げが悪いイメージを払拭せよ。
・都会の生活に疲れたら、大島の新規就農支援研修プロジェクトに参加せよ!
営農を学びつつ、豊かな自然に囲まれ人間性を取り戻せるでしょう。
・大島の未来に注目せよ!
人口減少に悩む地方都市は少なくないはず。
Uターン、Iターンを望むも、ヘッドハントではなく「人を育てる」ところから始める大島のプロジェクトを参考にしてください!
このプロジェクトは大島町の基幹農作物であるブバルディア栽培を主とした実践的な農業研修を行うことで、大島での栽培技術を継承し、みらいの大島農業を支える農家を育てることを目的として立案されました。
(雨宮さん)「人を呼ぶだけならあらゆる方法で呼びかけができます。
しかし、たとえ、雇用の創出もできていないまま人を呼んだとしても、来てくれた人の人生どうなっちゃうの?というコトになりますよね。
だから、まずは仕事を作る。その仕事に付ける人に来てもらう。そういう方が自然な流れかなと思うんです。
ヘッドハンティングという手もありますが、人を育てるまでに大変なお金がかかっています。そこを無視して、完成した人を呼び込むというのは、私たちとしては虫が良すぎる話だなと思うのです。
人を育てるところから始める。種まきから初めて、大きな産業に育てて、更にまた人を呼び込む。これが大島流です。」(←いつものまろやかな声で♪)
10月1日より正式に大島町役場の募集要項として発表される予定です。
都会の生活に疲れた方は、人間性を取り戻しにぜひ大島にいらしてください!
広葉樹林の森と豊かな海、美しい夕日と星空に囲まれ、おいしい食べ物と心温かい人たち、また明るい将来に満ちたブバルディア生産研修生活があなたをお待ちしております☆
ちなみに雨宮さん曰く、「大島みらい農園」の命名は大田花きの営業員がしたのだとか。
大田花き営業本部・大西瑞希(おおにし・みずき)でございました。
入社3年目の社員ですが、命名をしたのは入社2年目でした。
どうして「大島みらい農園」と?
(大西)「大島町役場の方がいくつか案を持ってこられて、どれがいいかと聞かれたのです。
大島みらい農園さまはこれから未来ある若者を大きく羽ばたけるよう育てて、また次々と研修生を受け入れ、大島のために大いなる未来を託されている農園だなと思ったので、"みらい農園"がいいかなと私自身の意見を申し上げました。
すると、雨宮さんが即決されたのです。」
この思いが実現しますように☆
【三原山】
標高758メートル。
1984年公開のゴジラはこの三原山の火口に落ちてお眠りになったとされています。
【地層大切断面】
太古の昔から大島の火山噴火史を物語る歴史の証人です。なんと100層も積み重なった見事な縞模様はまるで巨大バウムクーヘンのよう。この地層を見るために海外からも多くの研究者たちがここ大島を訪れるのだとか。
【大島から臨む伊豆諸島】
訪問当日はぼんやりとした景色でしたが、大島より南の諸島をいくつか見ることができました。
手前から利島(としま)、その左の手前が鵜渡根島(うとねじま)、その奥が新島(にいじま)です。
ほかにも心地良い温泉があったりみどころもたくさん!多少強行ですが、日帰りも可能ですのでぜひお気軽に大島に足を運んでみてくださいませ♪
<写真・文責>:ikuko naito@花研
※いくつかの写真は東京都大島町役場様、また生産者様にご提供いただきました。
]]>あれ、アレレ??
今度はまた森田さんが新しい小道具を取り出しました。まるでドラえもんのポケットがどこかに付いているみたいに次々と小道具が飛び出します。
・・・こ、これは一体!?産地ウンチク探検隊の取材を通して、数々の生産者様をお邪魔させていただきましたが、初めて拝見する代物です。いや、ここは多くを伺わずに、まずは森田師匠がなさることを拝見してみましょう。(いきなり"師匠"呼び)
その1:カーネーションの葉を任意で採取してくる。
「ツボミのすぐ下の葉がいいな。ツボミがどんどん養分を吸い上げているから、そのすぐ下は栄養がいきわたらず弱くなっている可能性がある」
by森田さん
採取した葉をビニール袋に入れます。
その2:ビニール袋の上からトンカチのようなもので叩いて磨り潰す(樹液を抽出する)
トントントントンッ!
その3:ビニールを強くねじったところでハサミでチョンと穴を開ける。
(ぬぁんと、この度穴開け役という大役をウン探が仰せつかりました!)
「たのんまっせ~ッ!」
と森田さんに言われて俄然ココだけやる気が出る。
その4:穴を開けて抽出した樹液を不思議な小道具に垂らす(ほんの数滴)
アーンド、カバーをして準備完了☆
その5:不思議な小道具を覗き込む ・・・って森田さん、それは何ですか?
万華鏡とかそんな感じ!?
「これは糖度計なんだよ」
糖度計?
カーネーションに?よもやカーネーションも甘い方がいいのですか?
「植物体に十分が糖度があるというのはつまりそれだけ健康体ということでしょ。 健康診断みたいなもんじゃ」
光の屈折率で植物体の糖度を図ることができます。覗いてみるとこんな感じ。
中にはメモリがあって、下の方が緑、上の方が青色に見えます。その境目が植物体が示す糖度というわけです。
今回の検査結果はいかがでしょうか。
「まあまあだな。問題ない」 と森田さん。
一方、葉っぱの色が少しおかしいなと思って森田さんが採取してきた葉の樹液は少し数値が低く出ました。 これも、生産していて植物体に少し異変を感じたときに原因を追究するための手段の一つです。
■森田フラワーガーデンで働く従業員のみなさま
取材で圃場内をウロウロする前に、従業員のみなさまにウン探をご紹介くださいました。
ほッ(*´ο`*)!
これで変質者扱いされずにすみます。よかった~。実はこんな風に取材前に皆様にご紹介いただけるのも結構レア体験だったりするのです。
従業員様とそれぞれされている作業とを一緒にご紹介してまいります。
◇森田さんの右腕:森田さんの奥様
ちょうど収穫をしていた森田さんの奥様。
迷いなくハサミを入れているように見えますが、切り前のタイミング(開花具合で収穫していいか否か)はどのように図るのでしょうか。
「そーねー、難しいポイントではあるんだけど、1本のスプレーカーネーションのうち3輪咲いたら咲きすぎ。
2輪咲いて3輪目のツボミの花弁が十分色付いてきた頃に収穫します。」
↑今の季節ならちょうどこのくらいが理想的。
↓これではまだまだ固い。収穫には早すぎ。
プラス、季節や2-3日先の天気も確認しながら切り前を見計らいます。
森田和友さん曰く、
「切り前は一言では決められない。使う人みなが満足する切り前にするのは、とても神経質なポイントだな」
◇森田さんの左腕:小野さん
森田フラワーガーデンさんでの就労年数が長く、奥様と同様収穫や選別を担当されます。
「女房の次に"おっかない"人」
と森田さんは恐れるそぶりを見せつつも、信頼を寄せます。
取材の時は奥様と同じく、収穫を担当していました。そのほか、選別作業も含め、産地ブランドの確立で重要な作業を任されています。
◇花柄の服に包まれた等々力(とどりき)さん
日焼け対策バッチリ系!見習います!
こちらでは何をされていらっしゃるのでしょうか。
「頭取りをしています。」
頭取り?せっかく花が付いたのに、取り除いてしまうのですか?
「きれいなスプレー仕立てるためには、余計な花や脇芽を取り除く必要があるんですよ」
生産者さんによっては「芽かき」とおっしゃる方もいます。
カーネーションは次から次へと花芽が上がってきますが、スプレー仕立てとして残すのは4-6輪。そのため、1本ずつ確認し、余分な花芽を取り除いていく大変な作業です。
う~ん、でもたくさん頭が出てくる中で、どれを取り除くのでしょうか。判断はどのようにしているのですか?
「まず、最初に開花した一番大きい頭を取ります」
えぇw(゚o゚*)w??取ってしまうのですか??わー、大胆にも!
「そうです。大きいのは取ってしまわないと、他のツボミに栄養が行かなくなってしまいますので、残った花が均等サイズに咲かなくなってしまうのです。
最初の花はどうしても大きくなってしまいますが、スプレーの場合は花のサイズができるだけ揃っていた方がいいので。」
なるほど~。確かに花のサイズがチグハグよりは、このように揃っていた方がきれいですね。
できるだけ均等サイズで開花するようにここで頭取りという作業がキーになってくるのですね。
「そうやって最初に生まれた親を取ったら、その孫も取る」
ま、孫も!?気温が高くなってくる今の時期は、お孫さんの成長も早いので、早く取り除かないといけない。
写真では見えにくいのですが、残しておく花のすぐ横にある小さなツボミを取り除きます。
「残す花の脇にあとから、こういう小さいツボミができるの。これも早めに取ってあげないと、栄養を取られちゃう」
親と孫を取り除いてみると、あら不思議・・・サイズ感が同じツボミが数輪、何ともバランス残るではありませんか。!
これが開花すると、こーなります↓
品種は異なりますが、輪サイズが揃った様子をご覧ください。スプレーカーネーションの立ちの美しさを決めていらしたのも、この等々力さんの作業にかかっていたわけだ^^!
もーこれは気が遠くなるような作業です。
「この作業も午前中の早い時間にやってしまうのよ。午前中の早いうちなら茎がシャキッとして取りやすいけど、10時半を過ぎると気温が上がって湿気も吸って、小さいツボミがしんなりとしてしまうの。
そうすると、作業しにくくなって効率が下がってしまう。 この作業がパパッとできるのも、この時間帯だから。
私は圃場に来たらまずこの作業を優先して行うのよ」
作業効率を上げるために、等々力さんは頭取りの作業を朝一番の仕事にしています。
しかも、1周すれば終わりではありません。 親と孫を取っても取っても、孫が生まれてくるので何周もして最終形に仕上げていくのです。
うんわ~・・・ハウスの中でずっとこの作業はなかなか気が遠くなりますね(*_*;
でも、それだけたくさん取り除いた芽はどこに行ってしまうのですか?なんだか足元を拝見しても取った芽が落ちている様子はなく、とてもきれいです。
「このポケット^^!」
あ!ホント!気づきませんでした! カンガルーの袋のようにくくりつけたエプロンに取り除いた芽を入れて、作業効率を上げつつ、足元が散らからないようにしています。ウン探ではこれを「カンガルーバッグ」と呼ぶことにいたしました!
気が遠くなるような大変な作業も効率化するためにいたるところに生産者さんの工夫が見られるのですね。
◇就労1年の後藤さん
後藤さんは取材当日改植を担当していました。
土耕栽培が残る森田さんのところでは、1年を通して少しずつ改植をします。
「カーネーションは毎年改植が必要なんだ。だから、出荷が終わった畝は根っこごと引き抜くんだよ。」
こちらも大変な重労働です。
ところで引っこ抜いたカーネーションはゴミになってしまうのですか?
「これは山に持っていくんだよ。肥料になるんだ。」
お役目終了の苗はゴミにはせず自然に返し、再生のためのエネルギーとするのです。
◇就労3日目の福澤さん
取材日のほんの3日前から森田フラワーガーデンさんで働き始めた福澤さん。もう、この記事がアップされる今頃は随分慣れていらっしゃるかな~。
なぜ森田さんのところでお仕事しようと思われたのですか?
「花が好きだから」
福澤さんも等々力さんと同じ頭取りをしています。
お仕事はいかがですか?
「仕事自体は楽しいわよ。
でも1日目は仕事に夢中になって水分を摂るのを忘れて、熱中症になっちゃったわよ^ ^;」
ひょえぇ~w( ▼o▼ )w!!初日からまさかの熱中症!?
4月中旬の飯田では外気は20℃も行かないくらいだと思いますが・・・
「ちゃんと"涼しいところからやってね"と言われてそうしていたんだけど、やっているうちに太陽がどんどん高くなって、水分補給を忘れちゃったのよ~。
でも2日目からはきちんと水分を摂ったから大丈夫!」
ハウスの中はカーネーション仕様の環境。おまけに作業は傍で見ているより重労働ですから、くれぐれもご自愛くださいね。
■水揚げ
収穫後はもちろん水揚げ・・・なのですが、 ここにバケツが2つあるのは何のためですか?森田さんに伺いました。
「左のバケツ【A】で茎元を洗って、右のバケツ【B】で水を飲ませるんだ。
【B】はもちろん前処理剤入り。選花場に持っていくまでの短時間ね。」
森田さんは、これらのバケツの水質チェックも定期的にされています。
こちらが森田さんが見せてくださった水質チェックの結果です。シートに丸い跡がついていたら、その水はバクテリアなどの最近が多いことを示してします。
水質検査のシートも
感覚ではなく科学と理論に基づく森田さんの生産ポリシーをここにも垣間見ることができます。
↓写真の下段中央に丸がはっきりと見えるのは、これは【A】の洗浄用バケツから採取したものです。
「だからこそ【A】は頻繁に水を取り替えるんだ」
と森田さん。
バケツ【A】の水が汚れるのは確かにその通り。なぜなら、カーネーションの汚れを洗い落とすための水ですから。
それさえも意識して常にきれいに保とうとする森田さん。ほかのバケツ【B】や選花場の水は台紙とほとんど色が変わらないほど、水がきれいですね。さすが、品質管理の意識が高い森田さんならではです。
「それから選花場でSTS剤(※)を飲ませて出荷というわけだ」
こちらがその選花場。
ちょうどSTS剤を使い水揚げをしているところです。
※STS(エスティーエス)剤とは?・・・Silver Thiosulfate(チオ硝酸銀錯塩)の略です。 エチレンによる老化作用を抑制し、切り花の寿命を長くする前処理剤。カーネーションやスイートピーなどでは標準的に使われています。
あーーーー!
見つけました。この選花場にどこかで見たことのあるものが!?
■フラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2015 新商品奨励賞受賞☆☆☆
これはフラワーオブザイヤーOTA2015の賞状です。何を隠そう、森田さんはフラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2015の新商品奨励賞に輝かれのたのです。
受賞品種こそ、森田さん自ら育種を手掛けた「線香花火」。
以前見つけた突然変異の品種を固定して、「線香花火」と名付け、2015年にデビューし、見事受賞と相成りました。花弁のヒゲのようなものが放射状に飛び出すその様を線香花火に喩えたとは、ネーミングもなかなか言い得て妙です。
その時の賞状やポスターを選花場に掲示して、励みにされていらっしゃるのだとか。主催する私どもとしても嬉しい限りです。
■採花日表示・・・正直であること
輸入品との差別化のために採花日表示をしています。
これは森田フラワーガーデンさまを森田フラワーガーデンさまたらしめる一つの特徴的な取り組みと言っても過言ではないでしょう。大田花きでも1日に何万ケースと全国、或いは海外から入荷がありますが、採花日表示の上出荷している生産地様は片手で足りるほどしかいらっしゃいません。
こちらがその表示です。
ここに森田さんの生産者さんとしての義務と責任感、生産ポリシーを感じることができます。
■生産で最も大切にすること
森田さんにとってカーネーションの生産上大切なことは、水・空気・太陽の三要素であることを前編でご紹介しました。
しかし、本当はそのほかに最も大切にされていることがあります。
「それはやはり人との出会いだよ。
やっぱりとてもいいカーネーションを作ることが最も気持ちのいいことだし、お客様にも喜んでもらえる。それだけに、あらゆる知恵と知識を絞るしかないんだけど、これには限界があって、一人で腕を組んでいるだけではなかなか進まないんだよ。
人に教えてもらったり協力してもらったりして生産は前に進むんだ。」
なにによりこれが森田さんの哲学"モリタイズム"です。
だからこそ森田さんが市場や小売店に求めるものは 「こだま」 です。
☆ここで森田さんよりお取引先のみなさまへ一言
「こだまをください。」
森田さん曰く、
「私の花に対する皆さんの意見を聞かせてください。良いことでも改善すべき点でも結構です。
さもないと、何が正解なのか、何が喜んでいただける商品なのかわかりません。
みなさまに評価していただいた品種も、気付かずに生産を止めてしまう可能性もあります。 是非、皆さんからの声をお返しください。
つまり"こだま"をください」
こだまがなく一方通行では、需要と生産のミスマッチが起こってしまいます。
作る側と販売、使う側のコミュニケーションがなければ、花を通じて生活者のみなさまに幸せを届けることはできません。 これこそ「人との出会い」を大切にする森田さんの信念です。
「市況に見る数字だけではお客様の満足度は分からない。
私たちの業界の目的は、立場こそ違えど、みな"花を通じて生活者の幸せを提案する"というもの。 たとえば私であれば、カーネーションの生産を通じて生活者のみなさまに幸せを届けるというもの。 でも、私がここで花を作って待っているだけでは、本当の満足度は見えないんだよ。
ここに情報の相互性が生まれることで業界のレベルの底上げができるようになるはずだよ」
「こだま」とは本来「木霊」と書きますが、森田さんのおっしゃるこだまは、どのような小さい声でも聞かせてほしいという意味から、あえて「小さい魂(たましい)」と書いて「小魂(こだま)」とさせていただきます。
ぜひ 花に対する気持ちや魂を森田さんにフィードバックしてくださいませ!森田さんは人の心や花に対する魂を大切にする人なのです。
■そもそもなんでカーネーション&ナデシコ??
森田さんはなぜこの飯田という地での生産にカーネーションを選んだのでしょうか。
ここはきっとウン探しか知らない話↓・・・うふ^^❤
「小学校の頃に種苗会社の愛好会に入っていてね。よく"なんとかの会"ってあるでしょ、アレ。
そこに入会してカーネーションのタネを注文しては育てて咲かせていたんだ。」
お~!森田さんの花栽培の才はランドセルを背負っていた小学生の時に芽生えていたのですね。
「なぜそんなことをしていたのか、30-40年経ってから分かったんだけど、小学校の担任の先生が花が好きだったんだな。
その先生の影響があったのかなと思うけど、確かなことは分からない。可能性というくらいだな」
もしかすると、森田さんは生まれながらに何か花と通じ合うものを持っていらしたのかもしれません。
☆森田フラワーガーデン 森田和友さんの哲学(格言)☆
・ 最新が最善とは限らない。生産設備一つにしても理論を吟味し導入せよ。
・ 花生産に必要なのは、太陽・空気・水!
それらの環境を「数値化」して、常に裏付けと理論を以って生産に臨むべし!
・ しかーし!その数値化生産を裏付けるのは「人との出会い」と「心」。
周りの人に教え、教えられ、生活者のみなさまに良い花を届けようという心が森田さんの花を生み出す。
これぞモリタイズム!
・ 情報の双方向性があるからこそ、花を通して生活者へ幸せを届けることができる!
だから「小魂(こだま)をください」。
・ 道を見失ったときは森田さんの花を手に取ってみよ。
森田さんの花から魂を感じれば、何かヒントを得られるかもしれません。
☆番外編 ~竹林探検隊 with森田さん~
森田さんと飯田の山を竹林探検(チクリン タンケン)をさせていただきました!
これこそ「産地ウンチク探検隊」の醍醐味。そろそろ「山地ウン竹(チク)探検隊」に名前を変えようかな??
道なき山の急斜面を竹につかまりながら大股で登ると・・・(森田さんは忍者の如く、すいすいとあっという間に登って行ってしまいますが、お尻の重いアタクシにはひと苦労です^ ^;)
落ち葉が敷き詰められたフカフカの地表と急斜面に足元を取られ、どちらが空でどちらが地面かわからくなるようなめまいに襲われながら、森田師匠を見失わぬよう登りつめると、そこにはなんと・・・ッ!!
春蘭(シュンラン)が控えめに迎えてくれました! あそこにもここにも。
斜面を登るのに夢中だと見落としそうですが、そこはベテランの森田さんが教えてくれました。
「ほらここにな!」と教えてくださる森田さん。
あんりまあ、こんどは竹の陰に隠れニョッコリ頭を出すのは立派なタケノコ☆
立派なタケノコじゃ~。
ウメの実も成り、
4月の飯田の山は、春の恵みに包まれているのでした!
・・・もちろんこれらは鑑賞しただけで、一切採取しておりませんのでご安心くださいませ。
また、森田フラワーガーデンさんがあるこの飯田には、2027年にリニア新幹線が開通する見込みです。 森田さん家至近のまさにココ。
取材当日新宿駅から高速バスで片道4時間かけて訪れたこの地にリニアが開通すると、なんと40分で飯田と品川が往来できるようになります。(名古屋へはわずか20分。車内でおにぎり食べている間に到着やな)
飯田から東京へのまさかの日帰り(!)ももはや夢ではなくなりますね。
つい先日の総務省のアンケートによると、移住したい地域ナンバーワンに輝いたのがほかならぬ長野県。リニアが開通すればさらにそのブランド価値が向上すること間違いなしですな。
☆おわりに・・・
ホントいつもながら、長くてすみません^ ^;
森田師匠のような方にいろいろ教えていただくと、どうしてもみなさまにお伝えしたくなってしまいましてね。これでもだいぶ内容を絞って掲載させていただきました。これ以上は"テキトーにカット"できない性分なのです。何卒お許しください。
<写真・文責>:ikuko naito@花研
]]>
下伊那郡豊丘村(とよおかむら)は、1万年以上前の旧石器時代から人が住み、地の利を生かして暮らしを切り拓いてきました。 標高およそ430メートル、赤石山脈と木曽山脈にはさまれた清流天竜川周辺では、標高1,890メートルの鬼面山を背景に、水稲や果樹生産などの農業が発達しました。
もちろん花き生産も例外ではありません。
ココ下伊那といえば、カーネーションの生産地として全国に名を馳せています。 母の日を目前に、この度はこの地でカーネーションとナデシコを生産される森田フラワーガーデン様を訪れました。
ナデシコとカーネーションをなぜ一緒に!?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、両者は植物の分類上、年子の兄弟のようなもの。
いずれもナデシコ科ナデシコ属に分類され、学名をDianthus(ダイアンサス)と言います。
両方ダイアンサスなのですが、市場では商習慣なのか、便宜的にナデシコをダイアンサス、カーネーションをカーネーションと呼び、混同を防いでいます。
しかし、これは一般的に当てはまることではございませんので、生活者のみなさまはご留意くださいませ~。
Dianthusとは何を隠そうギリシャ語で「神の花」の意味。Oh, my God!Σ( ̄ロ ̄lll)
経営主の森田和友(モリタ・カズトモ)さんは、神の花と呼ばれるカーネーションとナデシコを豊丘村で半世紀近くにわたり生産されています。
なんて悠長にご紹介している場合ではなく、テキパキとお仕事が早くい森田さんは、取材でお邪魔した途端に早い足取りで動きだし何かを始めました。
ショーターレッグス(短い脚)の取材班は小走りではないと森田さんの歩みについていけないほど。
何をされるのか見ていますと、圃場で灌水中の水を小さなビーカーに採取。 その上、なにやら取り出し・・・・ ぁああああッ!
これは、中学生の頃に理科の授業で使ったことがあります! リトマス紙!
「そうだよ、圃場の診断をやっとるんよ。水のpH値を測っているんだ。排水を採ってpHが正常値かどうかを確認する。」
リトマス紙にチョッと水を浸けて、色が変化したリトマス紙の色とサンプル色とを照合し、pHがどのくらいかをチェックしていきます。
pHと一緒に測定するのがEC。(※)
そうした測定値を農業カレンダーに記録し、栽培環境に異常がないか、定期的に確認しています。
※ECとは・・・?
Electric Conductivity:電気伝導度
溶液の中に溶け込んでいるイオンの総量を示す値。単位はミリジーメンス(mS/cm)。
イオンの量が多いと電気が伝わるのに負荷がかかりEC値が高くなる。ロックウールの養液栽培において、肥料分が多くなると電気が多く流れる性質があるので、肥料分のコントロールにEC値を目安にする。
この数値が高すぎると、養水分の吸収が悪くなり、延いては根の張りも悪くなり、植物が傷むことが懸念される。
基準値から大幅に外れることなどがあったら、肥料で調整して正常値に戻していく。
これを「肥培(ひばい)管理」といいます。
「肥培管理をしないと植物が肥料を吸収できなくなってしまうんだ。 まず肥料を吸収できる環境を作る必要があるんだ。」
植物の調子がなんだかおかしいなという時、肥料をやっても調整できなくなってしまうのです。
働き者で手足が止まることのない森田さんには、朝の挨拶も中途半端のまま、森田さんの圃場管理に突撃探検隊となりました。
さて、森田さんが生産環境の上で大切にしていることは大きく3つ。
■水と空気と太陽と・・・ 森田さんにカーネーションの生産で大切なことを伺いました。
「水と空気と太陽。これが植物が育つ三要素。これをいかに整えていくかが重要なんだ。
人間が生きていくためには何が必要や?水と空気と太陽やろ。それと一緒やわ」
という森田さん。植物が育つ三要素を聞かれて、思わず「土」を入れてしまいましたが、土は三要素に含まれていません。土や肥料は条件ということです。
【水】
冒頭でご紹介したように、リトマス試験紙で水のpHやECをチェックするのが一つ。
また、灌水方法も森田さん流のポリシーがあります。
灌水スイッチを押す森田さん。押した途端に水がカーネーションの足元からシャワ~ッと噴出します。
(↓灌水中)
「これは、灌水方法の最先端ではない!」
で、で、ではない・・・!?
「ではない」ことを強調しつつ、なぜあえてシャワー灌水をされるのでしょう。
「新しい方法は点滴形式なんだけど、わたしは点滴は好きじゃないんよ。 ポタポタ落ちるから、水が落ちたところにしか水や養液がいかんやろ。
もっと株全体に水がいきわたった方がいいんよ。管理しやすいしね。純粋に好き嫌いの問題なんだけど。
最新のものが常に最善とは限らないからね。」
水遣りひとつとっても森田さんのポリシーを垣間見ることができます。
【空気】
空気、つまり温度や湿度、風通しです。
暑さ対策も欠かせません。 カーネーションの原産地は、地中海沿岸の地域。 風通しが良く、夏場も日本ほどの猛暑にならない地域で生まれたことを思えば、カーネーションが暑さにそれほど強くないことは想像に難くないと思います。
取材中も太陽が高くなると、森田さんは、
「ちょっとクルクル行ってくるわ!」
と駆けだして、ハウスの側面のビニールを巻き上げました。
↓クルクル中の森田さん。
こうすると、ハウスの側面が空いて、風通しが良くなります。気温や湿度が高くなりすぎないよう、絶えず換気に気を配ります。
【太陽】
カーネーションはとりわけ日照を好みます。日照量が足りないと発色もいまいち、植物体の元気もなく良い花はできません。
しかし、いくら"神の花"と呼ばれるカーネーションを栽培している森田さんといえども、周年出荷を実現するのにお天気のコントロールをするのは至難の技です。
「そこで、使っているのがコレ」
コレ?? どれ??
あ、コレ??
通路に敷いたシルバーのマルチシート。太陽の光を反射するため、畝の中と通路とに敷き、空からの太陽光を最大限に生かします。
「太陽と水と空気の条件を整えるのに手抜きは絶対できない」
良い花を生産するための三原則です。
とはいえ、培土も無視できるものではありません。
■培土・・・こだわりのベンチ栽培
森田さんはロックウール栽培と土耕栽培と両方を使います。土耕から始めましたが、徐々にロックウールに変えているところです。
ロックウールとは玄武岩や石灰などを原料した人造鉱物繊維。このスポンジのことです。今や農業生産では花きのみならず広く培地のスタンダードとして世界中で用いられています。
でもなぜロックウールに変更しているのですか?
「ロックウールの方が作業性が圧倒的にいいからさ!
植え替えるときに土を興す必要も堆肥を入れる必要もない。ロックウールのベッドをパタンとひっくり返し、蒸気消毒をすればいいだけだから、土に比べたら労働力が全然違う。」
それでいてロックウールと土耕とで出来上がりの商品に差はありません。少なくとも森田さんの圃場の中においては。
もう一つ森田さんのベンチには秘密があります。
こちらの、地表から少し上がった「隔離ベンチ」です。
培地が地表に直接付かず、隔離されているから「隔離ベンチ」。
「地表にベンチが近い人ほど生育が安定している。高いベンチほど培地の温度が不安定になるから、その分、地温にも気を付けんにゃならんということ。培地の温度が乱高下すると肥料を吸収しにくくなるということだ。」
森田さんのベンチは高い方ですか、低い方ですか?
「まあ、低くはないわな。 ほれ、見てごらんよ。地に着いとらんやろ。」
でもなぜ、生育が不安定になるのに高めにベンチを作るのでしょうか?地温が安定して作りやすい方がいいのでは?
「それは大きく2つある。
① 病気防止:地表と接着していると、ウィルスなどの病気が蔓延しやすいから。」
う~ん、なるほど、これは重要ですね。病気を防ぐため。もう一つは?
「② 作業効率アップ :高くすることで、ちょうど人が立った状態で腰を曲げずに作業をすることができる。 ベンチの下に足(フット部分)を入れて作業できるでしょ。それだけでも労働生産性が高くなるわけだ。」
なるほど、病気の防止と作業性を考えてベンチを10cmほど上げているわけですね。
「ベンチの下に手を入れてみ?!」
え? w(゚ロ゚;w?ベンチの下にですか?
こんな感じ? ・・・と手をベンチの底に当ててみると・・・ ・・・ん??(・_・?)
あら??なんだか底の部分が波々しちょる?なんでジャ?
底はフラットではなく、3-4cm程度の幅で波うった、京都の千寿せんべい(波形でクリームを挟んだクッキー)のようにうねうねしています。
こッ、これは?
「その波々はトタン屋根になっている素材を使ったんよ。 この屋根。 」
と森田さんが指を差したその先を見上げてみると・・・!?
や、屋根!!(ノ゚ο゚)ノ
「この波打った屋根を使うんよ。重ねて使うことで、畝の幅を調節できる。広くも作れるし、狭くも作れる。」
説明しましょう!
つまり、こういうことです。
このうねうねをたくさん重ねれば畝幅を狭くすることができるし、2-3こにすれば広くすることができる。なんというアイディアでしょう。
「国内生産者さんに教えてもらったり、自分で模索して、独自のこの方式を取り入れたんだ。 」
森田さんのベンチは森田さん考案のオリジナルベンチ。 普段は頭の上にあるものと、足元に使ったというわけですね。
森田さんのカクリベンチにはカラクリがたくさん! まさに森田さん流カクリベンチならぬカラクリベンチ!
「でもここに辿り着くまでに10年くらいずっと悩んでいたよ。」
という森田さん。ベンチ栽培は大型投資。大型鉄骨のハウスでないとなかなか設計できません。
大型投資に踏み切ったのにはきっかけがありました。
「またね、そのころこの辺りでイチョウ病という病気が流行ってね。」
イチョウ病?胃腸病なら私もよくお世話になっていますが・・・?
「ちゃうわッ!
萎凋病(イチョウビョウ)だよ。」
萎凋病とは、カビが原因で植物の導管(水を吸い上げる道)がバクテリアで腐ってしまうという病気。一度発病してしまうと対策を取るのが難しく、最後は株ごと枯れてしまうので、生産者にとっては頭の痛い病気です。
「人間でいえば、血管が詰まる病気と同じだから致命的だよね。
それが根からも茎からも出て、ウチでも発生してしまったんだ。 蒸気消毒をすれば消毒できるということは分かったんだけど、土耕栽培のまま消毒しても地中からどんどん萎凋病が上がってくるから、完全に消毒することはできない。
隔離ベンチにしなくては病気も隔離できない。そこで米国やヨーロッパでカーネーションの産地を巡り、自分の目で見て、"カーネーションの生産とはこういうものだ"というスタンダードを知って、腹が据わったんだ。
投資金額が大きいだけにつまり一生やる!っていう腹づもりがないとなかなか隔離ベンチにはできないわけよ。私の20代はその決心がつくまでの葛藤だったね。」
という森田さんの葛藤の青春時代のお話を伺ったところで、後編に続きます。後編では知られざる森田フラワーガーデン様にさらに深く潜入です!
<写真・文責>:ikuko naito@花研
]]>この歌の通り市場にはバラエティ溢れるチューリップが市場に流通しています。
そのチューリップの切り花はほぼ国産。なかでも埼玉県のチューリップ生産量は全国第2位で、その多くを深谷で担っているのです。
全国に誇る深谷のチューリップ生産者さん代表で訪れたのは、チューリップ部会部会長の田尻貞由(たじり・さだよし)さんとご子息の田尻重之(しげゆき)さん。
お二人ともナント素敵なスマイルなのでしょう。
田尻さんは面積600坪(≒畳1,200枚!)ほどで、チューリップの水耕栽培をしています。
みなさま、チューリップの水耕栽培ってどんな様子か想像できます??ウン探は・・・正直に申しますと想像できませんでしたが、このように栽培されていたのです。
ジャジャン!
ふむふむ、水槽になっているベンチに水を入れて、その上にプラグ苗のポットのように賽の目に分かれたトレーを入れ、その賽の目ひとつひとつにチューリップの球根を置いていくとッ。
ひとつのマス目の下には穴が空いていて、そこから下根が伸びて水を吸収するというしくみです。
みなさまの想像と近かったでしょうか。
この水は流れているのですか?
「あまり流れていないよ。流れていると万が一病気が入ったときに、蔓延しちゃうからね。
蒸散や球根が吸収するなどして、減った分を足すといったところだよ」
深谷のチューリップ生産はほとんどが土耕栽培です。しかし、田尻さんを含め2軒の生産者さんが水耕栽培をしています。
田尻さんはなぜ水耕栽培を選ばれたのでしょう。
「この辺りは荒川の砂質土壌でね、土は硬いし、石はゴロゴロ入っているし、ジャリジャリしているので、土耕栽培には向いていないんだよ。
同じ深谷でも、利根川と荒川の間の地域は関東ローム層でふかふか土壌。そのような所では土耕栽培を選ぶし、うちはジャリジャリしているから水耕栽培を選んだんだよ」
水耕栽培のメリットはなんでしょうか。
「① 定植から収穫までが速い
1か月と1-2週間で出荷できるからね。
② 作業効率が良い
ベンチで高く設置している分、腰を曲げる必要がないから作業効率も良いし、身体への負担が少ない。つまりその分、長い間仕事ができるということでもあります。」
なるほど。
では、水耕栽培のノウハウはどのように得たのでしょうか。お手本となる産地などはあったのでしょうか。
「特にどこをお手本としたというのはないかなぁ。いろいろな産地の見学には行ったけどね。
自分流で最初は畳1枚分の大きさでやってみて、これは大丈夫と思って徐々に大きくしていったんだよ」
モデルはオランダ方式だったりするのでしょうか。
「いやいや、オランダのやり方とは全然違う。特にマネようとも思わなかった。
この地の気候風土に最も合うやり方を自分で経験を重ねながら作り出していったんだよ。いろいろ失敗しながらね。
オランダには独特のノウハウがあって、1シーズンに5-6回収穫しちゃうみたいなんだけどね。うちは今は2回。」
ではご自身で全て考えてやられたということは、色々と御苦労があったこととお察しします。
「そうだね、いろいろ失敗もしたよ。
水温が上がってしまって、全部腐ってしまったり・・・何かしらの菌が入って腐っちゃったんだろうね。
肥料を入れてみたら根っこが黄色くなってしまったり・・・だから今は肥料を一切入れていないんだ。」
チューリップにとって水温はどのくらいがいいのでしょうか?
「根が張るのに最適な温度は8-9℃くらい」
水耕栽培では水道代が高くついてしまうのではないかと心配してしまいますが・・・?
「井戸水を使っているんだよ。
以前、保健所に調べてもらったときは、その井戸水は飲み水で使えるくらいきれいで清潔。
深谷の市営水道は地下水を使っているほどなんだ。」
水はきれいで日照量も多くて、深谷はイイトコロですね~♪
その土地の環境とあるものを生かしてチューリップ栽培をされている田尻さん。まさに地の利栽培を実現されています。
あらら~?
こちらのハウスでは何やらおとぎ話に出てきそうな美しい少女が椅子に座っています。
「私の奥さんです。」
うわっ。遠巻きでしか拝見できませんでしたが、美少女系ですね。何をしていらっしゃるのですか?
「水耕栽培を始める準備。球根を一つ一つのマス目に配置していっています。」
このような形で届いた球根をひとつひとつマス目にセットしているところです。
そして水耕栽培でグイグイと伸びて、1か月と1-2週間ほどで出荷というわけです。
チューリップはひとつの球根から1本(1輪)咲いて、収穫したらそれで終了。次の花を咲かせるためには新しい球根をセットします。
「ウン探さん、チューリップでどうやって収穫するか、知ってル??」
うーん、?c(゚.゚*)エート。。。普通にハサミで切る?
「球根ごとプラグから取り出して、このような機械で球根を切り取るんだよ!」
えぇッ??チューリップって機械で球根を切り取るんですか?知らなんだぁ。
機械で収穫する花って国内では珍しいかもしれませんね。
「ほら、これが収穫した後の球根だよ。」
「元々はこのようにくっついていたんだけどね」
「昔は包丁で切っていたんだけどね。
チューリップの茎元ってよく見ると少し白くなっているでしょ。その白い部分が球根の中に入っていたところなんだよ。」
そういえば・・・σ(゚・゚*)
チューリップの茎元って白くなっていますね。
そうか!ここが球根の中に入っていた部分ということなのですね。
田尻さんの軽トラには収穫が終わった球根の山・・・!
亀仙人のヒゲのような白い根がもしゃもしゃと生えていますが、これらはどこに行くのでしょうか?
「畑だよ。」
ん?畑に?また?芽が出てくるとか??
「畑に持って行って肥料として使うんだよ。球根はほとんどデンプン質だからね。」
へー、そうすればゴミもなくなるし、畑は肥えるし一石二鳥ですね。
ところで、品種が豊富なのがチューリップの魅力の一つですが、品
種選びはどのようにしていらっしゃるのですか?
「出荷量の多いピンク、黄色、赤は人気の定番として大切に作るけど、遊びゴコロで10-20%くらいは新陳代謝用の新品種も導入するよ。
毎年同じ品種ばかりでも、作っていて面白くないからね。
品種選びはその品種が水耕栽培に合っているかどうかも検討しながら、ウチの栽培環境に合ったものを導入する。
今年はトータルで80-90品種くらいあるかな。
あとはJAふかやの花き担当をしている髙野(こうの)さんの言うことを聞く」
強力なアドバイス力を持つJAふかやの髙野さん↓ 生産・出荷を牽引します。
なるほど、最後は髙野さんですね。深谷にはマーケットの声を細かく聞き分けて、未来を読む敏腕アドバイザーがいらっしゃるわけですね。
そして田尻さんをはじめ、生産者のみなさまとの信頼関係が構築されているからこそ、敏腕マーケッターのアドバイスを信じて品種を導入する!納得です。
■ちょっとおまけ「球根について」
チューリップの球根はオランダから輸入します。
みなさん、オランダの大地を色鮮やかなストライプ模様に彩るチューリップ畑の風景、わかりますか。あのチューリップ畑は、切り花用チューリップの球根を養成しているのです。日本に届く球根もあの景色の下にある球根なのです!
でははぜ咲かせているのかというと、花色の確認のため。
「開花して花色を確認できたら2-3日くらいで、すぐにチョキン!と切ってしまうんだよ」
え!?すぐ切ってしまうのですか?WHY?もったいな~い!・゚・(ノД`;)・゚・
「良い花を咲かせるには養分が必要。その養分はもちろん球根から供給されるわけだよね。だから、球根が養分をたくさん蓄え、太らせることが重要。花を長く咲かせてしまうと、養分を花に取られてしまうでしょ。だから、色を確認したらすぐ切ってしまうんだ。私たちのような生産者が良いチューリップを咲かせるためにね」
なるほど、チューリップの花畑は、実はチューリップの球根畑だったのですね。球根の養成のために満開になってから数日のうちに全て花を切り取ってしまう。ですから、あの色とりどりのカーペットの景色を見ることができるのは1年のうちでもほんの一瞬なのです。
満開の季節にオランダにタイミング良く行けるというのはとてもラッキーなことなのですね。
「花首を切ったら球根を掘り起こして冷蔵にかけるんだ。6月下旬くらいかな」
冷蔵にかける?
「そう。チューリップは春に咲く植物でしょ。それは一旦、冬(寒さ)を経験して温かくなってきたな~と感じたら花が咲くからなんだよ。
それを今のような寒い時期に咲かせるためには、夏の暑い時に人工的に寒さを経験させないといけない。そのために冷蔵するんだ。
段階的に冷蔵していくんだけど、本冷(ほんれい)と呼ばれる冷蔵処理は5度で8週間ほど。
その冷蔵状態のまま船に乗せて日本に送ってもらうと、すぐ定植できて、この時期に開花するってワケ。」
そか、今は冬だから、この冬に出荷するためには夏の間に冬を体験させるわけですね。
これを春化処理(あるいはバーナリゼーション)といいます。
チューリップの田尻さんのところでも、良い花を咲かせるのは球根会社の連携があってこそなのですね。
JAふかやチューリップ部会 部会長 田尻さんの格言
・品種構成は的確、かつ厳格に!定番&新商品の組み合わせが肝要!
敏腕アドバイザーに従いマーケットで売れるものを投入せよ。
生産者都合で作りやすい品種を作り続けることが、生産者にとって必ずしも良いとは限らない。
・地の利を生かした生産を推進せよ。
良い花を作ることができ、且つ生産コストやゴミを削減することができる!
・チューリップは回転勝負。限られた出荷期間の中でいかに出荷量を増やすかで勝負せよ!
☆最後に
冒頭でうんちく探検隊が歌った(?)
"さいた さいた チューリップの花がぁ~"♬
という国民の誰もが知るこの歌は、世田谷区の近藤宮子さんというご婦人が「みんなの良いところを認め合いたい」という優しい思いを込めて作詞されたものです。
今回の取材でチューリップの田尻さん親子には、とても明るくお優しい印象をお受けしました。色々な人の個性やバックグラウンドを認めうように、田尻さんも色・形・個性様々な品種をそれぞれに特性を見極め1本1本育て上げ、最後は「嫁に出すような気持ちで出荷する」のだそうです。
そんな田尻さん親子も、とてもお優しい心の持ち主なのでしょう。
そして、チューリップこそ多様性を受け入れ平和を願う優しさの象徴なのではないでしょうか。
☆ちょいと深谷探訪
深谷のすぐ駅前には桜並木。3kmにもわたり約300本の桜が植栽されています。
JRの駅前すぐのところにある桜並木は全国でも珍しいと深谷市観光協会の方が教えてくださいました。
寒々しい空の下に黒い枝が浮き上がります。
しかし、よく見ると小さな花芽が。
季節になればそれはそれは素晴らしい桜並木がお目見えすることでしょう。
春はきっともうすぐ。この寒い冬を乗り越えようとする桜のつぼみのように、わたし達も今はじっと寒さを耐え、温かい春を待ちたいと思います。
JAふかや様のチューリップは3月下旬ころまでの出荷です。ぜひ春を待つわびる間に、深谷のチューリップをお楽しみください。
<写真・文責>:ikuko naito@花研
]]>本年も産地ウンチク探検隊をどうぞよろしくお願い申し上げます。
さて、素晴らしい響きの新春第一号は、東京から100km足らずのココ埼玉県深谷(ふかや)市を探検します!
うンわッ、なんだか東京駅のようなクラシックで重厚感のある駅・・・こちらはJR高崎線深谷駅。
この駅は東京駅を模して平成8年に完成しました。なぜ東京駅を模したのか、ここがポイントです。
実は、深谷はレンガ造りが盛んで、東京駅の煉瓦は深谷で作ったものだからです。深谷駅はレンガ調のパネルを使っていますが、それでもビクトリア様式の気品が青い空の下に漂います。
(あ、空、青くない??実は曇りでした^ ^;)
何を隠そうその煉瓦を作った深谷の日本煉瓦製造株式会社こそ、明治20年に近代日本経済の父と呼ばれる渋沢栄一氏が設立した会社です。そう、渋沢栄一氏の生誕の地こそ、ココ深谷なのです。ワオw(*゚o゚*)w
また、日本煉瓦製造は東京駅ばかりでなく、司法省(現法務省)や日本銀行、迎賓館、旧東京裁判所、旧警視庁など、名だたる建設物の建築材となっています。
渋沢栄一氏にばかり気を取られていてはいけません。スーパーやコンビニの冷凍庫の中でひしめき合うアイスクリーム。
今や主食にしている人もいらっしゃるかもしれませんが、そのアイスクリーム生産量は埼玉が日本一。その生産を支える企業こそ、深谷に構える昭和6年創業の赤城乳業さん。
そして、深谷といえば公認キャラクターのふっかちゃん!
到着した瞬間からあちこちでかわいいふっかちゃんがお出迎え❤
ふっかちゃんの頭から大胆にもドカンと生えている角こそ、日本一の出荷量を誇る深谷ねぎ。
平地で内陸、寒暖の差が大きい上に関東平野で日照量が多い深谷は、野菜や花の生産に適しているのです。
←深谷ネギ畑
この気候特性を生かして栽培される農産物は、もちろんネギだけではありません。
埼玉県といえば深谷も含め花き園芸の一大産地。
とりわけ切り花でいえば、生産額全国第1位のユリと第2位のチューリップ!
今回はこの2つの花をご紹介いたします。それでは深谷の花の魅力にズームイン!(古い?)
前編はユリ。
☆深谷のユリ
全国一のユリ産地としてお邪魔したのは、JAふかや深谷ゆり部会、部会長の植竹好宏(うえたけ・よしひろ)さん・・・とご紹介しようと思ったら、
「あ、これ全国ネット?」
なんて、メディア慣れした植竹さんは早速確認。
「はい、全国ネットというか世界中どこからでも閲覧できるインターネットです。」
とウン探が答えた瞬間、
「じゃあ、髭剃ってくる!」
・・・とたちまちご自宅に消えた後、さっぱりされた爽やかNHKアナウンサー系硬派なジェントルマンとして再登場されました。
改めまして、こちらがJAふかや深谷ゆり部会、部会長の植竹さんです。
そんな植竹さんに伺ったお話は、以下の順でご紹介いたします。
■ユリの球根
■土と水と太陽
■LAユリの選択
■2014年2月の雪害を乗り越えて
■ユリの球根
ウンチク探検隊をご愛読くださっている皆様なら既にご存知かと思いますが、ユリは球根から育てます。
取材当日、ちょうどオランダから届いたばかりの球根がありました!JAふかや南部営農経済センターの髙野健一朗(こうの・けんいちろう)さんが指さす先にある、黒い箱の中にその球根が入っているのです。
ブシャーとひっくり返してみるとこんな感じ。
土のように見えますが原則的に土は輸入できないので、土ではなくピートモスというミズゴケが原材料になったものに保護されて船便で日本に到着します。
球根のサイズは直径4-5cmくらい。このとき良い球根はどのように見分けるのですか?
「鱗片が締まり、球根全体にキュッと締まりがあること。大小ではないんだ。
水ぶくれで大きくてもブヨブヨしているものは良くないからね」
え?水ぶくれ??ブヨブヨ??あッ?アタクシ??どーもすみません( ´)Д(`; )
「ナニ言ってんの。球根のことだよ。水ぶくれしていると青カビが出たりいろいろ問題があるからね。
それから、下根がしっかりしていることが大事。」
↑このように、球根の下に、太い根がもしゃもしゃと生えていることが大事。
「でもオランダの球根の納入業者さんが丁寧に神経を使って良い球根を選んで送ってくれるから、そう悪い球根はないよ・・・!」
オランダの球根の輸出業者さんは長期冷蔵に耐えるよう、球根を包むピートモスの湿度調整もした上で出荷してくれます。
「水分を含み過ぎて鱗片の腐敗やフザリウム菌の繁殖を引き起こさないよう、あるいは乾きすぎて枯死しないよう、色々と工夫をされて出荷してくれているんだよ」
球根の輸送にも細かなノウハウがあるのですね。
「そうそう、ノウハウがあるし技術だし、日々進化していると思うよ」
ちなみに、こちらは収穫が終わったユリの球根を引き抜いてみると・・・
ジャジャン☆こんな感じ!
うンわッΣ(◎o◎;)!何やらさらにもしゃもしゃしてすごいことになっていますが・・・
「生長過程で上根(うわね)が生長してこうなるんだよ」
まるで、天然のドレッドヘアのようやわ~。こうなっていれば良いユリが収穫できたというわけですね。
キーワードはドレッドヘアのような根っこ。
■土と水と太陽
植竹さんのハウスがある関東平野のこの地域は、関東ローム層の粘土化した火山灰層に覆われています。
しかし、一級河川の利根川と荒川に挟まれ、水分や砂利具合など複雑な土壌のように思いますが、ユリにとってはがでしょうか。
「ユリは土質を選ばないんだよ。
だから世界中どこででも比較的作りやすい。ただ、pH値とEC値(電気伝導度、土中の肥料の総量)だけ整えるように気を付けているけど、基本的には関東ローム層の土をそのまま使っているよ。」
そのまま使うと言ってももちろんそのまま使うわけではなく、まずはこのように耕耘(こううん)機で耕して、溝を作っていきます。
フカフカの土の中に入っていくので、地下足袋は植竹さんにとって七つ道具の一つ。
「畑の中に入っていくけど、土が足の中に入らないし、滑らないし、痛くならないからいいんだ!」
うわー、きれいにできたー。
土を耕せたら、オランダから届いた球根をピートモスの中から手袋もせず一つ一つ傷つけないよう丁寧にカゴに取り出していきます。
「こうして手で定植するんだよ。」
球根どうしの間隔に決まりはあるのでしょうか。
「基本的には15センチ真四角で定植するのが部会の決まりです。」
植竹さんレベルのベテランさんになると定規は使いませんが、これで15センチ間隔になっているのです。
では深さは?
「球根の2-3倍くらいの深さに植えます。ユリ全般にそうだよ」
このように丁寧に置いたら、畝の山を崩し土をかぶせて、さらにその上にもみ殻を敷いてできあがり☆
あれ?えーっと、?c(゚.゚*)。。。もみ殻は何のため?
「乾燥防止だよ。特に夏場はこれをしないと表面がカラカラに乾いてしまうからね。
もみ殻を敷くことで土の表面から水分が蒸散するのを防ぐんだ。また栽培した後も、もみ殻や藁が肥代わりにもなるんだよ。」
マルチングシート代わりといえそうですね。
水遣りももちろん大切な農作業の一つ。どのくらいで灌水するのですか?
「決まっているわけではないんだけど、今回は一週間ぶりくらいかな~」
ユリは水遣りが比較的少ないということでしょうか。
「そうでもないよ。ユリの場合は、次の3つを見ながら水遣りをするんだ。
・土の状態
・空気の乾燥具合
・気候
だから水遣りの間隔は決まっていないんだ。
特によく見るのは、この表層土!」
表層土を見る?
「そう、特に最近は表層部分1-2cmを意識した灌水に努めております~(ニコニコッ!)
畝によって西日の当たる肩の部分がどうしても乾きやすい。 だから表層土の色を見極めながら灌水判断をするんだ。
でも水をジャブジャブやると、背丈が無駄に伸び過ぎちゃうしね。」
日照量の多い関東平野。それだけに、日々農業に勤しむ植竹さんには日照の強弱を肌で捉え、表土を見て、灌水のタイミングを計っています。
■LAユリの選択
LAユリとは、テッポウユリ(学名:Lilium longiflorum ロンギフロラム)とアジアティックハイブリッド(Asiatic Hybrid、スカシユリの系統)との交配種です。
テッポウユリ × アジアティックハイブリッド = LAユリ(写真の品種名はセラダ)
ロンギフロラム-アジアティック・ユリというところですが、あまりにも長すぎるのでそれぞれの頭文字をとって、通称LAユリと呼ばれます。
黄色やオレンジ色が多いこと、また山ユリやオニユリにあるような花弁のそばかすがない(スポットレス)ことが特徴です。
←ヤマユリ:花弁のスポット(そばかす)がある。
LAユリは1992年に日本に紹介された比較的新しいグループですが、現在日本ではユリの中では品種数最多を誇る部類です。
深谷ではこのLAユリが全体の9割を占めます。そもそもなぜLAユリを選択したのでしょうか。
「製品率が高いことが大きいかな。ロスが少ないんだ。
深谷では元々スカシユリとオリエンタルユリを作っていましたが、スカシユリよりも輪が大きく見栄えがして、且つオリエンタルユリよりロスが少ない。この中間のLAユリは営利生産に向いていたんだ。
だから深谷はLAユリの生産において全国初の部会を設立したんだよ。」
また、暑さに強いのもLAユリのイイトコロ~。周年栽培のためには、LAユリは相性の良い花なのです。
更には近年ヒートポンプを入れたことにより、クオリティもグッとアップ↑
冬は湿度を下げて病気を未然に防ぐため、また夏場は夜温を下げるために使います。
深谷で球根切り花の生産が盛んになったのはいつごろなのでしょうか。
「昭和30-40年代かな。深谷でチューリップ、スイセン、クロッカスなどの球根切り花があって、その中でユリも導入されたんだ。
そもそもは関東平野は米・麦・養蚕(べいばくようさん)が盛んでしょ。深谷でも養蚕が盛んで、お蚕(かいこ)さんのえさになる桑をたくさん作っていたんだ。
その桑の木の閑散作物として戦前から桑の木の間に球根を植えたっていうのがきっかけ。この辺りの栄養分の少ない土壌には土質を選ばない球根がちょうどあったのかもしれないね。
東京にも使いことから周年栽培の技術か早くに確立して、ユリの生産が大きく普及して根付いていったんだよ。」
LAユリの良いところはどのような点でしょうか。
「花の輪が大きすぎないところが一つ。
このことによって、他の花との調和が取れやすいし、例えばご家庭で飾っていただくにも大袈裟でなくていい。おうちの雰囲気とも合いやすいでしょ。
他には花色が豊富なところだよ。」
ごく一部ですが、JAふかや様の品種はこちら。
写真左からパーティダイヤモンド・エルディーボ・ハイドパーク
明るく鮮やかな発色と陶器のような花弁の質感に魅力がありますね。
■2014年2月の雪害を乗り越えて
まだ記憶に新しい2014年2月半ばの記録的な大雪。
諏年栽培を実現し全国シェアの20-25%を占めながら、深谷のユリは全体で7割、とりわけ植竹さんのハウスは9割以上(つまりほとんど)が潰れてしまい、甚大な被害を受けてしまいました。
「上からハウスごと雪がドサッと落ちてきたから、伸びていた芽は全て潰れてしまったよ。
まだ芽が出ていないものであったけど結局温度がかけられないから、凍害(とうがい)でダメになってしまったんだ。
花芽が上がっているものもあったけど、潰れていなくても全て凍結してしまうし、生長しなくなってしまう。ほとんどが台無しになってしまったよ」
生き残った球根を救ったとしても、栽培する施設が全て崩壊してしまったので、すぐには栽培を再開できません。
被害は収穫間際のユリ、生長中のユリ、球根を含め、植竹さんの圃場の全てのユリなど出荷物ばかりでなく、栽培施設も壊れて立て直しをしないといけないので、ダブルパンチ(*_*;
降雪から半年後の2014年9月から少しずつ出荷を開始。
「2015年11月に施設はほとんど修復されたよ」
2015年11月ってまだほんの2か月前ではありませんか!?・・・雪害から1年10か月が経過したころです。いかに雪害の被害が大きかったかを物語っています。
「耐雪式のハウスに立て直し、生産ができる状態には戻ったよ。
でも、生産体系を組み立て直す必要がある。今後の色バランスや球根の導入計画など、ハードは一応整ったけど、ソフトはまだまだこれからなんだ。
雪害のお見舞いで天皇・皇后陛下がお越しくださってね」
て、て、テッ、天皇陛下??
そう、2014年2月の記録的な大雪で雪害に見舞われた植竹さんのハウスには、ぬぁんと天皇陛下・皇后さまがお見舞いに来てくださったのです。
「そうそう、歩くパワースポットッという感じで、神々しかったね。
ハウスの入り口からまさにこのルートを歩いていらしたんだよ」
わー、天皇皇后陛下が踏まれた土と同じ土の上に立っているウン探・・・ありがたき幸せ~。
どのようなお言葉をいただいたのでしょうか?
「いろいろお話させていただきましたケド、とりわけ印象に残っているのは、育種のお話はご興味を持たれたようでございました。」
(天皇陛下の話題になると、なんだかお互い急に丁寧語のレベルが上がる^ ^;)
オランダで育種されていることをお話ししたところ、"ヤマユリを栽培したりすることもあるのですか"ということも聞かれましたので、"ヤマユリはございません。改良された営利栽培用の品種のみを作っています"と答えました。」
あ、さようでございましたか。
大雪の日は何をされていましたか?しんしんと降り積もる重い雪で気が気でなかったのでは?
「私はソチオリンピックのフィギュアスケート羽生君を応援していたんだ。それがちょうど午前3時頃。優勝が決まって表彰式があっ
たのがちょうど4時ころ。"ヤッター!羽生君、スゲーナー"って喜んでいたんだよ。
それが終わって雪でも降っているようだし、様子見ながらタバコでも買いに行こうかと外に出たんだ。
すると、"んッ?雰囲気が少し違う"って思ってハウスまで歩いたら、暗闇の中でもハウスのぼんやりとした山がないってことがわかってね。
そこからあちこちと連絡撮りあって、被害確認が始まったんだ。
雪が腰の高さまで積もったからね、もちろん車も出せないし、スキーを履いて移動したくらいだよ。」
被害を目の当たりにしたときの衝撃は?
「球根代が払えない!
ハウスの新設費どうしよう!?というのが頭をよぎったね」
球根代の支払いやハウスの新設費を何とか工面しながら、部会長植竹さんをはじめ深谷ゆり部会のみなさまはいま再びスタート地点に立ちました。
深谷のユリは周年出荷。特に4-6月は最高のクオリティです!
ボリューム感、花の大きさ、品種構成、全てにおいてお客様の満足が高くなるタイミングです。
是非、今シーズンの深谷のユリにご期待ください。
生活者のみなさま、生花店のみなさまにおかれましても、JAふかや様を応援のほどよろしくお願い申し上げます。
■JAふかや深谷ゆり部会の格言■
・農業は常に自然との対峙。
日差しを肌で感じて、土を見て灌水のタイミングを図ろう。
ときに予想をはるかに上回る自然災害に襲われるが、常に未来を見て進んでいきたい(by 植竹さん)
天皇・皇后陛下、お越しくださりありがとうございます❤
・球根はオランダからキュッとしまったものを輸入。上根がもしゃもしゃなものを定植し、下根がドレッドヘアのようにもしゃもしゃになるまで育てよ。
・JAふかやのLAユリは周年栽培、安定供給が売り。雪害から復活中で、これからも喜ばれるユリを出荷しますので、是非深谷のユリをご指名ください!
後編のJAふかやチューリップ部会に続きます。
<写真・文責>:ikuko naito@花研
片桐農園様の生産へのこだわりの途中でした。片桐農園様後編の今回は・・・
<第6話 目次>
◆生産
CHAPTER 4. こだわる?こだわらない?土のクオリティ
CHAPTER 5. 空飛ぶカボチャ
CHAPTER 6. ネズミとコオロギのカジリ対決
◆謎のコーヒー麻袋
◆そもそもどうしてカボチャ?
◆今後の方針
◆カボチャのトリビア
◆たかがカボチャ、されどカボチャ
をお届けします。
CHAPTER4: カボチャの土
片桐さん、カボチャの土にはどのようなものが適していますか?
「カボチャはそんなに土の好き嫌いはないんだよ。
極端な酸性、あるいはアルカリ性でない限りは問題ない。
日本の土壌は基本的には弱酸性。アルカリ土壌は栃木県の足尾の一部とか、局地的に限られたほんの何十ヘクタールくらい。あとはすべて酸性土壌だからおよそ問題ないんだ。」
なるほど、それがカボチャが作りやすいと言われるゆえんでもあるわけですね。
それでも尚、片桐さんはひと工夫。
もみ殻とブタちゃんの堆肥を混ぜています。堆肥は生まれたばかりの子豚ちゃんのもの。きめが細かすぎてそのままでは使えないので、もみ殻に吸着させて、これを圃場に混ぜ込みます。
「私たちは休耕田を使っているんだけど、田んぼの土はpHが5.5-5.8くらい。普通の野菜はできないことも多いんだけど、カボチャならできる。
土壌pHに対して適応性が非常に高いのがカボチャの良いところ。"塩害"にも強い。」
("円買い"ではありませんよ。円買いも強くなってほしいところではありますが)
CHAPTER 5 : 空飛ぶカボチャ
カボチャにはほかにも良いところがあると片桐さんはおっしゃいます。
「カボチャの生産は生長こそすれば土地面積が必要だけど、植える面積自体は少なくていいんだ。
だから、実はとても面積効率の良い農産物なんだよ。」
ホントですか?それはなんだか意外です。
「空飛ぶカボチャって知ってる?」
そ、空飛ぶカボチャ??ウーン (Θ_Θ;)想像できない・・・
こんなん??
いやいや、まさかね(;・・)ゞ
「北海道ならではなんだけど、ビニールハウスで栽培したものが収穫が終わると、ビニールをはいでそこにカボチャの苗を植える。
すると骨組みに沿って蔦が生長していくから、空中で実が成るんだ。だから空飛ぶカボチャって言われているんだよ。」
実は空飛ぶカボチャ、北空知の吉澤さんの圃場で拝見していました。
この骨組みに沿って這っているいる蔦はカボチャ。
一瞬目を疑いますが、確かにブドウのように宙に浮いてカボチャが成っています(゚O゚;!
↑こちらは生食用の坊ちゃんカボチャ。
↓観賞用もこのスタイルで栽培していました。
この方式で栽培すると、カボチャの実のうち地面と接するところがないので、むらなく均一に色が付きます。
「栽培面積がたとえ1平方メートルでも、太陽さえ当たれば、カボチャはどこでもできる。土地を選ばないし、カボチャは良い作物なんだよ。」
片桐さんのところでは現在はこの方法を採用していませんが、開拓時代からカボチャ生産に打ち込んできた北海道の先人たちの知恵をこのように説明してくださいました。
CHAPTER 6 : ネズミのコオロギのカジリ対決
片桐さんの頭を痛める原因の一つ・・・カボチャの傷。傷は商品価格に直結してきますから、本当に厄介な問題です(´ε`;)
みなさま、こちらをご覧くださいませ。
<キズA> <キズB>
これらは虫や動物などにガブリとやられたことを物語っています。
このキズAとBの違い、分かりますか?
この違いを見極めることが何者の仕業かを知る上でとても重要です。
傷の性質を見る→カブリついた時期がわかる→犯人が誰かわかるのです。
例えば、キズAは生育中の6-7月にかじられ、キズBは生育が完了してから8-9月にかじられたもの。
なぜわかるかというと、かじられてその跡がかさぶたになって、こんもりと盛り上がっているかどうか。
盛り上がっていれば6-7月にかじられたもの。北空知さんのお絵かきカボチャの原理と同じです。(カボチャをめぐる冒険第2話参照)
ところが、生長が終わってからかじられたものはその場所が凹むだけ。だからキズBのようになってしまうのです。
しかしまあ、どのような厄介者がカボチャをかじっていくのでしょうか。
「ネズミとコオロギだよ。」
うギャー!カンベーン(ノ_-。)
どちらがどちらをかじった跡でしょうか?
「キズAがコオロギで、キズBがネズミ。
ネズミは生育中の青いカボチャは絶対かじらない。完熟した糖分の高いカボチャばかりを狙っていくんだ」
えーーーー、ズルーーーイ(-ε-)ブーブー
ネズミってそんなふうに鼻が利くのですね。
「そうなんだろうね。ネズミは見事にペポを避けて、完熟したパンプキン、あるいはパンプキンとの交配種ばかりを食べていくよ。
コオロギの食害の原因は分かっているんだ。定植したときに敷く黒いマルチングのせい。
特に初期の生育をしっかりさせることが重要だから、この黒いマルチングは、カボチャ生産にとってはベストアイテム。
ところが、土とこの黒いマルチングの間の小さな隙間がコオロギにとってはとっても心地良いものなんだ。」
では黒のマルチングはどうしても施さないといけないのですか?何のため?
「黒いマルチングをすると日光が当たらなくなって、雑草が生えなくなる。雑草が生えると、カボチャの苗の生長を阻害するでしょ。4町歩の圃場だからマンパワーで雑草を処理しきれないからね。だから生えないようにするのが一番。」
これはなかなか頭の痛い問題です。
農資材メーカーさんには、是非コオロギ忌避剤入りのマルチングシートを開発していただきたいものです(懇願)!
★謎のコーヒー麻袋(またい)
んん?なんじゃ、なんじゃ?これは一体なんでしょう?なんでこんなところに麻の布が??
「これはカボチャを出荷するときの緩衝剤に使うんだよ」
ぬぁんと、この麻布は、片桐農園式カボチャ用クッション!しかも元はコーヒー豆を海外から輸入するときに使うバッグなんです。
それをカボチャ用緩衝剤に!
へ~、なんだかとってもユニーク~ッ!でも、どうして??o(゚◇゚o)?
「クッションはいろいろな素材でやってみたんだけど、小売店さんが"おしゃれでいいね"って喜んでくれるんだ。」
コーヒー麻袋は、コーヒーの生豆を生産地から消費国に運搬する際に使う袋。生産国や銘柄、等級など、あるいは生産国ならではの絵が描かれていて、とても趣深いものです。
絵柄もとってもシャレオツ~♪
なんだか遠く生産国のことを思ってしまいますね。一体、どこで仕入れるのでしょうか?
「小樽に袋物専門の古物屋さんがあるんだよ。お米の袋、菜種の袋、コーヒーの袋など、世界の農産物の袋を取り扱っているところなんだ。
この袋を裁断して使うんだけど、裁断中にコーヒーがぽろぽろ出てくるんだよ(笑)」
わッ!ホントだ。
コーヒー豆がカボチャ農園に転がっている!
「ちゃんと焙煎すると飲めるんだよ~!」
わー、おもろー。焙煎して飲んだことありますか?
「ない」
さすがに、そりゃないか・・・。
それにしてもカボチャとコーヒーなんて面白い組み合わせ。
そのコーヒーの袋をこれで裁断して、カボチャの緩衝剤としてちょうどいい大きさに仕立てます。
確かにかわいい。喜ばれるの、わかります。
「ケニアとかタンザニア、中南米とか、いろんな国からくるよ。
↓これなんかは日本向け専用にデザインされもの。」
あんりまあ、ホント、よく見ると鶯やら、富士山まで描いてあるではありませんか。
最近はコーヒー豆の価格も高くなり、コーヒー麻袋も入手しづらくなったとおっしゃいますが、それでも尚、小売店さんに喜んでもろえるようこの素材にこだわります。品種も梱包材も、お客様に喜んでもらうことが片桐さんの選択基準。お仕事の細部に至るまで、片桐さんの精神性と哲学を見て取ることができます。
みなさま、カボチャの箱を開けてコーヒー麻袋が緩衝剤として入っていたら、それは片桐さんのカボチャです。片桐さんのお客様への思いもカボチャと一緒に受け取ってください。
★そもそもどうしてカボチャ?
もともと片桐さんは園芸農家さん。花き専門なのです。今でも鉢物や苗ものを取り扱っています。
ですから、カボチャを作るといっても観賞用のカボチャに特化しています。
「やってみようかなと思ったのは20年くらい前かな。」
何かきっかけは?
「娘が米国のテネシーに留学したとき、滞在先のおばちゃんチに、たまたま花きのカタログがあったんだよ。
それを娘がお土産にもらってきて見せてもらったら、そこからカボチャが載っていたんだ。
米国ではこんなに面白い品種がたくさんあるのかとウキウキして集め出したんだ。」
でかした!片桐さんのお嬢様^^!!なんて気が利くのでしょう。
「初めて作ったときに市場に出したら、思ったよりも良い値段で取引できてね。そこから栽培面積を広げていったんだ。」
片桐さんは、もう40年以上も花壇苗を中心とした花き生産に従事していらっしゃる生粋のフラワーピーポーなのですが、そこにお嬢様の米国留学がきっかけで、カボチャという生産品目が加わったというワケです。
では、なぜ米国にそんなに多彩なカボチャの種類があるのでしょうか。
「それは南北アメリカがカボチャの原産地だから」
・・・ということは、米国留学にお嬢様を見送られた片桐さんの采配の結果ということですね。
★今後の方針
カボチャ4町歩、30品種以上もある片桐さんに、今後の方向性を伺いました。
「1町歩あたり1-1.5万個くらいのカボチャが採れる。今ある4町歩からきちんと収穫できれば収量は十分なんだ。だからこれ以上圃場を拡大するつもりはない。
しかし、今の圃場に手間をかけて、きちんと収穫できるようにしなくてはいけないと思っているよ。
今年、収量が減ったのは長雨のせい。畑に水が入ったからダメになった。もし、圃場を少しでも高くしておいたら、その害はなかったはず。以前はそうしていたんだけど、面積が拡大するにつれやらなくなってきてしまっていた。うまくいっていたこともあるしね。
でも、"ズボラこく(※)"のは、農業では良くないことだと、今回はは身に染みて痛感した年だった。
※「手間を省いて、スボラをしてしまうこと。」注釈不要とは思いましたが、念のため・・・
来年から原点に戻って圃場を高く作るよ。プラオという農機具をいれて、土を起こして作るんだ。それをやれば、20cmくらいは高くできる。今回の大雨でもクリアできるようになる見込みだよ。もう今年のような思いは二度としないようにする。」
今年の痛手を胸に刻み、来年以降の対策を語る片桐さん。忸怩たる思いでいっぱいなのでしょうが、それを一切お顔に出さず、ニコニコと笑顔で答えてくれます。
それから、市場の変化に伴い、片桐さんのもう一つの方針。
「早い需要に応えられるように、早生品種を検討していこうと思うんだ。
着果日数110日の品種では、最早でも9月10日に収穫。でも65日の品種なら8月末くらいに収穫できる。
だから65日の品種を中心に取り入れていきたいね。」
是非、来年からも片桐さんのカボチャに注目したいと思います。
★(ちょっとだけ)カボチャのトリビア
片桐さんに教えていただいた、カボチャのトリビア。
カボチャはカンボジアから日本に渡ったからカボチャというのはご存知の方も多いと思いますが、元々は南北アメリカ原産。それをスペイン人が大航海時代に自国に持ち帰り、ヨーロッパに広めました。
栽培が容易なこと、栄養価が高い上においしいことなどで、拡散のスピードは速かったといいます。生産性が良くておいしければ、皆が作るのでその分、速く伝播するわけですね。
スペイン人が南インドシナに航海したときに、世界各地に落としていったか、置いて行ったかでアジアにもカボチャが伝わりました。そのうちの一つの国が現在のカンボジア。地球の裏側からヨーロッパを経由し、日本に渡来したわけですが、日本にとっては、カンボジアから伝わったので、"カボチャ"というわけですね。
日本で栽培し始めたときは救荒作物としてカボチャが作られました。天候不順で畑作や水稲のなどができないときはカボチャが作られたのです。
似たような野菜の命名例で面白いのが、サツマイモ。
サツマイモは中国から琉球を経て、鹿児島(薩摩)、本州へと伝わりました。
本州の人からすれば薩摩から伝わったので、"サツマイモ"と呼びます。
しかし、薩摩の人は琉球から伝わったので、"琉球イモ"と呼びます。
さらには琉球の人は、中国から伝わったので"唐イモ"と呼ぶのだとか。
野菜の伝来と命名の関係は面白いものですね。
★たかがカボチャ、されどカボチャ
片桐さんにとってカボチャってなんですか。
「ホント、たかがカボチャ、されどカボチャだって思うね。
カボチャ作りは楽しいよ。売れるともっと楽しい。
定植してみて何が生まれるかわからないっていうところが醍醐味だね。とりあえず品種の予定を立てて作るんだけど、実際には交配して違うものができるんだ。オレンジが出るはずだったのに、真っ黒けが出てきたり、真っ白のカボチャが出てきたり。
完全にメンデルの法則だね。カボチャは自家受粉はしないので、必ずハチが飛んできて、ほかの株の花粉と交配してくれないと着果しない。だから、雑種となるんだけど、先祖還りのような思いもしないカボチャが生まれてくる。
この面白さがあるからこそ、カボチャ生産は私のHOBBYでもあるんだ。真剣そのものだけど。
たかがカボチャなんだよ。でも私にとってはされどカボチャなんだ。人生を楽しくしてくれるもの!」
そんなスピリットで生産に携わっている片桐さんのカボチャを、みなさまには是非一度手に取って、楽しさをシェアしていただきたいと思います。
ウンチク探検隊のカボチャをめぐる冒険は、この第6話をもっておしまいです。
しかし、ハロウィン本番はこれから!この冒険の終わりが、みなさまにとっての始まりです!
・・・な~ンちゃって★
みなさま、今年もHAPPY HALLOWEENをお過ごしくださいませ
また逢ふ日まで、ごきげんよう。
蛇足的ですが、ハロウィンに関するトリビアはこちら・・・ハロウィン発祥の際は、カボチャではなく別の野菜を使っていたのです!その野菜とは?
<写真・文責>:ikuko naito@花研
]]>砂川市は、札幌市と旭川市のほぼ中間に位置し、明治23年、この大地に開拓の鍬が下されて以来、交通の要衝として栄えてきました。また鉱工業も盛んで、かつては石炭産業でその名を馳せた町でもあります。
深川市から電車で滝川市を通り砂川市にやってまいりましたが、深川から逆次は旭川市・・・なんだか「●川」って地名、多くない??なーんて思ったら、「川」が付く自治体が4つ以上連続するのは、やはり全国でも珍しいのだとか。
共通している点は、これらの市が全て「石狩川」沿いにあること。
砂川の地名はアイヌ語の「オタ(砂)・ウシ(多い)・ナイ(川)」に由来するのだとか。
そんな砂川市は、知られざる日本一を持つ町でもあります。
美しい町づくりのために市を挙げて緑化に力を入れていて、なんと「市民一人あたりの公園面積が日本一!」(2014年)。
しかしこの町には、もう一つ日本に誇るものがございましてね。この度は砂川市が誇る、ある生産者さんを訪問するためにウン探が冒険に出たというわけです。
砂川駅から2キロくらいのところにあるこの看板。
そう、今回の訪問先はカボチャ生産の「片桐農園」さまです。
この看板に描かれたお顔の方を探していたら、すぐわかりました。
こちらが片桐農園のご主人・片桐光一(かたぎり・こういち)さん。ほんとそっくり!
片桐さんは、広さ4町歩(ちょうぶ)、30品種以上もオモシロカボチャを集めて、生産・出荷している大変ユニークな個選の生産者さんです。
この目の前に広がるカボチャ畑・・・カメラに収まらないケド
うンワー、広い!っていっても、4町歩ってどのくらい?
町歩とは、面積を示す単位の「町(ちょう;丁と書くことも)」のことなのですが、長さでも「町」という単位が存在するため、紛らわしいので、あえて「町歩」といって区別を付けることがあります。
1町歩はおよそ10反。
1反は300坪、990平方メートル、10畝(せ)となります。
ですから、1反×10が1町歩で、4町歩といえばその4倍ですから、
12,000坪、40,000平方メートル、400畝となります。あーもー、なんだかわからんくなってきた(*_*;
別の単位でいくとおよそ4ha(ヘクタール)あります。あ、つまりそういうことです。
東京ドームが4.7haなので、それよりひとまわり小さいくらいの圃場で、たった1軒でカボチャを作っていらっしゃるわけです。
北海道は大きく、収穫量のポテンシャルは果てしなく高い!
では早速、片桐農園さんとともにカボチャをめぐる冒険に出発です!
<第5話 目次> 片桐農園さん前編
★片桐農園さん流 品種選定
★昨今の人気と取引の傾向
★生産
CHAPTER 1. 天候とカボチャの密接な関係
CHAPTER 2. キュアリング❤
CHAPTER 3. 収穫のタイミングはどうみる?
★片桐農園さん流 品種選定
片桐農園さんで手掛けているカボチャの品種数は30品種以上。
しかし、いずれも見た目の面白さだけで選んでいるわけではありません。品種選びには、片桐さん流のノウハウがあります。では、どのあたりを基準に選ばれるのでしょうか。
「まず着果日数。
カボチャは、畑に定植してから着果・収穫まで100日というのが基準。
重量の競技用にも使われる巨大な品種"アトランティック・ジャイアント"は収穫までが長くて110日。
それ以上日数がかかる品種は北海道では作れない。」
なるほど、ここでどんなにカワイイと思ってもバッサリとふるいにかけるわけですね。
「北海道は秋の到来が早いから、着果日数が長いものは、実が完熟せず未熟なままで終わってしまうからね。基本的には100日以下の品種を選ぶ。
大型種で90-95日くらい、
中型種で70-80日くらい、
小型種なら65-70日くらいかな」
やはり小さい方が収穫までの日数が短いのですね。
「そうそう。
それからカボチャは開花から収穫まで最大品種でも45日、ミニなら25日くらいで収穫できる。ミニ品種は今年のような雨の多い年でもなんとか収穫できるわけだよね。
ミニの方が展開が早いから取り入れやすいというワケ。
例えばこれはネオン。カナダで開発された品種。定植後65日で収穫できる。
秋が早い北海道には、カナダの品種は結構合うんだよ。」
なるほど、このサイズで65日なら良い方でしょうか。
何より着果日数が北海道の気候に適っているかどうかが第一関門というわけですね。
2番目のポイントは?
「形。
昔は"ロングフェイス"といって縦長のものが喜ばれたんだよ。
なぜなら、置いておくと遠くから見て目立つからってことでね。だけど尖がっていると座りが悪いから、徐々に平べったいもの、安定性のあるものの人気が出てきたんだよ。」
なるほど、時流にあった形をしているかどうかということですね。
他にもポイントはありますか?
「それからカボチャの大敵はウドン粉病。これにかかりやすいかどうかを見るんだ。」
カボチャの宿命とでもいうべく、ウドンコ病はやっかいな植物の病気。カボチャウドンコ病という菌があるくらいです。
最初は葉にウドン粉を吹きかけたように白くなっていくのですが、放っておくと実にも伝染してしまうのです。どうしてもウドンコ病にかかってしまうものなのですが、できるだけかかりにくい品種であることがもちろん望ましい。
砂川や深川一帯はソバ粉の生産量が日本一だというのに、ソバ粉ではなくウドン粉病が付くなんてね(*_*;
「そこで、最近はウドン粉病に耐性のある品種改良が進んでいるんだ。
その代わり、そういう優良品種はタネ代が3倍になるんだけど、それでもやはりウドンコ病には強い品種の方がいいよね。」
ここで片桐さんの品種についてご紹介いたしましょう。
★品種について
「これはデイジーという品種」
"デイジー"だなんて、かわいい名前ですね。
「なぜかわかる?」
はて?「(゚ペ)
「上か見るとデイジー(ヒナギク)の花みたいでしょ。
私には桜に見えるから、チェリーでもいいんじゃないかと思うんだけど、デイジーっていうんだ。5-6枚の花弁が開いたような形なんだよ。」
あんりまあ、ほんと。桜かデイジーかって感じですね。
活躍中のラグビー日本代表のエンブレムを思わせます。生花店さんや生活者のみなさまにも喜ばれる品種に違いありません。
こちらはアラジン(左)とレッドターバン(右)。
本当にアラジンと魔法のランプに出てくるオジサン(アラジン)が頭にターバンを巻いたイメージが伝わりますね。
他のオレンジより色が濃い「赤ずきん」など、他では見つけられない品種があるのが片桐農園さんの特長です。
ところで、これらは食べられるんですか?
「カボチャは主に2つのカテゴリーに分けられるんだ。パンプキンとペポ。」
カボチャ=パンプキンだと思っていましたー!←<誤>
日本語ではパンプキンやペポなどの総称がカボチャとなるわけですね。←<正>
それにしてもペポって??聞き間違えたかな?
パピプペポのペポ??PEPO??
「そう、ペポというのはこういうグループ。
皮しかなくて、果肉がないんだよ。厚い皮の中にタネがある。」
そんな!?片桐さん、アタクシの乏しい想像力では、そういうの全くイメージできないんですけど・・・
「んじゃ、実を切ってあげるよ。」
え?いいんでしょうか??
ありがとうございます(涙)
鑑賞用のカボチャを割るのって意外と勇気入りますよね!?うんちく探検隊読者の皆様の中にも、切って中身をご覧になった方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。
ということで、片桐さんの優しいお言葉に甘えて、パッカーンと切っていただきました!
パッカーンッ★
ペポを割るとこんな感じ。
実のように見える部分は皮。つまり食べるところがない。これがペポの特徴です。柔らかければ噛めるとしても、おいしくありませーん。
一方、パンプキンは、「皮+実+タネ」が基本的な構成。私たちが日ごろから食すタイプのもの。可食部がしっかりあるのです。これが大きな違い。
コチラはまた片桐さんらしいユニークな品種。片桐さんは観賞用に生産していますが、元来はタネを食べる品種です。
通常、タネは固い殻の中に柔らかい種子が入っていますが、こちらの品種は外側の固い殻がなくそのまま食べられるのです。
「炒って食べると、柔らかいピーナッツみたいですおいしいよ。ケーキ屋さんでよく使われるんだ。」
と言いながら、またまたパッカーン!と切ってくださいました。
タネはこんな感じ。これを炒るとそのまま食べられるのです・・・しかし、タネ以外可食部はありません。
「見た目としても模様がユニークで面白いかなと思って、観賞用に今年から作ってみたんだ。新品種だよ。」
そんな片桐さんのこだわりの面白品種を集めたのが「クレイジーミックス」。このような変り種のミニサイズカボチャが1箱35個セットになっています。
片桐さんの品種の多彩さを象徴したバラエティボックスです。是非一度お試しください。
★昨今の人気と取引の傾向
昨今の取引傾向に変化が見られるという片桐さん。
どのあたりが変わってきているのでしょうか。
「品種で言えば、小型種と形が極端に変わったもの、珍しいものという傾向に変わってきているかな。
例えば、こちらのペアストライプ↓
これは日本でも戦前から作られていて、100年も前からこの形でよく知られた品種なんだ。関東でも作っているし、真新しさに欠ける。
だから人気の点からはイマイチ。
どこでも採れるタイプよりも、北海道でしか採れない方がもちろん人気も価値もある。
ベレー帽タイプのレッドターバンとかは人気だよ。
とりわけ今年で言えば、白いミニが人気。」
品種のほかに何か感じる変化はありますか。
「取引でいえばタイミングが早くなった。年々市場からの注文が早くなってきているんだ。
ほんの5年くらい前まで、"9月23日前後のお彼岸が終わるまではカボチャは売れないから送らないで"と言われていた。」
なるほど、お彼岸が終わるまではカボチャは動かないからですね。
「ところが、特に若い世代にはお彼岸の商品よりハロウィンの方が受けるでしょ。だからお彼岸前からもう注文が入るんだよ。
お彼岸用品といえば、取引に関係してくるのは主にお寺さんとローソク屋さんと花屋さん」
ちょうどそのころ忙しくなるお仕事の方ですね。
「だけど、ハロウィンともなれば洋服屋さんに商業施設もおもちゃ屋さんもレストランもホテルも、あらゆる業種がハロウィンを意識して売り物にしようと考えるようになったでしょ。
規模も多いし競争にもなってくるから、やはりカボチャの動きは年々早くなってくる。
来年はもっと早くなるんじゃないかって予想しているんだ。」
ハロウィンのマーケットサイズは、今や1,100~1,200億円程度とも試算されていますが、今年あたりはさらに大きくなっているのではないでしょうか。1,150億円(2014年)といわれるバレンタインのマーケットに追いつけ追い越せの勢いです。
"当日"だけではなく、1か月以上前から街はハロウィンムード。取引の期間が長いということもハロウィンマーケットの特色と言えるかもしれません。
「しかし、これ以上取引のタイミングが早くなると、北海道の生産は間に合わなくなってくる。8月中に切り上げないといけなくなるから、その点の対応が難しくなってくるような気がする。
一般の消費者が買うタイミングが早くなったわけではなく、ディスプレイ用など商業利用している人たちのタイミングが早くなったからなんだけど。
じゃあ、早く出荷するためには、種まきを早くすればいいかというと、そういうことでもないんだ。」
何が問題なのでしょう??
「北海道では5月15-20日くらいにかけて霜が降りるんだよ。遅霜(おそじも)っていうんだけどね。
本州では藤の花が満開を迎えるころ、北海道では雪が降ったりするからね(笑)
だからそういう時期に定植すると、カボチャは霜に弱いからダメになっちゃう。」
早く出荷したいなら、早くタネまきをすればいいというほど単純にはいかないわけですね。これは、なおさら着果日数の短い品種を選ぶ必要がありそうです。
では、カボチャの生産についても伺ってみましょう。
★片桐農園さん流のカボチャ生産については、以下の順でご紹介します。
CHAPTER 1. 天候とカボチャの密接な関係
CHAPTER 2. キュアリング❤
CHAPTER 3. 収穫のタイミングはどうみる?
CHAPTER 4. あなどる?あなどらない?土のクオリティ
CHAPTER 5. 空飛ぶカボチャ
CHAPTER 6. ネズミとコオロギのカジリ対決
ではまず天候から。
CHPATER1 : 天候
カボチャの生産は天候に大きく明暗を左右される品目の一つです。その年の作柄は何より天気が主導権を握ります。
注意すべきは雨と暑さ。
「今年は雨でやられちゃったけど、去年は暑さでやられちゃってね」
カボチャという言葉はカンボジアからきているだけに、温かいところでできるイメージですが、そうでもないのですね。
「生産国は熱帯でも、標高の高い高原とか涼しいところが好ましい。夜温がしっかり下がることも大切。
夜温が22℃を超えると、ツボミの中で花粉が分解して開花しなくなるんだ。」
ぶ、分解??空中分解ならぬ、花中分解?
「花の中にはめしべとおしべがあるでしょ。
めしべは暑くても大丈夫なんだけど、おしべの場合、暑いとその鞘の中の花粉が死んでしまうんだよ。
花が開くと花粉鞘も開いて、受粉できるようになるんだけど、それまでの間に温度が高いと鞘の中で花粉ができなくなっちゃうんだ。たとえ蜂がブンブン飛んでいてもね。すると着果しなくなっていまう。」
なるほど、だから夜温がしっかり下がることが大切なんですね。
国内でも鑑賞用カボチャを考えると、高冷地が多いですね。北海道が圧倒的にシェアが多いのですが、ほかに長野や岩手、群馬などで生産されています。
「一方、今年は雨で頭が痛かったよ。
7月10日から8月10日くらいまでほとんど雨が止まなかった。本州の梅雨みたいな時期が北海道でもあったんだよ。北海道は本来梅雨はないのにね。」
片桐さんのところでは、水田転作でこのように少し低くなっているところがあります。
↑周りの畔が高いのに対し、圃場が一段低くなっているのがわかるでしょうか。それだけに長雨で水が溜まってしまい、カボチャに腐れが出てしまうのです。水が溜まっていると、除草剤も効かなくなってしまいます。
カボチャの場合、多湿より雨が降らない方が良い。今年の長雨は作柄に大きく影響してしまいました。 (詳細後述)
CHAPTER 2 : キュアリング
カボチャたるもの、収穫したらすぐに出荷というわけにはいかない!・・・ということは、「カボチャをめぐる冒険第1-4話」でご紹介させていただきました。
もちろん片桐農園様でもきちんと風乾させてから出荷しています。
片桐さんはこの工程を「キュアリング」とおっしゃいます。なんだかとってもカッチョエエ響き~(´▽`)!!
「治療する」を意味する英語の"CURE"からきているのですか?
「そうそう、"養生"とかそういう意味ね」
なるほど、収穫後に養生させるからキュアリング。キュアリングの際、気を付けないといけないのは、
① 風通し
② 遮光
このうち、どちらを優先するかといえば、実は②。カボ様に直射日光は大敵なのです。 日光が当たりすぎるとどうなるのでしょうか。
「黒くなってしまうんだよ。直射日光が強ければ、1日で真っ黒けだよ。
昨年は1棟分、まるまる廃棄したんだ・・・(*_*;)トホホ」
気温は9月で太陽が出ればハウスの中は最高で30℃以上。夜は17-18℃。洗って、並べて、キュアリング。
片桐農園さんでは品種ごとに棟を分け、中型以上はベンチ式にして、キュアリングしていらっしゃいました。
↑仕事が楽しくなりそうなタワシ。
CHAPTER 3: 収穫のタイミングは?
タイミングを計るために見るところは二つあります。一つは、実の上部の色。
「このカボチャの実の緑色がなくなったときが収穫期。」
これはまだ未熟。
「だけど、今年は雨でやむを得ずフライング収穫をしたんだ。」
その場合はキュアリングをしながら追熟させます。このカボチャは若い時は緑色のカボチャで徐々にオレンジ色になっていく品種なので、緑色が完全に抜けたこちらが本来の収穫期。
「中型種は、色が徐々に変わるから、実の色を見ることが重要なんだよ。
一方、小型種は最初から本来の色をしているので、実の色でタイミングを図ることはできない。」
はて(*゚・゚)、ではどうしたらいいのでしょうか。
「軸の色を見る。」
なるほど、この軸の部分ですね。
「軸の部分にグリーンのマーブル模様が入るようになったら収穫期。
もしくは、マーブル模様の入らない品種は、軸を持って折ってみるといいんだ。ポキッと折れれば収穫期。」
そう、二つ目のポイントは軸を見るということ!
マーブル模様になってきたら収穫OK。品種の性質上マーブルにならないものは触ってみる、あるいは折ってみる。
柔らかくてグジュッと折れてしまう場合は、収穫はまだ早いのです。
例えばこちらの写真↓のうち、手前のカボチャは完熟になって収穫したもの。軸がしっかりしています。
「完熟してから収穫したものは、乾いてからも軸が細くならないんだ。」
一方、奥のカボチャは雨のためやむを得ず未熟のまま収穫したもの。軸が柔らかく、力なく折れたまま乾いています。
このようにヘタが折れてしまうこともあるのだとか。
ではヘタに収穫できませんね(*´ェ`*) テヘ
ですから、まずヘタを触ってみるということが収穫のポイントになります。
まだまだ「生産」の途中ではありますが、ここで一旦まとめ。
◆片桐農園さん流品種選びは・・・
①着果日数
②ユニークな形 ~人気品種に変化あり~
③病気に強いもの
最近の取引は、タイミングが早くなってきているため、早生品種も重要になってくる見込み!
◆生産は暑さと雨に注意せよ!
キュアリングは、風通しと、何より遮光に充分留意すべし!
◆収穫のタイミングは?
①中型種は完全に色が載ってから!
②色に変化のない品種は軸を見る!
<写真・文責>:ikuko naito@花研
]]>カボチャをめぐる冒険第4話は、まだまだ尽きない北空知のカボチャのうんちく!"これまで伝えきれなかった諸々"についてご紹介いたします。
CHAPTER1 成長街道まっしぐら!~北空知の新規就農者さんたち~
前回までのお話の通り、北空知広域連様は需要の変化に対応してきたからこそ生産拡大に成功してきました。また、逆説的ではありますが需要の変化に対応するために、生産者さんを増やしてきたとも言えるでしょう。
「私は今年1町歩から1.8町歩に増やしたよ。
最初は、生食用で作っていたカボチャの生産者さんを中心に、6軒から始めた観賞用のカボチャ生産だったけど、現在は67軒になった。」とおっしゃる山本さん。
生産者さんの人数も増えていますし、お一人あたりの生産面積も増えています。
みなさま、67軒か・・・と流さないでくださいね。
67軒といっても、ただの67軒ではありません。
前年比150%の伸びの67軒ですよ。今年は新規で25-27件ほど参入されているのです。
このご時世の下、花き生産でこれほどまでの伸びを見せる品目はそう簡単に見つけることはません。
相変わらずカボチャ色のタオルを首にかけた佐藤さん曰く、
「異様ですよね(笑)」←嬉しそう
それだけカボチャ生産に魅力があるということでしょう。
初期投資を抑えつつ、一定の収益が見込める農産物として、鑑賞カボチャという選択肢はとても魅力的です。
水稲など自分の主力品目と並行しながら、サブ品目として着手できるなど、スタートしやすい条件がそろっているということも理由の一つでしょう。
そしてぬぁんと偶然にも取材中にカボチャを農協の集荷所に持ってきてくださった若手跡継ぎさんと新規の生産者さんにお会いできました!
こちらは日本のハロウィンを支える北空知の若手後継者、土田さん。
ププーッと軽トラにプッチーニを運んで、慣れた手つきで荷降ろしを行います。
「北空知はカボチャ作りもうまいけど、イケメンもたくさんいるんだ」と誇らしげな佐藤さん。
なぬッ?!イ、イケメン?( ̄ー ̄)ニヤリ
土田さーん、お仕事中すみません。ウン探読者の皆様にご紹介したいので(あるいは、自分の目の保養が本来の目的か?)、少しだけこちらを向いてください!
「はい、土田です」
ぬぁ~んと爽やかスマイル★
間違いなくイケメン!迷彩柄のお帽子と秋色のつなぎが良くお似合いです。このような方が作っていらっしゃると思えば、カボチャを見る目も変わってくるというものです。
もう1軒、ププーッとワンボックス車でご登場されて、カボチャを降ろす方が・・・。
「私はやめて~!」と笑顔で小走りされるお母さま。
今年からカボチャ生産を始めた新規の生産者、岩田さんです。ぬぁんと、この日が岩田さんにとって人生カボチャ初出荷!
ドキドキのうちに荷を降ろし、佐藤さんの顔色を窺います。品質、選別、梱包等、いかがでしょうか・・・。
「岩田さぁん・・・」とため息交じりで佐藤さんが語りかけます。
不安そうなまなざしの岩田さん。
傍で見ているこちらもドッキドキです((o(б_б;)o))dokidoki
まるでクイズミリオネアでファイナルアンサーの後、みのもんたさんの「タメ」をじっと待っているかのようなバックバクの瞬間。
佐藤さん、いかがでしょう。そろそろお答えを・・・
「カンペキ」
ワーイ!「カンペキ」をいただきました!
佐藤さんからお墨付きを得て岩田さんは大喜びです。・・・ていうか、ウン探が大喜び。
「これまでお米生産ばかりで、こういうの出荷したのは初めて!」
と岩田さん。カボチャ生産はいかがでしたか?
「楽しかった~❤
だんだん大きくなっていったり、オレンジに色付いていったり、生長とともに変化する姿を見るのが、本当に楽しかった。」
北空知には頼もしい生産者さんが続々登場しています。カボチャ生産はまだまだ成長路線まっしぐらです!
CHAPTER2 物流改善と多機能パッケージ
こちらは北空知広域連さんのおもちゃカボチャ用共通箱です。
しかしこの箱、オバケっぽいおじさんの顔が書いてあるただの箱ではありませんぞ。実は"しかけ"がたくさん。
商品を保護する役割、積載効率や持ち運びが考慮された形・・・まではほかの梱包と同様ですが、北空知が違うのは次のポイント。
①ハロウィンのあれこれを伝えた情報媒体でもあること
ふたの耳には、このような情報が記載してあり、情報伝達型の梱包箱と言えるでしょう。一つ一つの箱にハロウィンについて説明書を入れることなく、それと同様の効果を提供できています。同じパフォーマンスでありながらコスト削減にもつながっているのです。
②店頭での陳列の手間を省く作業効率を考えた便利な什器としての機能を備えていること
↓ミシン目で切って折り立てると、ポップアップ式に立体的な什器に変身!
量販店や小売店さんなど、販売に忙しい方々が展示で過剰に時間を割かれることのないようになっています。
これはかなりユーザーフレンドリーなしかけですね。
③ハロウィンパーティに活用できるカボチャのお面付き!"体験"を提案するパッケージ
コチラもミシン目で切り取ると、お面や室内装飾としてチョックラ使えるカボチャグッズ誕生。まさに楽しいハロウィンを提案する遊び心満載の梱包箱。運んでいるのは、カボチャだけじゃないんです。
④もちろん自産地のPRも忘れない署名入り
一口に北海道といっても言っても広いからネー。やはり「北育ち元気村」という場所を覚えてもらわないと。そのためには、こーゆー情報って重要。
たった6面しかない箱(耳を入れれば8面ですが)のはずなのに、もうなんだかスンゴイしかけw( ▼o▼ )w
シャレオツな展示什器でもあり、消費者に対してもアピール力の高い広告&情報媒体でもある、まさに多機能パッケージなのです。
ハロウィンの後はおもちゃ収納箱として使っちゃえば!って思ってしまいますが、いずれにしても極めて高い付加価値のあるパッケージと言えます。
これはかなりの優れモノです
CHAPTER3 意表を突くカボチャたち ~今さらだけど知っておきたい彼らの本当の性質~
★"ファイト一発ッ!" カボチャのクルクル
よく見るとカボチャにも電話線のようなクルクルヒゲが出ていることがわかります。
持ち上げようとすると、地面やほかの蔓にしっかりと絡まり、意外と力が必要。無理して抜こうとすると、地面から離れるより先に蔓が切れてしまう。
佐藤さん、な、なんですか、コレは?
「巻蔓(まきづる)だよ」
カボチャにとって必要なんですか?
「それが必要なんだ。これで自分の身体がグラグラと動かないように、ほかの誰かにつかまるんだよ。
地面に自分自身を固定したり、実際地面に刺さるように伸びていくんだけど(!)、ほかのものと絡んで、自分自身を固定するんだ。」
そんな性質があるのですね。カボチャにとっては蔓の伸長が安定するんですね。
「私たちにとってもカボチャの実が動かなくなるから、地面に擦れてできる傷を減らすことができる」
わー、これなんて、あっちとこっちの蔦のクルクルがお互いに絡み合っている!
崖に落ちそうな仲間の腕をしっかり握ってなさない"ファイトーッ!一発ッ!"の絡み合う腕のようだわ!
よーく見てみると、クルクルだけでなく、なんだか蔓の途中から根も出ている??ナンデ?
「これを不定根(ふていこん)というんだ。
株元の根ではなく、本来の根の場所ではない(不定期な)ところから出ている根だから不定根。
こうして伸びた蔓のからも発根するから、株元から切り離されたとしても先端の植物体だけで生きていけるんだ。」
ンわッ!スゴイ生命力。フテイ植物だ!
いや、だからこそ栄養価の高いカボチャができるというもの。日本でも戦時中は食糧を確保するために、
「何が何でもカボチャを作れ! 必勝食糧 絶対確保!」
と東京都がポスターまで作って、カボチャの生産を奨励したものです。生産からここまで見てくると、「何が何でもカボチャを・・・」と言っていたのもうなづけますね。
★カボチャのトゲ
痛ッ!(@_@;)!!
カボチャの葉に触れてみたものの、あまりの痛さにびくっとして、腕を引いてしまいました。
よくみると、指に小さなトゲが刺さっているではありませんか!
葉の裏や茎からはトゲが・・・!
しかも結構キツイとげ。なにやらピラニアの口の中を見ているみたい。・・・見たことないけど。
美しくないものにもトゲがあるんですか?
「そうなんだ、カボチャには茎にも葉にもとげがあるんだよ」
しかも結構大きくて鋭い。これ、どのように対処するんですか?
「作業の時は革の手袋と、腕抜きと呼ばれる腕カバーを装着。しかも2枚。
そのくらいしないと、刺さるし肌が荒れるし・・・
でも、収穫の時など夢中になって顔を突っ込んで仕事をしているうちに、顔にトゲが刺さっちゃったりするんだけどね(笑)」
うわ~、アタタタッ(ノ◇≦。) !!(痛)
すると突然佐藤さんが・・・
「あ、ヘビ」
どれどれどれ・・・(」゚ロ゚)」(。ロ。)ドコドコ??
ぎょえーーー!Σ(=д=ノ)ノ
ウンわーーーッ!ヘッ、ヘッ、ヘビじゃ! 逃げろーーーーーε=ε=ε=┌(;*´Д`)ノ
っと逃げた先には、ヘビの抜け殻が∑(゚m゚=)!!ドキッ
ヘビも出るし、鹿も出る。ハロウィンになったらオバケも出んのかな~ ~(m´ρ`)mヒュードロドロ
鹿には電流鉄線で対応していますが、何しろ生産者さんは生産そのもの以外においてもいろいろと大変なのです。
それなのに、自らは大変だと決して口にせず、笑顔でカボチャへの思いだけを語る。生産者さんたちには本当に頭が下がるばかりです。
CHAPTER4 みんなが知りたいQ&A集!"もっと知りたいこと"
Q1:北空知さんの今年のカボチャの作柄はいかがですか?
A1:「まあまあ」(ニコッ^^)
と佐藤さん。
昨年は、収穫期の長雨で空前絶後の大不作に悩まされたといいますが、それに比べたら、今年は順調ということですね。皆様からのご出荷を楽しみにしていますよ!
Q2.:カボチャって野菜じゃないの?どうして花き市場で販売されているの?
A2:口に入れずに見て楽しむ観賞用の植物をすべて「花き(かき)」といいます。
その植物に花がついていなくても、例えば葉物、枝物、根だけのもの、植木盆栽類、芝、カボチャもす含め、口に入れずに見て楽しむ植物は「花き」として、花き市場で取り扱われるのです。
ですから、ハロウィンのカボチャのように、見たり、触ったりして楽しむものは、「花き」の分類となり、大田花きのような花き市場で取引が行われます。
Q3:ハロウィンのカボチャを買って、タネを採ってまいたら、来年同じカボチャがたくさんできる?
A3:Yes and Noです。
できるときもありますが、観賞用の花きは見た目が良いように交配してあります。
タネをまいても、その親の血が強くて、どちらかの親の姿が出てしまう可能性大きいのです。
あるいは、近くで別のカボチャを栽培していることがあれば、交配する可能性も。
しかし、その姿に拘らなければ、タネをまいて収穫すればカボチャの実は成るので、面白いかもしれません。4月ころに播種してみてくださいね。
Q4:生花店を経営していますが、10月になってから注文しても大丈夫?
A4:ハロウィン直前の急なご要望には、お応えしきれないことがあります。
夏から計画的に生産して、収穫して、洗って、磨いて、風乾してという行程を踏み、出荷できる量は決まっているのです。
注文を受けてから、圃場にあるものを切って、出荷というわけではないので、是非十分余裕を持ってオーダーしてください!
北空知広域連様からのお知らせ
「北空知広域連からはカボチャだけではなく、これからスズバラにダリアにナナカマドなどをはじめとした秋素材、ハロウィン素材が今が旬とばかりにたくさん出荷されています。
是非北空知広域連のカボチャとともに、楽しいハロウィンをお迎えください。」
北海道から「カボチャをめぐる冒険」シリーズは、次回第5話は舞台を「片桐農園様」に移してお伝えいたします!
今回は、「なぜ北空知のみなさまがカボチャを作っているのかからとカボチャ研究会発足の秘密までを紐解いていきたいと思います。なんと大田花きで最も有名な"あの人!"がウンチク探検隊vol.111にして初登場です!是非最後までご覧くださいませ。
最初にご紹介したいのは、北育ち元気村の組合長・石田隆広(いしだ・たかひろ)さん、身長184cm。なんだかどこかの俳優さんみたいですね。
"北育ち元気村"とは、北空知広域連様(農協)に出荷する花き生産者グループのことです。石田さんはそのグループの長(おさ)です。元気村のみなさまについて伺いました。
「北空知広域連の生産者さんは、99%が水田転作で花きを生産しているんだよ。花は他の農作物に比べて反収(1反あたりの収穫高)が良いんだよ。だからみなコメを生産しながらも、一方で花を生産するんだ」
なるほど、ここ深川は日本随一の米所ですからね。
石田さんの場合、全ての生産物のうち花きとカボチャはどのくらいですか?
「花きは6割から7割くらいかな、カボチャは全体の28分の1」
つまりカボチャは3.6%くらいですね。
わー、まるで「カボチャの宝石箱や~」
・・・ってどこかで聞いたような表現ですが、これだけ山積みあっても3.6%。
全体に占める割合は少ないように感じますが、結構力入れている感じ。ちょうど奥様がカボチャの選別中です。
へー、こちらでもこのようなサイズ測定治具を使っています。
メジャーを使う必要はありません。手作りっていうのがいいですね。しかし、実際には奥様は熟練の技で、これをイチイチ使わなくても、もうサイズもわかってしまうのですが。
サイズのほかにはどのようなことをチェックするのでしょうか。
「腐れをみるのよ。」と奥様。
「こういうのは、腐れになる可能性があるの。」
ひとつひとつくるっと回して見ていくなんて、大変ですね。
「もう触ったらわかるのよ~。」
と選別専門の石田さんの奥様。見なくても見えているってことですね。ここで小さい腐れでも、流通過程でこんなふうに徐々に大きくなってします。
石田さんがギュッと親指で押してみると・・・
「ほれ、汁が出てきた!」
これが生花店さんや生活者のみなさまのところで発生してはいけないからこそ、出荷前に念入り検品するわけです。こういうのは、ハロウィンまで持たない可能性がありますので。
実はこういうの、一見わからないんですよ。でも奥様は、一つ一つ手に取り、何千個と検品しているので、チョット触ればわかるのです。
と言っている間に、カボチャを一つ放り出した奥様。今のは何がダメだったんですか?
「私にはわからない」と石田さん。
奥様は「このカボチャは腐る"予感"がする」
その予感の元は、針の穴サイズの点ですよ。腐りそうなポイントを見つけて、すかさず預言とともにカボチャを放り出す。もうここまで来たら、預言者です。
でも、石田さんはなぜカボチャを作っていらっしゃるのですか?
「だって面白いからさ!楽しいじゃん、カボチャを出荷するのって。」
どのあたりがそのように思わせるのでしょう?
「そもそも15-20年前に作り始めたときは、ハロウィンは日本に定着していなかったわけよ。
だけど今の浸透ぶりをみたらカボチャを作っていてもやりがいがあるでしょ。つまり、新しい文化の創生に大きく寄与しているっていう実感があるんだよ。」
北空知の地域のご自宅では、ハロウィンの季節ともなると、どこでも玄関に大きなカボチャを飾ります。
こんな感じで↓
素敵なおうちに黄金色に染まった稲穂、秋の豊作を象徴するかのように置かれたカボチャが北海道の大地に映えますね。そこで生活される人々の幸せを物語っている光景のようにも見えます。
「そうでしょ。こうやって町全体が盛り上がるんだよ。商店街も郊外もどこでも1か月ずっとカボチャを飾るんだ。
文化になったってことだよね。」
なぜカボチャに着目されたのですか?
「今から13年前の2002年11月、農協の研修でシカゴに出向いたんだ。
ハロウィンを過ぎてもなお、大小のカボチャが街中にごろごろと装飾されているのを見て驚いたよ。街が明るく、人々が楽しそうだったことが忘れられない。
ハロウィンの仕掛け人の一人として、いつかその文化が日本に定着したら、日本中の人々が楽しくなるに違いないと確信したよ」
それ以来、石田さんは「日本中、ハッピー・ハロウィン!!」を目指して、コツコツとカボチャ生産に励んできたのです。
そんな石田さん曰く、
「カボチャ生産は"楽しい"が基本。作っている人が楽しくなかったら楽しさを生活者のみなさまにお届けすることはできないから。」
しかし生活者のみなさまに楽しんでいただくためには、ここで石田さんがしっかり選別。
ご主人とお話しさせていただいてる間に黙々と選別を進めます。真剣に楽しむ。
私たちには楽しんでいると言いながらも、生産者さんのこの地道な取り組みがあるからこそ、私たちがハロウィンを楽しめているというわけですね。
もうおひと方、北空知のカボチャ生産を牽引してきたキーパーソンをご紹介いたしましょう。
北空知広域連の「カボチャ研究会」一代目会長の山本時雄(やまもと・ときお)さん。
花きとしてのカボチャ生産の発足当初から歴史と生産の全てを知り尽くす方。北海道でもカボチャ生産の先生と呼ばれています。
【カボチャ大産地の成り立ち】
そもそもなぜ、北海道のみなさんがハロウィン用のカボチャを作ろうと思われたのですか?
「研修で東京に行ったときに、大田花きの磯村社長に"カボチャを作ってくれないか"と言われてね。
"外国ではハロウィンの盛り上がりがスゴイ。恐らく10年後、もしくは10年経たないうちに、日本でも盛り上がりを見せるだろうから、それに向けてカボチャを植えてみないか"という話があったんだ。」
え?ホントですか?本当に大田花きの社長磯村からの話がきっかけだったのですか?
むむむ・・・ということで、大田花き社長の磯村に聞いてみました。(もしかして、当コーナー初登場??)
「本当です。」
あ、やはり本当だったのですね。なぜカボチャをお願いしたのですか?
「米国文化の流入と日本の人口動態を考えてのことだよ。
今から18-19年くらい前といえば、米国で仮装パーティとして盛り上がり始めたハロウィンが、日本の生活者にもさまざまな形で届くようになり、徐々にハロウィンについての認知が高まっていったころ。
ちょうど東京ディズニーランドでもハロウィンイベントはこのころからスタートしたでしょ。それで国民の誰もが知るイベントとなった。
一方、人口動態を考えれば、団塊ジュニアが大学を卒業して、社会に出てお金を稼ぐようになった頃。彼らが消費のボリュームゾーンとして経済に影響を与え始める。米国の新しいもの、楽しいものを積極的に取り入れる彼らが、将来家族を持ったり、子供が生まれたりする頃になれば、さらに需要のパイが拡大する。またその子供たちが通う幼稚園でもカボチャを使うようになるだろうしね。
だから花き業界としてはきちんとカボチャを供給できるようになっておかないといけないと考えたんだ。
折しも、七五三や秋の菊花展なども、ちょうど盛り上がりに欠けるようになってきて、新しい文化が入りやすい土壌があった。メインの要素に加え、これらの周辺要素も合わせて考えると、ハロウィンは日本人にとって楽しいイベントとして受け入れられるようになるだろうと考えたんだよ」
このような社長磯村の見通しもあり、大田花きでは1997年から「カボチャ大市」を開催するようになりました。1997年といえば、ちょうど東京ディズニーランドがハロウィンイベントを始めた年でもあります。いずれも今年で19回目。
でも山本さん、作ってほしいと言われて、みなさん、すぐ作ろうと思われましたのでしょうか。
「すんなり提案を受け入れることができたよ。
もともと生食用を作っていたこともあるしね。」
北海道では開拓時代からカボチャは主食として盛んに生産されてきました。収穫しておけばある程度保存も利きます。北海道の厳しい冬を越すのに、栄養価の高いカボチャは大変価値のある農産物なのです。ですから、北海道の皆様はカボチャを生産していらっしゃる方が多いのです。
「生食用をたくさん作っていたところに、メキシコやニュージーランドなどからも輸入カボチャが増えてきたでしょ。
国産の価格が下がって私たち生産者は、新しい道を探していたんだよ。そこに磯村社長からその話・・・。
北海道に戻ってきて、部会のみんなにカボチャ生産に興味があるかって聞いてみたら、"アルッ!"ていうんだ。
おまけに、既におもちゃカボチャを作っている人がいるよって話になってね。」
その方ががカボチャをめぐる冒険第1-2話の吉澤さんだったというわけです。
そこで、山本さんと吉澤さんが初めて鑑賞用のカボチャ栽培をされる方をリードして、何人か有志を集めてカボチャ生産に踏み切りました。
当初は有志6軒ほどでスタート。
「たった6軒程度だったけど、いきなり900万くらい売ってね(爆)!
ハロウィン前の短期間のうちに。」
初年度でいきなりスゴイですね。
「ワオッ!てことで面白くなっちゃったのよ。これがきっかけでどんどん生産を増やしていってね」
現在、北空知広域連様でカボチャ生産に携わる農家さんは67軒。今は、花きのカボチャでは全国一の生産量を誇るまでになりました。
スタート時の10倍以上に増えました。花きばかりでなく、あらゆる農産物の中でも、これほど伸びている品目をリストアップするのはなかなか難しいことでしょう。
「今、伸びている品目ってあまりないでしょ。そんな中で、足らないと言われる品目・商品を作るというのは、生産者としては最高の悦びだよ。将来があるわけだから。」
必要とされている実感はやりがいに直結しますね。
【近年の需要変化】
最近の需要の変化は感じられますか。
「最近の変化と言えば、ハロウィン文化の地域への広がりだね。
東京ばかりではなく関西方面にも。USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のハリポタ効果が大きいかも。西と東が始めたら、全国に広がるのはもう時間の問題だろうと思うんだけど。
ここできちんと花きとしてのカボチャを供給できないと、工業製品などのカボチャに流れて行ってしまい、ハロウィンに生のカボチャという文化が定着していかない。普及が一気に広がっている今こそが重要。きちんと納品していくことがウチの産地の義務だと思っているよ」
吉澤さんにも同じ質問を伺ってみました。
「ここ10年で変わってきたことは、花屋さんと量販店の2パターンの2パターンの需要が生まれたということだね。
産地としてはその両方の需要に応えていくというのが、難しいながらも重要なこと。
量販店からしたら、店頭での手間が省けるよう装飾性のあるパッケージに入っていることが重要だし、定番商品で数をしっかり揃えることが何より先決。従来からあるプッチーニ、フルーツミックスなど、クオリティを落とさず量的に供給していく。
一方で生花店さんは、一つ一つを見たときに面白いもの、ユニークで珍しいものであることが重要。規格の統一性よりも希少性が評価される。
どちらが先に広まったかといえば、それは小売店。
ここからすそ野が広まって量販店でも扱うようになったわけだけど、後から拡大した量販店需要にも対応していったのが、ハロウィンカボチャ拡散のコツだったと言えるかもしれないね。」
6軒で誕生したカボチャの産地も、変化する需要を理解して、適切に対応していったのが、67軒まで成長した秘訣というわけですね。北空知広域連さまのカボチャ生産地誕生と成長秘話でした。
北空知のカボチャ産地形成に大きく寄与された方々。
(左から、相変わらずカボチャ色のタオルがトレードマークの北空知広域連・佐藤さん、生産者の吉澤ご夫婦、山本さん)
9月28日(月)に開催された「第19回 大田花きカボチャ大市」は、北空知広域連様から若手のイケメン3人組が応援に駆けつける中、とても盛り上がった大市になりました。
北空知広域連の大野智(嵐)こと販売課課長・白峰真樹(しらみね・まさき)さん。"北空知の花のことなら、なんでもお任せあれ!"
そして、登場した「今年の人気者」は・・・?
ぬぁんと「アナと雪の女王」さまたち。
スイカだと思っていたら、魔法が解けて、色鮮やかなカボチャに大変身!みなさま、今年もたくさんカボチャを使ってくださいと締めるストーリー。
日本流ハロウィンはいつも人々を楽しませるものなのですね
さて、女優達(中身は男性)の舞台(寸劇)の後もしっかりお仕事です。
←働く金髪の女王エルサ。違和感なし。
アナは妙に市場が似合っていて、これまた違和感なし。普段このままいても、全くおかしくない感じです。
オラフも大田市場までよく来てくださいました。
こんな風にハロウィン1か月前くらいに大田市場では「カボチャ大市」が立ちます。1年の中でも見応えのあるセリの一つ。
そんな舞台に立つまでの「カボチャをめぐる冒険 第2話」の今回は、前回のカボチャ生産の行程に引き続き、北空知広域連の吉澤さんに品種選びとプレミアムと呼ばれるスペシャルなカボチャについてご紹介いたします。
吉澤さんのところでは栽培品種20種以上。一体、どのように品種選びをしているのでしょうか。
【品種選び】
ステージ1 ◆ まずはカタログを見て、外観によるファーストインプレッション。面白そうかどうか。
ステージ2 ◆ 次に、作ってみて形状や色など写真通りに育つ品種かどうか。
同時に、収量は十分かどうか、あるいは北空知の大地で栽培したときに、ハロウィンに合わせて出荷できる品種かどうか、栽培しやすいかどうかという生産効率の問題をクリアしたもの。
ステージ3 ◆ それから、作ったものを大田花きなどの市場に出荷して、マーケットの反応を見る。ニーズと合っているようだったら本格的な生産に入るんだ。
なるほど、この3段階をクリアしたものがマーケットで生き残るんですね。
ステージ1はカボチャを使う側にとって、ステージ2が生産側にとってどうか、ステージ3でテストマーケティングということですね。
例えば、こちらはマットで陶器のような質感が特徴のオータムクラウン。
マットな質感で、何とも言えない上品なホワイトです。
このオータムクラウンは今ステージ3。マーケットの反応を見ているところです。
「こういう風合いはいままでにない品種だから面白いなって思ったし、作ってみても大丈夫そうだった。実際にお花屋さんにもこれいいねと言ってもらえたので、今後増やしていこうかなと思っているところ」
←カボチャを語るとき(だけではありませんが)何ともお優しそうな表情の吉澤さん
ここで今年の隠し玉品種をウン探だけにナイショで見せていただいてしまいました。
「リールオレンジモン。
こういう濃いオレンジって、ありそうでなかったでしょ」
なるほど、このオレンジ、確かになかったかも。かなり濃い。表面は若干艶があります。こちらもステージ3。
数年前から手掛ける"ギャラクシー・オブ・スター"。
上から見ると星形に見えるばかりでなく、ヘタの断面も不思議と星形をしています。
「これはヘタを少し長く採れるところが特徴なんだ。実が小さい分、ワイヤーを使えば、つるして使ったりできる。カボチャも置くばかりでなく、いろんな方法で使えるからいいんだ」
ハロウィンも毎年同じではありません。カボチャも毎年次から次と吉澤農園さんから新しい品種が誕生するのです。
なんだか、握って指先を刺激するボケ防止トレーニングにも使えそうな形↑ですね^ ^;
【プレミアム】
あれれ~!?ぬぁんですか、これは??
吉澤さんの作業場で見つけました。みなさん、表面に絵が描かれたカボチャってご覧になったことありませんか?
こーゆーの↓
人の名前から誰かの顔まで、なんだかカボチャに自由自在に描いてあります!
すんごいたくさんありますけど、これは一体・・・・?
「これらが北空知で取り組んでいるお絵かきパンプキンだよ」
"こんな感じの文字や絵を描いてくださーい!"と注文してから作る、オーダーメイドで唯一無二のプレミアム商品として出荷するので、「プレミアム」と呼んでいます。
でもどうやって描いているのでしょうか?
なんだか線の部分が膨らんでいるようにも見えますケド・・・σ(・・?)
糊で何かをくっつけるとか??
「カボチャを傷つけることによって、絵を書くんだよ」
なぜカボチャに傷をつけると、お絵かきできるのですか?
「そうそう。人がちょっと怪我したときに"かさぶた"ができるイメージかな。
カボチャが傷をふさごうとして、中から果汁が出てきて、それが乾くとこんもりと盛り上がった跡ができる。
これがお絵かきラインだよ。」
実はこのお絵かきライン、マスクメロンの網目模様ができる原理と同様なのです。
マスクメロンは、栽培過程で中の果肉が短い間にグワッと生長するために、表皮が割れる。そのひび割れをふさぐために、内側から果汁が出て傷跡を保護する。それが乾いてできるのがあのアミアミ⇒
カボチャのお絵かきは、外から人工的に傷をつけて、果汁を出し、模様を作っているのです。
傷をふさぐように"かさぶた"ができて、その傷を背負っては大きくなっていく・・・ってなんだか別の話をしているみたいですが、たくましいカボチャの生長にも励まされますね。
カボチャお絵かきが上手なのは、なんといっても吉澤さんの奥様・真由美さん。
どのように描くのでしょうか?
「100円均一ショップで売っているキウイナイフで描くのよ」(笑)
こちらがそのキウチナイフ。しかも"ヒャッキン!"とは、結構お手軽道具で描いてしまうものなのですね。
刃先がかぎ状になっています。丸いキウイの断面をほじる感じが、絵の曲線を描くのに動きが似ていて、適しているのでしょうか。
お絵かき、難しくありませんか?
「難しいわよ~。深く傷つけすぎちゃったりして」
深く掘り過ぎちゃうとどういうことになるのでしょう?
「そこだけ生育が止まってしまうの。かさぶたができるどころか、切り過ぎちゃうわけだから、その部分の生長が止まってしまう。全体としては、部分的にえぐれたようないびつな形になるの。
深さは5-7ミリメートルがちょうどいい。10ミリまで深く行ってしまうとアウトなのよ。」
傷が皮を通り越して、実まで到達してしまうとNG。 その加減は1cm未満がぎりぎりのところのようです。
「かといって浅すぎると、細い線しか浮かび上がらず、かわいくなかったり」
その加減がワザ。
真由美さんが今年失敗したのってありますか?・・・あったら、ナイショでウン探でお披露目しちゃおうかと。
「ないわよ❤ふふ」
あ、そうでしたか^ ^; さすが。絵も上手でお手先が起用な真由美さんは、お絵かきの失敗率は今のところゼロパーセント。
何よりお仕事が丁寧な吉澤夫妻は信頼の商品です。
「それからもう一つ大切なのは、お絵かきのタイミングなの!」
栽培過程でどのタイミングでお絵かきするかってことですか!?
「そうなの。傷つけの作業は、カボチャの実がまだ若いうちに行うのよ。」
へー、大きくなってからではないのですね。タイミングは7月上旬くらい。
まだカボチャがカボチャ色をしていない、こんなに実の青い時に、圃場で膝をついて腰を曲げて、カボチャ畑に顔をうずめて描くのです!!
サイズもまだカボチャサイズになっていません。直径はまだ15-20センチくらいでしょうか。
カボチャは、最初薄い緑から徐々に濃い緑、そこからオレンジに色付いていきます。お絵かきのタイミングは、緑が徐々に濃くなる頃、まだ「あなた瓜(ウリ)ですか?」と問いかけたくなる頃がベスト。(そう、カボチャはウリ科なのです!)
「まだ若い緑が残っている頃までに傷つけを完了するのよ。
早すぎると実が若いから、傷から雑菌が入る可能性が高くなる。さらに雨が続いたりすると傷から腐っていって商品率が低くなってしまうの。
かたや、 遅すぎるとかさぶたが上手にできないし、線が細くなったり、絵が浮かび上がらない可能性があるの。」
なるほど、お絵かきのタイミングというのがプレミアムの価値を左右しているわけですね。
写真をよーーーくご覧ください。実はこのカボチャたち↓いずれも既にお絵かきしてあるんです。
お絵かき仕立ての瞬間です。
描いたばかりの時は、どこに絵を描いたのか、もしくはなにを描いたのかわからないくらい。
それが徐々に傷が乾いて線が浮き出てくるというわけです。
「お絵かき適した品種というのもあるのよ!」という真由美さん。
その一つがこちら。"ベビーベア"という品種です。
【特徴3つ】
このとおり↓
お絵かきが浮かびやすいのは、実の糖分が高いことも関係しているようです。
確かに線が太く浮き上がって、絵が映えますね。
このようにカボチャに絵をかいたら面白いかも!?とやり始めたアイディアウーマンはもちろん真由美さん。
それにしても、なぜこのようなアイディアを思いついたのでしょうか、真由美さん??(゚ー゚*?)オヨ?
「カボチャを傷つけたら絵が描けるっていうのは前から知っていてね。
遊びで遠慮がちに時折描いて市場に送っていたんだけど、そしたら2014年から大田花きと一緒にお客様のご要望に応じた絵を描きましょうってことになってね。
お客様のご注文をいただいて、それに沿った文字や絵を描くようになったの。」
早速注文がたくさんあるようですが、畑で腰を曲げて小さなカボチャにナイフで絵を描くのって、スンゴイ大変だと思うんですけど・・・(-"-;A ...
「絵を描くのは、大変なカボチャ生産の中でも、楽しみな作業の一つなのよ~」
このように、メッセージから会社のロゴマークわがままで難しい注文も快く引き受けて描いてくださった吉澤さんの作品はたっくさん!
大田花きのロゴマークは、こんな風に描いてくださったのですね。
大田市場花き部仲卸の「大森花卉」さまのロゴマークを描けば、こちらはなんともアーティスティック★
未だに圃場に残っている「田中カボチャ」(中田カボチャか?)もあったり。ちょっとシュールな光景。
こちらはある報道番組用に描いたもの。一つのカボチャにその番組名が一つ文字ずつ刻んであります。
もちろんその番組名を明かすことはできませーん( ̄b ̄)シーーッ!!
ぜひハロウィン前の秋の夜長に報道番組に注目してみてください。
いや、ちょっと待ってくださいヨ。なんですか?あれは??(←大根役者風)
吉澤さん、そのあたりにあるカボチャ、その絵、何でしょうか??ちょっと変わった絵のようにお見受けするのですが。
どれどれ・・・カボチャの間を縫って行き、指さしたカボチャを担ぎ上げてくれた吉澤さん。
何ですか、その絵は?
「あ、これ?スナフキン。この注文があったんだよ。」
よ、よ、ヨ、よッ、よもやこれは!? w(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)w
大田花きの子会社である大田花き花の生活研究所のK所長がオーダーしたと言われるスナフキンカボチャではないか!
なんとまぁ、よくできている!
実は、こちらは大田花き花の生活研究所のK所長が自分でスナフキンを描いて「この通りに!」とお願いした無理難題お絵かき。
こちらがお願いしたときの絵。A4の紙にマジックで描いて提出。
今まで文字や会社のロゴマークはあっても、「絵」の注文を受けたのは、初めてなのだそう。
しかしまあ、これをよく上手に描いてくださったものです。しかも圃場で!
このウンチク探検隊がHPにアップされる頃には、大田市場に届いている頃でしょう・・・
と思っていたら、本当に届きました。スナフキンカボチャ!
おめでとうございます。大田花き花の生活研究所所長Kもご満悦❤
しかもスナフキンの絵以外の傷は一切なく、失礼してひっくり返してお尻を拝見しても、あのフルーツ皿の効果か、変色もでこぼこも一切見受けられません。
軸も太くて、表面もピッカピカ☆
スゴイ!なんという美品でしょうw(゚o゚*)w
吉澤さんご夫婦のカボチャに対する愛情とスピリットが表れていますね。
みなさまも何か希望がありましたら、是非お取引の仲卸さんや近くのお花屋さんにリクエストしてみてください。
ただーし!ご注文は6月までにお願いいたします。
ナンデ?
「お絵かきの作業は、6月頃に行うからです。」
7月になってからではお絵かきは間に合わないことをお忘れなく~♪
このように、新しい品種や大変なお絵かき作業など、生産してくださる方が楽しんで新しいものと次々とご提案くださることで、私たちのハロウィンもさらに楽しいものになっているのかもしれませんね。
ここ、ここッ↓
深川といえば全国でも有数の米どころ。
ソバも全国一の生産量を誇ります。
そして、もう一つ、忘れてはならないのが、
もうすぐハッピーハロウィーーーーーン!
そう、カボチャです。
カボチャの生産は、食用でも北海道が国内で70%ほどを占めるぶっちぎりで第1位。
鑑賞用のカボチャも北海道からたっくさん出荷されているのです。
今回は、ハロウィン用のユニークなカボチャたちがどのように生産されているか、ご紹介したいと思います。
今回は「カボチャをめぐる冒険」と題し、全5話にてお届けします。
まずは共選の北空知(きたそらち)広域連様<第1-4話>、その後に第5話に個選の片桐農園様をご紹介いたします。
では、北空知広域連様から。
北空知広域連様は、深川一帯で花きを生産される方々と農協さんです。今回のコーディネーターは、北空知広域連花卉事業部の佐藤貴洋(さとう・たかひろ)さん。
カボチャ色のタオルを首にかけて、準備万端です!
第1話は、「おもちゃ南瓜研究会」代表の吉澤淳(よしざわ・じゅん)さん、真由美さんご夫婦の生産から。
カボチャの場合、タネまきから出荷まで、ほかの花ものとは異なる行程を辿ります。
ステージは主に7つ。
① 播種
② 生育
③ 収穫
④ 洗い
⑤ 磨き
⑥ 乾燥(風乾)
⑦ 選別・梱包・出荷
③くらいまでは分かるとしても、洗いとか乾燥とかなんだべな~σ(゚・゚*)
では順を追ってみていきましょう。
① 播種→定植
種苗会社を通じて購入した海外の品種をメインにタネから育てます。
最初は小さなポットに入れて育苗し、大きくなったら圃場に定植します。これが5月。
② 生育 5月―8月
こちらは吉澤さんの圃場。標高はおよそ150メートル。
圃場にいらっしゃる方は、同じく北空知広域連生産者さんの山本時雄(やまもと・ときお)さん。カボチャ生産の先生です。
既に収穫後なので、葉は若干黄味がかり、雑草も生えてきていますが、バリバリ生育中は葉も青々としてこんな感じ↓(7月撮影)
良く見ると、マルチングシートが施してあります。この目的は?
吉澤さん「苗元に施した透明のマルチング素材は地温を上げるためのもの。
一方、シルバーの蔓の下に施したマルチングは泥はね防止用。
雨が降って泥がカボチャに跳ねると、品傷みの原因になるからね。」
地温を上げる理由は?
「ウチの場合、苗を定植するのは5月20日ころ。しかし、このころは北海道ではまだまだ気温が低いんだ。」
5月20日といえば、ココ深川では最高気温がせいぜい20℃。平均気温が15-6℃ほど。
「定植した後は温かいところの方が生育が良いので、ビニールを張ることによって土の温度が高く保てるんだよ。」
その頃、地温を上げることってそんなに大切なことなのでしょうか?
「そうだよ。苗の段階での生育は根を張らせることが最も重要。
根の生長を促すためには、地面の温度を保ってあげないといけなんだ。
だから定植前にビニールを張るんだよ。そうすると初期の生育が良くなる」
そして、丈夫に生長した苗。
あれ?みなさま、よーーーくご覧ください。
北海道の大地に立ってしまったら気づきませんでしたが、ちょっと引いてみると見えてきました。
実はカボチャの苗床は、このようなしくみになっていたのです。
<略図↓>
2列に植えた苗が、お互い向かい合いで蔓が伸びていくように作ってあるのです。
(お互い向かい合って伸びていく様子↓)
そして、両脇は軽トラックや作業用の車両が入って行けるように十分な間隔を開けておく。いわば「通路」ですね。
でもなぜこのような仕立てにするのでしょうか。
「日焼け防止なんだ。」
カボチャの実が直射日光を避けるために、あえてうっそうと茂るように仕立てていくのです。カボチャにとっても紫外線は大敵でしたか。
「実が葉の下に隠れれば、葉の陰で実が焼けずに済むんだ。カボチャは日焼けすると白くなっちゃうからね。」
これは食用カボチャで使われている手法です。
どうりでカボチャの実がありそうなんだけど、上からではなんだか"見えにくいな~"と思いました。
↓チョロチョロと実がありそうな感じなのですが、う~ん、よく見えないな~。
横から見るとこんな感じ↓ 茂みに隠れるように実が成るのです。
さらにその葉をかき分けて、今度はアリの眼になってよーく見ると、ちゃんと蔓をひとつひとつピンでしっかり止めてあるではありませんか!?右と左の畝からきちんと真ん中に苗が集まるように誘引、固定しているのです。
うわ、この作業、想像するだけで大変そーーだ(*_*;
収穫後はまた一つ一つ回収までするわけですからね。
カボチャ生産は、このように3本仕立てが基本です。
写真ではわかりにくいかもしれませんが、一つの苗から3本の蔓が出ています。
「1本の蔓からは3~4個のカボチャが成ると計算すれば、一つの苗から例えば10個程度のカボチャが成るとする。
すると1反歩あたりXX個収穫できる・・・というように、収量を計算できるでしょ。
1個単価がXXX円とすると、今年は売上XXX円を目指して栽培しよう、という経営の目途が立つんだ。」
なるほど、収量試算のためでもあったわけですね。とっても効率的◎!
こちらは奥様の真由美さま♪ ご主人様は「ウチの事実主任です。」と誇らしげ♪
北空知のカボチャ生産を支えていらっしゃるのは真由美さんと言っても(恐らく)過言ではない名物奥様です。
どのようにすれば3本仕立てにできるのでしょうか。
「カボチャの性質をうまく使うのよ。
そのまま何もしなければ、カボチャは親蔓(オヤヅル)一本で生長していくところ、親蔓をピンチすることで脇から子蔓(コヅル)が出てくる。
子蔓は1枚の葉の脇から1本ずつ出てくるので、3本出したいときは葉を3枚残して、4枚目の葉が出たらそれをピンチするのよ。」
なーるほどー。収量計算をしつつ、苗の生長準備ができたら、開花を待ちます。
みなさん、カボチャの花はどんな様子か、すぐイメージすることはできますか?
しおれかけていますがこんな感じ。
吉澤さん 「カボチャの花には、雄花と雌花とがあって、このうち実を着けるのは雌花のみなんだ。」
雄花の花粉が雌花に付いて受粉し、雌花が結実するというワケ。
雄花と雌花の見分け方は、花の根元に小さな丸いふくらみがあるかどうか。
↑これは花の下に膨らみがあるので、雌花。
これがどんどん大きくなって↓↓↓
カボチャの実となるのです。↓カボチャのお尻ショット。
中央からデレデレーッと垂れているのが、昔は美しく咲いていた花。実が大きくなると、こんな感じでしぼんでいくのです。
この結実がなんといっても楽しみの一つ。
一つの苗からどのくらい収穫できるものでしょうか。
「品種にもよるけど、ミニ品種は20個採れたら万々歳ね!」と真由美さん。
では、収量が落ちるようなカボチャが苦手な環境とは?
「雨ね。
雨が降ると、泥しぶきがカボチャに跳ね返り、そこから黒い斑点になったり、腐れの原因になったりするの。
だから、水はねを防止すること、また病気が入らないよう、雨が降る前に防除することが大切なんだよ。」
カボチャにとって最大の敵は多湿。
栽培中もできるだけ水を切っていくことが要。人工的に灌水することはまずありません。むしろ干ばつに強いくらい。
しかし、露地栽培している限りは、落ちてくる雨を防ぐことはできません。カボチャの出来高は、その年の雨量に大きく左右されるのです。
佐藤さん曰く、
「ここ深川は、水田からの転作が多いから、水が溜まらないようカボチャ畑を作るのはひとつの課題なんだ。
深川の土地がカボチャ生産に向いているかどうかではなく、あるものを生かしてカボチャの生産に適合させていく。
そして深川に適したカボチャの品種を選ぶコトが重要だよ。」
アラ??これ、なんですか?
座布団のようなものがそれぞれのカボ様のお尻の下に敷いてあります!?ナニナニ??
「フルーツ皿だよ。
これがないと、地面に接したカボチャの表面がガタガタ・ザラザラになっちゃう」
へー、ガタガタ・ザラザラに?c(゚.゚*)。。。
「土に長い間接していると、土の水分を吸って、表面がぼこぼこしちゃうんだ」
この白いデコボコのあるトレーはフルーツ皿といって、カボチャやメロンなど露地生産で、実が地面に接して生育する品目を栽培するときによく使います。地に付いた面に傷みが出ないよう表面を保護するものなのです。
「これがあると土に付かないようにするばかりではなく、この凹凸に空気が含まれるので、腐りにくくなるの。
だから、"売り物になってね❤"と、一つ一つ願いを込めて敷いていく。
そうするとカボチャのどの面を向けてもきれいな肌になるのよ。」
と真由美さん。中型、大型は特に注意してフルーツ皿を敷きます。
なぜなら、大型になればなるほど、その重みで地面にググッと沈んでいくから。
その分、傷みやすくなってしまうということですね。
フルーツ皿をカボさまのお尻の下にひとつひとつ敷いていく。一つ一つの作業に大きな意味と目的があるんですね。
その労働の大変さを思うと、カボチャ生産とは何たることかと思います。
真由美さんにとってカボチャとはなんですか?
「子どもです。嫁に出すまでが私の大切な子どもたちです」
と、その労を厭う様子もなく、優しい表情で語ってくださいました。
③ 収穫 8月下旬から9月上旬
北空知では迎える収穫期は8月下旬。収穫は手作業。
このようなカボチャ専用のハサミを使ってヘタを切っていきます。
このハサミの違うところは、刃がカーブになっていること。床に置いてみるとカーブしていることが良くわかります。
(↓上のハサミ。下はミニパンプキン用)
このカーブしたハサミは元々は生食用に作られたもの。確かに、生食用のカボチャを思い浮かべると、ヘタが付いていないか、すこぶる短いか。
カボチャはヘタの部分がくぼみ、回りが高くなっているので、直線的な刃ではヘタを切りにくいのです。
まっすぐなハサミで切ると、ヘタが残ってしまう。すると乾きにくくなる → 腐りやすくなる・・・という悪循環が起こります。
ですから、器型に丸くなったこのハサミを使い、実の形に添って切り取る。
全てのモノには理由があるのです。
しかーし!みなさま♪
カボチャは収穫してすぐ出荷ではないんですよ!これがほかの花きと異なる大きなポイント。
まだまだ続く出荷前の作業。
④ 洗い (収穫直後)
収穫したものはこの作業場に持ち込みます。そしてまず洗いから。
露地なので泥で汚れていることもあるからです。バケツ二つと水切り用のカゴを用意。1つ目のバケツの中で洗い、2つ目のバケツですすいでいきます。
タワシでやさーしく、やさーしく。
そのタワシも3種類を使い分け。
タイプA:ゴシゴシタワシ→凹凸の大きなカボチャ用
タイプB:スポンジ→表面がつるんとしたカボチャ用
タイプC:歯ブラシ→細部用。凹んだヘタの部分など。
タワシ、スポンジ、歯ブラシがカボチャ洗いの三種の神器。
なんといっても大きいのも小さいのも、全て手作業ですからね、コレ。ご自分の手で丹精込めて育てたカボチャを、"キレイになーれー!"とおまじないをかけながら最後の仕上げをしていくのでしょうね。
⑤ 磨き
この作業工程があるのもカボチャならでは。最後に魔法の薬をシャシャシャとかけて(カビ防止)出来上がり。
⑥ 乾燥 9月・10月
わーーーーー!洗いと磨きを終えて、なんともきれいに陳列されたカボチャたち。
この光景は吉澤さんのご苦労の賜物ですな。
ウン探取材班は、もうこの光景を一目見た瞬間に、吉澤さんのお仕事に対する丁寧さとカボチャへの愛情を理解することができました。
これを一つ一つ手で並べていくのです。
アタシだったら、ごろんごろんと放り投げておきますよ、きっと、ええ、ええ。
それを膝を床について、一つ一つ同じ向きに何百個(何千個かも)と並べるのですから、なんと気の長い作業でしょう。
この仕事の緻密さったら。神は細部に宿る!もうこれは吉澤さんの仕事の質の高さを象徴しているというものでしょう。
一度これを目にしたら、なかなか感動冷めやらないわけですが、先に進まないといけないので続けます。
カボチャの場合、収穫後に乾燥させる必要があります。これを風乾(ふうかん)といいます。こうしてきれいに並べた上で、2週間から1か月風乾させます。
「風乾」なんて行程があったんですねー、カボチャには。
知りませんでしたよ、全然。ほかの花や野菜と同様に、収穫したらすぐトラックに運ばれて市場に届くものとばかり思っていました。
ウン探も111回目にして、「風乾」なんていう行程に初めて出合いましたよ!
風乾の時の2大ポイントは、
・ 遮光・・・直射日光は厳禁です。せっかくここまで育てて収穫したのに、日焼けして白っぽくなってしまいます。
・ 風通し
吉澤さんが下に敷く毛布はマストではありませんが、緩衝剤(傷防止)、兼、下からの湿気吸収を目的としています。
風乾させて、ヘタの断面から出ていた樹液が乾き、右側のようになったら、出荷OK。
⇒
「何よりまずは、ヘタを乾かすことが重要。
湿度の低い北海道ならまだしも、ヘタが渇く前に内地に送れば、すぐさま"カビ発生"となりかねないからね。
ここで2週間乾かすことにより、商品が届いてからも長い間、品質を保つことができるんだ。
また、風乾というステージで重要なのは、カボチャを乾かすだけではなく、商品の傷みをチェックするということもあるんだよ。小さくて見落としがちな傷みは、ここで時間が経過することで大きくなり、出荷までに発見することができる。」
つまり、検品の役割も果たしているのです。
風乾の役割は品質向上(日持ち向上)と検品ですね。
それは、食べるカボチャもそうしていらっしゃるのですか?
「食用のカボチャも7-10日程度風乾するよ。
あのかぼちゃたちがそうだ。だけど風乾の役割は少し違ってくる」
(食用カボチャの風乾)
と吉澤さんが指さした先には、食用カボチャがズラリと陳列されていました。
風乾の役割が違う??
「生食用カボチャの場合は、食味を上げるという役割があるんだよ。
収穫したてはデンプン質が多いんだけど、風乾することでそのデンプンが分解されて糖になる。
そのことによってカボチャに甘味が出て、ようやく出荷となるんだ」
d品質保持と食味を上げるのが生食用カボチャにおける風乾の意義です。
観賞用と食用の違いのひとつはこの点にあるのですね。
⑦ 選別・梱包・出荷 9月・10月
サイズの選別にはこのような手作り治具を使います。段ボールでできた北空知さまお手製の秘密道具でう。
カボチャの選別は重さではなく直径なので、これが必要なのです。この点も生食用と観賞用と異なるポイントかもしれません。
なんだか、こどものシャンプーハットみたいですね!
簡易的なものではありますが、作業をされる方々のお知恵の賜物ですね。便利、便利!
選別後は箱詰めへ。緩衝材をしっかり敷いて、傷がつかないように。
長い道のりを経て、やっと出発の準備です。
【プッチーニは特別共選】
北空知広域連様では数ある品種の中でも、プッチーニだけは農協の集荷場で共同選別(共選=数多くいらっしゃる生産者さんそれぞれの基準ではなく、北空知広域連様として共通の一つの基準で選別をすること)をしています。
このように収穫したまま、サイズもランダムに箱に入れて持ち寄られ、
第三者の眼によりフェアに評価され、サイズ別に選別された後、
箱詰めされます。
相変わらずカボチャ色のタオルを首にかけた佐藤さんに伺いました。
プッチーニだけ共選である理由は何でしょうか。
「北空知のカボチャの中で、シェアが最も大きいのがプッチーニなんだ。
つまり、北空知の4番バッター。
4番バッターがコケルと信用問題にかかわるでしょ。絶対傷物だったり、選別が甘かったりしてはいけないんだ。
だけど、虫に刺されたようなちょっとした点があると、農家さん1軒1軒では見つけにくいんだよ。特にプッチーニはね。」
どれどれ??はじかれたプッチーニを拝見しました。
人差し指で指した右側の写真の小さな点・・・うンわ、チッチャ。色も薄いし、これは分かりにくい!
「カボチャは最低でも花屋さんで1か月は持たないと商品にならないよね。この虫に刺されたような点が後で致命的なダメージに広がることがある。
これを見逃さないためにも選別の専門家を配置して、共選にしているんだ。
この仕組みにしたのが2006年。それ以降、クレームはほとんどない。」
なるほど、カボチャそのものを作るばかりでなく、このような仕組みを作ったことが、カボチャビジネスを大きくしてきたわけですね。
「もうひとつ、大きくなった理由があるよ」
なんですか?
「これ、コレ」
「こうしてできるだけ箱に入れるて出荷すること。
すると、トラックの天辺までぎっしり積載することができるでしょ。その分、多くのカボチャをトラックに載せることができるってワケ。
それまでは、こういう感じで↓くるんでいたんだけどね。」
今でも箱に入らないほど大きいものはこのように"くるんで"出荷されています。
しかし、できるだけ箱に入れて出荷することで、物流効率を改善してきました。
トラックのキャパが増えるばかりでなく、生産者さんにとっては梱包作業が平易化するので、生産のキャパも上がるというわけです。
なるほど、これで北空知さんはカボチャの産地としても伸びていったのですね。
では、北空知のカボチャさんたち、大田市場で会いましょう!
大田花きからのお知らせ
来る9月28日(月)、年に1度のお楽しみイベント「カボチャ大市」が開催されます。
今年で19回を迎えるカボチャ大市は進化を遂げ、仮装ばかりではなく、その年の流行ものキャラクターによる寸劇も披露いたします。生花店・買参人・仲卸の皆様は、ぜひお見逃しなく!
満開のサクラ、
大地を黄色く染める一面の菜の花、
早春を象徴する草原の花たち、
そして、おまけにこちらはソラマメの花、
みなさ~ん\(^o^)/!南房総にはうららかな春が到来しています!
よーし、ウン探は房総を暴走しちゃうぞぉ~!←ワー、デタデタ、オヤジギャグ。。。「(ーヘー;)ヤレヤレ
南房総市といえば、市章は花をデザインしたもの。
南房総市によると、南房総市の7つの地域を7枚の花びら7枚に喩え、南房総の暖かい春のイメージを図案化したものなのだとか。南房総市の夢と希望が自然と共存し発展する姿を表しているといいますが、まさにそのことが良く伝わる素晴らしい市章ですね。みなさまはさぞかし花生産が盛んな地域と思われるでしょう。
その通り、南房総市が誇る主な農業では花とビワ!そしてこの度、千葉県公認チーバ君のお出迎えに手を振り、
目指す先は・・・
おまっとちゃーん! 「イナバの花」の稲葉修司(イナバ・シュウジ)さんです!
稲葉さんは南房総のちょうど中ほどに位置する、花の有望な若手生産者さんたちが集まる地域で、そのおひとりとしてカーネーション生産に腕を振るっていらっしゃいます。
稲葉さんは花の街南房総市で、施設18棟、面積にしておよそ1,000坪にてカーネーション栽培に取り組まれています。お祖父様、お祖母様から受け継ぎ、カーネーション栽培を始めて丸11年。今年4月から12年目。
スタンダード25品種(バイパー、バイパーワインなど)、スプレー4品種の合計29品種を、なんとご家族4人という少数精鋭で栽培していらっしゃいます。
大田市場内の某仲卸店長さんに伺うと、稲葉さんのカーネーションは、
1. 大輪
2. 色のりが良い(発色が良い)
3. 花持ちがメチャンコよろしい
4. 茎が節折れせず、しなやかで女性的なつくり
であるからと、ユーザーの皆様から大変好評を得ていらっしゃるとのことw(゚o゚*)wスゴイネ!!
決して肩を張らない、この素朴な感じの稲葉さんから、どのようにしてそのようなカーネーションを作ることができるのか、うんちく探検隊がいざ潜入です!
☆生産
稲葉さん的カーネーションを作るために重要なことは、
① 日照
② 温度
③ 土
④ 灌水
⑤ ・・・そして、稲葉さんの哲学
これらについて順を追ってみて参りましょう。
まず①日照についてです。
カーネーション(だけではありませんが)は特に光を好む植物。原産地は南ヨーロッパ、及び地中海沿岸であること、また現在輸入品のカーネーションの多くは、生産性の良いコロンビアのボゴタ平原やケニアのナイバシャ湖周辺など、赤道直下の国や地域で作られていることを鑑みると、いかに生産に日照が大切であるか、想像に難くないと思います。
従って、良いものカーネーションを作るためには強光が不可欠。
稲葉さんのカーネーションを「イナバの花」たらしめている大きな要素の一つはこの南房総のお天道様。しかし、お天道様ばかりはご機嫌のコントールをできるものではありません。
温度は足りないときは暖房を使えばいいとしても、日照量が足りないときはどのように補うのでしょうか?
「補いません。」
チーン(+_+)
そりゃそうか。
しかし、無いものを有るようにすることができない場合、有るものを最大限に有効活用することが重要。そこで、天窓には光の透過性が良く、更には光を散らす秘密のフィルターを設置。お天道様からの恵みを偏らず、すべてのカーネーションに行き渡るよう工夫しています。
「日照量が十分でないと光合成ができないでしょ。植物は須らく光合成をしてデンプンを蓄えて生長する。
日照量が足りなければ生育が遅れる。体を作りたくても作れない。すると、発色が良くなかったり、輪のサイズが違ったり・・・・ということが起こるんだ」
うまく光合成ができより健康になると、カーネーションの場合はこのように茎や葉から白いワックスが分泌されます。
ワックスは手で擦ると簡単に取れますし、触ってもまったく有害なものではありません。それどころか、植物体の元気印!
例えば、ブドウなどの果実の表面に白い粉のようなものが付いているのを見たことはありませんか?まさかウン探読者の皆さまは、これが農薬だなんて思っていらっしゃいませんよね~??
これらはブルーム(果粉:かふん)といって、果実に含まれる脂質から作られたロウが表面に付いたもの。植物の病気を予防したり、鮮度の目安にもなったりするのです。
つまり、カーネーションの葉や茎についているワックスも、このブルームと同じ役割を持つものだということなのです!
稲葉さんの圃場を拝見した瞬間、グリーンというよりも"シルバー"な印象を受けました。
つまりそれは、この葉や茎から出ているワックスの色なのですね。
「ワックスが出た方が健康体であると言われているんだ」
稲葉さんのカーネーションは健康体!健康こそ美しいカーネーションの源です。
②温度
「昔は管理温度を相対的に低くしていたのですが、実は今は少し作り方を変えて温度も少し高くしたんだ。」
作り方を変えた??(゚ー゚*?)
「そう、私も昔は節(ふし)がゴツゴツとして太くしっかりした、男性的なカーネーションを作っていた。
その時は、真冬でも昼間は天窓を全開にしてハウス内の温度を低めに設定。すると植物がじっくりゆっくり育つので、茎・節がごつごつと太いものができる。
ただそれは、私の目指すしなやかな花とは異なるし、採花率にも影響するので作り方を変えることに。温度でいえば、一般的な管理温度は15-20度のところ、ウチはそれより気持ち高い温度で管理したんだ。」
すると"女性的な花"と褒められるようになったわけですね。
でも、南房総といえども冬の寒さは結構厳しくて、燃料代も大変なのでは?
「そう思ってね、試してみたのが薪ストーブなんだ」
ま、薪ストーブ!?ハウスの中で?
稲葉さんが試しに導入された噂の薪ストーブがこちら。
しかも結構カッチョええ。なんかイメージしていたのと違いますな。
その名も「スーパーゴロンタ」。
地元の森林組合から購入した間伐材を薪としてスーパーゴロンタに投入します。
「12時間燃え続けるので、夕方点火すると翌朝まであったか~いンだから~ぁ
夜温を最適といわれる10℃前後に保つことができるんだ」
燃料費の削減になりますね・・・と思いきや、
1パレット(1㎥)の薪↓コレを、
3日で1つ消費します。
こっそり1パレット分の薪代を聞いてみると・・・うーん、まあ、なんといいますか、決して安いものではありませんね。
ウン探の予想よりは高い。
「でも、重油に比べたら節約できるからね。
メインは重油で暖房を付けることだけど、補助的に薪ストーブを使う。これが試しに導入してみた私の結論。」
なるほど、いずれにしても花き生産にはお金がかかるということですね(*_*;
でも、寒いのはお金がかかったとしてもなんとか解決できるとして、夏場の暑さはどのように対処するのですか?
「マメに水をかけて気化熱で気温を下げたり、換気をしたりして対策を取っている。
カーネーションは暑いのは苦手なんだ。暑いと植物の呼吸が激しくなり、体力を使ってしまう。すると花径が小さくなったり、花の力がなくなったりするんだよ。
カーネーションの場合は30度を超えると生育が停止して、自分を守るようになる。この辺りの地域では外で30度を超える日は頻発するから、ハウスの中ではさらに暑く35度くらいはザラにあるんだよ。
でも、ウチの生産サイクルからすると6月に改植するから、夏はまだ苗の状態で迎えることになる。苗のうちはまだ若いから大丈夫なんだ。」
コロンビアやケニアなど、世界でみるとカーネーションの大産地赤道直下の国なので、てっきり暑さも得意かと思ってしまいます。しかーし!これは大間違い。
赤道直下の国でも標高の高い所で作っているので、夏は冷涼、冬は温暖な気候なのです。もちろん夏だって日本のドロドロに暑い夏より涼しく過ごしやすい。
このように実は暑さが苦手なカーネーション。6月に定植&1年栽培というのは、暖地におけるカーネーション栽培の定番、且つ冬も比較的温暖で日照量の多い南房総に適した方法です。なぜなら、熱帯地域より恐ろしい日本のドロドロドに暑い夏を、カーネーションが若いうちに過ごすことができ、冬の加温で最適な温度帯で生長を促すことができるから。
温度が低下し、切り花の品質が良くなり始める10-11月ころから出荷し始め、稼ぎ時の母の日に納品を完遂し、6月に出荷終了というのは理想的なサイクル。だからこそ、ココ南房総市でカーネーションを作る意味があるというワケです。
③土
稲葉さんは地植え栽培しています。
「ベンチ栽培は限られた空間の中でしか根を張ることができないでしょ。カーネーションの場合、ベンチ栽培が合う品種と合わない品種とがあるんだ。私が作っている品種は、ベンチ栽培では限りなく軟弱に育ちやすい。
でも土耕にすれば、下はどこまでも伸びたいところまで根が伸びるから、株を作るのに適している。」
どのような土を使っていらっしゃるのですか。
「ここに昔からあった土。ここは昔は田んぼだったんだ」
では、比較的粘土質ということでしょうか。
「そうだね。ハウスによっても微妙に土の性質が異なるけど、粘土質というのがカーネーションの栽培に適している。じわじわと根が張っていくから良い株ができるんだ。」
粘土質であることの長所は主に、
・保肥性・・・肥料の持ちが良い
・保水性・・・水持ちが良い
これらをうまくコントロールできればとても良いカーネーションができます。砂系が混じっている土で作ったのと、粘土質で作ったのとでは、株の形が全く違うのだとか。
「でも実は砂が混じっていた方が枯れない。」
え???(゚_。)?(。_゚)?
砂地の方が枯れない?砂地の方が水が切れてすぐ枯れてしまいそうなイメージ・・・ですが、なぜでしょうか。
「病気が伝わりにくいから。
植物の大敵である病原菌は水を伝って伝染していく。粘土質の土の方が保水性が高いので、病気が蔓延するリスクが高い。だから、病原菌のリスクが低く、枯れないのは砂土の方なんだ」
なるほど。
「でも、以前トラブルでカーネーション生産を止めようと思うくらいくじけそうになったことがあってね」
稲葉さんがくじけそうになるなんて、何が起こったのですか?
「ウチの主力の品種であるバイパーとバイパーワインが半分以上枯れてしまった年がある。
もともと合わない場所に植えてしまったことがいけなかった。この品種は病気に弱い特性があるので、地下水がある場所には絶対植えてはいけなかった・・・のに、間違えたため枯らしてしまったんだ。」
地下水が流れていて、土壌中の湿度が高かったのかもしれませんね。それでもくじけずに生産を続けてくださってよかったです。
④灌水
稲葉さんのカーネーションの「イナバの花」たらしめる4つ目のポイント、それは灌水です。
灌水は3日に1回くらい。(ハウスによっても異なりますが)畝に走るチューブで灌水。チューブにはこのように穴が開いていて、ここからピョロロロロ~と水が出てきて灌水できる仕組みになっています。
それにしも、なんだか表面が割れてカピカピの様相ですが、そろそろ水を遣らなくて大丈夫なのでしょうか(゚ペ)?
「まだ大丈夫。
表面はカピカピに乾いていても。
乾いて見えるでしょ。でもちょっと掘ると・・・・
ほら、土の色が変わっているでしょ。もう湿っているんだ。十分水を蓄えている証拠。」
あら本当です!
乾いているのは表面だけなのですね。水を遣りすぎてしまうと根腐れや病気の原因になりますから、表面が割れても慌てず騒がず、3日に1回を守ります。
⑤稲葉さんの哲学(フィロソフィー)
そして、稲葉さんのカーネーションをイナバの花たらしめている最後のポイント。稲葉修司さんの哲学です。
どのような花を消費者の皆様に届けたいと思いますか。
「きれいな花。これに尽きる。
見ていて"いいね"と思ってもらえるような花。
花は咲いてなければ花ではない。これが私の哲学。
だからできるだけ畑で咲かせて出荷する。」
←ベートーヴェン風
そう、なんといっても稲葉さんの花が違うのは、「咲かせて出荷する」という点です。それも稲葉さんのこのような哲学が根底にあるからこそ。
「だから切るタイミングが他のカーネーション生産者さんより遅いんです。花が十分咲いてから切る。
例えば、他の人がこのくらい、
あるいは人によっては早いとこのくらいの開花ステージで切る花を、
私たちはこれくらいになってからようやく切るんです。
」
稲葉さんは、中心の花弁まで全て開き切ってから出荷します。
←稲葉さん的にはこれでもまだぜーんぜん早い。
収穫のタイミングまでまだもう少し。
もしかすると、"それでは日持ちが短くなるのでは?"と心配される方もいらっしゃるかも!?しかーし、
「日持ちは同じです」
と稲葉さんは自信を持って答えてくださいました。
「ただ、気温の高い季節は輸送中に花弁が傷付いたりという事故も起こりえるので、やや硬めに切るようにします。でもなるべくならば花を咲かせて出荷する。畑で咲かせる!これが基本。」
だからこそ稲葉さんの花は大輪で日持ちも十分なのです。
根から切り離されてしまった花は栄養供給元を失います。一方、つぼみが開花する瞬間には大変なエネルギーを必要とします。しかし、その時に切り離されてしまうとエネルギー供給元がないので、開花はしても大きく展開することは難しいのです。それならば、育ってきた畑でその花の力を100%引き出して、咲かせてから出荷した方がより大輪で力のある花になる。そのようなお考えに基づいているのです。
ほかの生産者さんが5-6分咲きで出荷する中、咲き切ってから出荷するのは勇気がいることのように思いますが、どうしてそのような結論に至ったのでしょうか。
「祖父の時代からそうしています。これが当たり前だと思っていてね。
ウチがちょっと違うというのは、他の人と話していてやっと気づいたんだ。」
なるほど、もしかして咲かせて出荷するのは稲葉流が元祖なのでしょうか!?
「祖父が咲かせて出荷していたのは、スプレーカーネーションから生産を始めたということもあるかもしれません。
スプレーは咲かせて出荷しますから、その開花感覚でスタンダードも出荷していたのかな。
それに、お花屋さんで開花調整するのはとても大変ですよね。ウチの花なら買ってすぐに使っていただけます。」
稲葉さんの大輪・長持ちカーネーションは、"咲いている花を楽しんでほしい"、"咲いていなければ花ではない"という哲学から生まれているのです。
☆カーネーション周年出荷のテクニック?!
ところで稲葉さん、カーネーションは周年出荷されているイメージですが、全て同じタイミングで定植するのですか?それとも、開花時期から逆算して少しずつずらして定植するのですか。
「全て6月に改植するんだ。圃場一斉改植!」
はて?では、どのようにして10月から6月という長い間出荷していらっしゃるのでしょうか。
実は、先述のポイント4つのほかに、カーネーションならではの栽培方法に秘密があるのです。それは「株の作り方」に由来しています。
そのカーネーション生産の秘技をウン探がみなさまに伝授してしまいましょう!
カーネーションのプロなら誰もが知る生産方法です。株の仕立て方にはいくつもの方法がありますが、ここでは稲葉流として基本的な一例をご紹介します。
「苗を種苗会社から購入すると、最初にこういう形で入ってくるんだ。
これをまず定植する。」
地面からぷ~っと芽が出てくる。それをしたから5節目でプチン!と折る(摘心)。
せっかく伸びてきた芽ですが、勇気を持って摘心することが大切です。農業に必要なもののひとつ、「勇気」。そーでもないか?
「そうすると、下の節から新しい芽がいくつかに分かれて展開するので、まずは5本を残す。
そのうちの2本を折る。」
残した5本のうち、下図の1-3は出荷用として花を仕立て、4と5はぷちんと摘心(花を咲かせない)。
なんと(◎o◎)/!また摘心してしまうのですか?
「そう2本だけね。
3本は出荷用に収穫。」
ここまでで先に3本収穫。
折った2本から側枝がぷ~っとこんな感じで上がってくるので(下図6-9)、
その4本を出荷用に収穫。
これで収穫のタイミングをずらしながら今のところ合計7本収穫。
そして、最後に1-3の後にぷ~っと伸びてきた二番花を出荷用に仕立てて収穫。最低でも1本確保したとして、これで合計8本。
稲葉さんは1株から収穫最低8本を目指しています。
「このようにして、1株の中で出荷時期をずらしながらリレーをして収穫することができ、またこの方法で収量を上げることもできるんだ。
こちらが先に収穫できるもの(稲葉さんの左手の2本)で、これがあとから開花するもの(右手の2本)。
」
なるほど、明らかに開花ステージが違いますね。これが一斉改植でありながらずっと出荷できる秘密なのですね。なぜ8本なのでしょうか。
「"最低でも"8本ね。
ワンシーズンで○万本出荷したいという出荷計画がある。その数を植えた苗の数で割ると、1株当たり最低8本は収穫する必要があるという計算だよ。」
次々と芽(側枝)が上がる強靭な生命力宿るカーネーションの性質を生かして、収穫の時期をリレーしているのですね。株の仕立て方は、いろいろな方法がありますが、稲葉さん流の一例を紹介しました。
しかし、稲葉さんや暖地の生産者さんたちが出荷しない時期(改植中)も市場ではカーネーションを販売していますがどうしてでしょうか。
「それは、暖地と高冷地で出荷をリレーするからだよ。
千葉のような暖地は6-7月に定植、10月頃から母の日過ぎるまで。
暖地が改植中の夏場は、高冷地(北海道や東北、信州などの生産地)が出荷するというしくみになっているんだ。高冷地では12月くらいから少しずつ定植する。ちょうど半年ずれているでしょ。だから出荷期間を補い合えるんだ」
なるほど、出荷を国内の産地でリレーしているわけですね。
☆稲葉さんの名物10本束
通常、カーネーションといけば、1束25本が4束入って1ケース100入り。従って仲卸さんでも25本束で販売しているのが標準形。
しかし、稲葉さんのカーネーションは10本×5束で1ケース50本入り。従って、仲卸さんでも10本束で販売しているのです。
なぜこのような入り数にしたのでしょうか。
「バブルのころから比べると経済状況も変わってきているでしょ。
お花屋さんが1つの品種で25本となると、量的に使いきれないという話を聞いたんだ。だったら10本にした方が買ってもらいやすくなるし、利便性を高めることになるのかなと思って。」
実際に少量多品種で豊富なバラエティを買い揃えたい仲買人さんたちにとても人気なのです。
☆"稲葉さん直伝"良いカーネーションを見分ける三箇条
① ガクを触る・・・ガクを触ってみて、すごくフカフカとか張りがなかったりしたらNG。別のカーネーションを買いましょう。
② 葉や茎を見る・・・ワックスが載っているか。健康や新鮮さの目安です。ワックスが載り、全体的にシルバーがかっていれば◎
③ 花弁を見る・・・傷が付いていないかをチェックしましょう。傷があるとそこから変色してしまいます。
★まとめ
・ 稲葉さんのカーネーションを「イナバの花」たらしめているのは
① 日照 ② 温度 ③ 土 ④ 灌水 ⑤ 稲葉さんの哲学
・私たちが1年中カーネーションを楽しめるしくみ。キーワードは「リレー」
・稲葉さんのカーネーションの人気の秘密は「顧客目線の10本束」
~知っておきたい!カーネーション・ヒストリー基礎講座~
■日本におけるカーネーション栽培の始まり
母の日の発端は1907(明治40)年、米国のアンナ・ジャービスという女性が、亡き母のために教会で追悼式を開いたこと。参列してくれた人たち一人ひとりに、白いカーネーションを渡しました。
翌1908(明治41)年は、同じく米国のシアトルの百貨店で母の日イベントとして、アンナ・ジャービスの活動をヒントに、存命する母親には赤いカーネーションを、亡き母には白カーネーションを贈ることを企画しました。それが全米に拡大し、米国では1914年、議会で母の日と制定されました。
1909(明治42)年、シアトルに在住していた澤田さんという方(お名前・職業不詳)が帰国した際、いくつかのカーネーションを持ち帰り温室で栽培し始めたのが、日本におけるカーネーション栽培の発祥です。
澤田さん亡き後、栽培を引き継ぎカーネーションの生産を体系化したのが土倉龍次郎さんという奈良県出身の実業家。1910(明治43)年に目黒に施設を設け栽培に着手しました。カーネーションの生産史100年超において礎を作ったのはまさに土倉さん。生みの親が澤田さんだとすると、最初の育ての親は土倉さんと言ったところでしょうか。
以来、日本におけるカーネーション栽培100年の間に生産を手掛けた方は述べ8,000人以上。現在、生産真っ最中の方(およそ900軒)を含め、生産者様たちの日々弛まぬご努力のお陰で、日進月歩の生産技術があり、私たちが今のカーネーションを楽しむことができるのです。
長い歴史に思いを馳せながら、ぜひ母の日には素敵なカーネーションを提案していきたいものですね。
・・・参考文献・・・
「カーネーション生産の歴史」 社団法人日本花き生産協会 カーネーション部会
「農業技術体系」花卉編7 農山漁村文化協会
「カーネーションをつくりこなす」宇田明氏著 農山漁村文化協会
]]>
むむ、そういえばなんだか最近生花小売店でカトレアを見ないと思いませんか?
日本国民、誰でも知っている花の一つであるにもかかわらず・・・です。
なぜでしょうか。アレレレ!?(・_・;? カトレアはもう流通しなくなってしまったのでしょうか。
(品種名:フェスティバルクィーン'ハゴロモ')
いえいえ、カトレアも切り花としてきちんと生産・出荷されています。
そこでカトレアの生産現場を拝見すべく、vol.109のウンチク探検隊は千葉県の山武市にやって来ました。
山武と書いて「さんむ」と読みます。2006年に山武郡だった4つの町村が合併し、山武市が誕生しました。人口およそ55,000人、農業と観光を産業のメインとしています。太平洋を臨む日本有数の砂浜海岸である九十九里浜に面した市です!
その山武市でカトレア生産に従事されるのが、布施洋蘭園さんです。
・・・が、布施洋蘭園さんにお邪魔する前に、チョコッとカトレアの予習です。
カトレアは19世紀初めブラジルで発見され、スコットランドに送られたのち、英国の植物学者ウィリアム・カトレイ氏の手によって開花が実現しました。このことにより、カトレイ(Cattley)氏の名前に因み「カトレア(cattleya)」と命名されました。
日本へは明治時代に伝わり、植物学者・牧野富太郎氏によって和名は「日の出蘭」と命名されています。それは、カトレアの凛とした美しい佇まいを日の出に喩えてのことのようです。
「日出ずる国」と言われた極東日本ですが、牧野氏はまさに日本の将来の繁栄をカトレアに重ね合わせて見ていた・・・かどうかはわかりませんが、その華やかさ、美しさを見出していたことは確かでしょう。現に、今では「洋蘭の女王」という異名を冠しているほどです。
さて、そのカトレアを生産されている布施洋蘭園さんの話に戻ります。この度は代表取締役・布施源一郎(ふせ・げんいちろう)さんにお話を伺いました。
布施さんは昭和53年よりこの地でカトレアとコチョウランの生産を始め、昭和63年からカトレアのみの生産を行っています。
そのカトレアが現在どのように作られているか、布施洋蘭園さんの圃場にいざ潜入です!
カトレアといえば、1年中いつでも入手できるイメージですが(生産者様のご努力のお陰です!ありがとうございます)、本来の開花期はいつなのでしょうか?
「本来の開花期、それは春咲き、夏咲き、秋咲き、冬咲き、それぞれの季節に咲く品種があります。」
なるほど、同じカトレアなのに開花期が品種によって異なるのですね。なんだか珍しい植物ですね。では、それぞれの季節に咲く品種を揃えて、次々と開花させていくイメージですか?
「いや、現在は多品種でリレーするのではなく、3品種程度に整理しているんですよ。
生産開始当初は、それぞれの品種を組み合わせて周年出荷を目指しましたが、年によって天候も違うし、品種を揃えたとしてもどうしても季節に端境期が出てしまう。すると出荷量の大きな波ができてしまって、お客様が必要なときに必要な量を出荷できなかったりしました。
そこで、開花調節の効く品種に切り替えて、電照やシェード(遮光)によって出荷量の波ができるだけ一定になるようにしています。現在はピンク系に関しては数品種にまで絞って開花調整をしています。」
(開花調整用の電照とシェード↓)
「例えば秋咲きのカトレアを夏の終わりから出荷したいという場合は、シェードで早めに暗くし、本来より早めに秋を感じさせる。同じ秋咲きのカトレアを秋から冬にかけて出荷したいという場合は、電照を使い夏を長めに感じさせる」
なるほど、日長を調整して、カトレアが感じる季節を人工的に作り出すわけですね!(-)
「電照する目的には、抑制栽培と促成栽培とがあります。
①花芽(かが/はなめ)分化をする前に電照を使い長日にすると、花芽分化を抑える抑制栽培
②花芽分化をした後に電照を使い長日にすると、開花が促進される促成栽培
になります。」
花芽分化のタイミングがポイントで、同じ電照を使ってもその前と後とでは、効果が全く逆になってくるわけですね!
「それぞれの品種に花芽分化はこの時期!という決まったタイミングがあるんですよ。
だから、"もうこれは花芽分化しているな"という時期を迎えたら、少し日を長くしてやると、普通より早めに開花する。
秋咲きであれば、夏くらいから室温に気を付けながらシェードをして日長を短くしてやると早く秋を感じますから、花芽分化が早まり開花も早くなる。
もしくは、花芽分化前に電照で日を長めにしてやると、開花時期を遅らせることもできるわけですから、そのようにしてできるだけ長く出荷できるようにして、出荷量の谷間をなくそうと思って取り組んでいるんです。
このように開花を調整しないと一斉に咲いてしまうため、ベンチごとに開花を調整をしています。だから同じ品種でも、このように開花しているベンチとしていないベンチとがあるのです。」
↑あ、ホント!同じ圃場の中でも、開花した列としていないベンチがあります!面白いですね~ヽ(' ∇' )ノ
花芽分化が大きなポイントということですが、花芽分化をしたかどうかは、どのようにわかるのでしょうか?
「それは、原種の組み合わせで決まっていて、この品種はおよそこのくらいの時期というのがあるんです。
この透けて見えるのがツボミです!」
ス、透けて見える??(゚_。)?ナンノコッチャ??
「ウン探さん、これを見て。ほら。」
ぅわわ!w( ̄Д ̄;)wワオッ!!
みなさま、よーーーーくご覧ください!
葉のようなものの中に何かが見える!!w|;゚ロ゚|w ヌォオオオオ!!
まるでレントゲンを見ているようじゃ!
「これがツボミ。ツボミを抱えているのは、シース(sheath)といって、ツボミを保護する鞘(さや)のことだよ。」
シースと言うのですね。(ウン探史上、NEW WORD!)
シースが出てきたら、ツボミが出ますよ~という合図です。ツボミが大きくなり開花すればお役目終了。しかし、開花後も花の下で黄色くなった鞘のようなものを見つけたら、それがシースです。
しかし、開花してからもシースを見ることができます。
「でも、カトレアの品種もいろいろでね。
カトレアなどのラン類は、一般的に鉢物では日持ちが長いイメージがありますが、その中でも切り花にすると花持ちの十分なものとそうでないものとがあるんですよ。いい花だなと思っても、このような電照などに対して、反応が悪かったりするとうまく開花調整できないし。」
切り花品種を選ぶときはどのような点をポイントにするのでしょうか(*゚・゚)?
「主なポイントは4つ。同じような顔をした同じ季節に咲くカトレアでも、次のようなことを必ず見るよ。
① 色彩が鮮明であること
② 営利的であること(生産的でよく開花すること)
③ 切り花にしたときに花持ちの良い品種であること
④ 電照やシェーディングなどにきちんと反応する敏感な品種であること」
おっと!切り花に向くカトレアの見極め四箇条!
カトレアの場合、これらを満たしたものが切り花に適した品種であり、布施さんはこれらの点を見極めて品種を導入し、あとは電照や温度調節などの技術で周年出荷を実現しているのです。
主力品種はこちら。フェスティバルクイーン'ハゴロモ'という品種です。一面に咲くとなんと華やかなことでしょう。
上品な淡いピンクと花径が大きい(最大で14-15cm)ことが特徴です。
ここで一旦まとめ☆☆☆
カトレアの開花期は品種によってそれぞれ。1年中欲しいといわれるカトレアですが、布施洋蘭園さんでは、どのように周年出荷を実現している・・・その方法こそ!
① 切り花に適した品種特性の見極め&(ピンク系に関しては)3品種程度に絞り込み
② 電照とシェード処理で日長を調整
なのでした!
********************************************************************************
ところで、カトレアは周年需要があるということでしたが、どのようなシーンで使われているのでしょうか。そういえば昭和の頃、カトレアといえば一大ブームがありました。
年末のレコード大賞といえば、ピンクレディーから森進一さんまで歌手のみなさんも、挙句の果てにはプレゼンターの方まで胸にカトレアのコサージュ付けて、カトレアといえば日本国民1.2億人誰もが知る花だったように思います。
「本当にあの時は "あ、この花スゴイな" って思いましたよ。元を辿れば、切り花としてのカトレアは、戦後米国の進駐軍のパーティで一部使われたことが始まりでしょうね。その後国内では高嶺の花となった。
アメリカから営利生産が伝わって少し使っていましたが、それが昭和40年代後半頃から徐々に増えていったのではないでしょうか。
それが昭和後半にカトレアの知名度が一気に上がって、未だに "パーティではよく使われるでしょ" と言われますよ。全然使われていないのに(笑)。
確か、デパートの松坂屋さんの包装紙はカトレアでしたかね。」
松坂屋さんでは昭和32(1957)年、カトレアをシンボルフラワーに制定し、半世紀にわたり包装紙などにカトレアのデザインが採用されています。
そのほか、昭和の美容室の名前の典型例といえば「カトレア」ですし、何でも美しく華やかなものの代名詞として「カトレア」の名前が使われていたように思います。
バラを凌ぐほどの華やかさと高級感で、人気を博したカトレアですが、日々カトレアの生産と販売に携わる布施さんは、ある課題を認識しています。
「カトレアの切り花は、昭和50-60年代は婚礼や宴会需要も多かったのですが、平成に入ってからは葬儀需要が増えてきて、最近ではほとんどが葬儀と言ってもいいくらいで・・・」
そ、葬儀??「(゚ペ)
カトレアって葬儀に使われることが多いということでしょうか?
「一般的なピンクの花はそうですね。
白やグリーン系のカトレアなら葬儀以外でも需要があるんだけど、その量は少なすぎて、生産コストの高いカトレアではいつでも出荷できる供給体制を整えるのは難しい。それに切り花用に選抜するだけでも10年はかかる」
(品種名:【写真左】プリンセスベルス 【写真右】プリンセスキコ'ホホエミ')
ジュ、ジューネン・・・(+_+。)チーン 品種選抜にも生産にも時間とお金がひたすらかかるのがカトレアです。
「晴れ」の日を飾るカトレアを知る方からすると、今やカトレアの需要は一転、葬儀用が多いという事実を聞いて耳を疑う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、関東近県ではカトレアを祭壇に使うことは、もはや珍しくありません。
しかし、そのような需要もあり、1年中安定してお客様から注文をもらえるというのも事実です。
ただ、生産側にとっては葬儀需要一辺倒では変化がありません。
そこで、一つ課題を解決すべく導入したのが、こちら。レリアというカトレアに近縁のランです。
布施さんが導入しているこのレリアは、定かではないものの米国西海岸のラン園で育種されたという説が有力です。ですから、西海岸の都市の一つサンタバーバラに因んでサンタバーバラ・サンセット。
「この、ピンクともオレンジともつかない微妙な色合いが、サンタバーバラのサンセット(夕日)を思わせたからではないでしょうか。」
レリアの特徴は何でしょうか。
【その①】丈が取れる。
「60cmは十分に確保できます。100cmと言われれば、それも可能ですよ」
レリア属は花茎が長いものが多く、カトレアに似た雰囲気を持つ首長(クビナガ)属のランといった感じでしょうか。生産時はこのように洗濯バサミで支柱に固定します。
【その②】使いやすい小輪サイズ。
カトレアの中では小輪に分類されます。花径は5-7cm程度。他の花とも合わせやすいサイズが特徴の一つです。通常のカトレアは大輪で存在感がある分、他の花と合わせにくいということが小売りでの用途を限らせてしまっていました。その課題を克服した品種といえますね。
【その③】使いやすい中間色。
サンセットカラー・・・と言っていいのかどうかわかりませんが、オレンジともピンクともつかぬ、強いて言えばサーモンピンクともいうべき絶妙な色合い。切り花の大輪カトレアではなかなか見ない色ですね。
サンフランシスコとロサンゼルスに挟まれた西海岸のサンタバーバラに立ち夕日を臨めば、このような色に染まった太陽を目にすることができるのかもしれません。憧れの西海岸☆サンタバーバラ・サンセットを見ると、西海岸の夕日が目に浮かぶようです。
このサンタバーバラ・サンセット、上記のような課題を克服したといえども、現時点では流通期は主に1月から3月と大変限られた期間のみの流通となります。電照とシェードをしても今のところはコレが限界。この時期しか使えないというのも価値の一つではありますが、将来的にはもう少し流通期間を伸ばしていきたいと布施さんは言います。
ところで、このような優れもののレリアに、布施さんはどのように出合ったのでしょうか。
「出合いは東京ドーム!空調で揺れていたんですよ、レリアが!」
出合いを辿れば、それはもう10年以上前の東京ドームで開催された世界らん展なのだそうです。
「東京ドームで揺れているサンタバーバラ・サンセットを見たときに、タテ・ヨコ・高さ・時間(揺れ)を捉えた4次元のランだと思ってね。このランは次元が違う!と衝撃を受けて作ってみようかなと思ったんだよ。そりゃもう、神秘的にすら見えましたよ」
「ランの育種、とりわけカトレアの育種には時間と労力がかかりますが、先人達のお陰で今のカトレアがあります。10-15年の長いスパンが必要ですが、育種は大事ですね。
フェスティバルクイーン'ハゴロモ'について言えば、静岡にあるラン園で育種された品種で、冬咲きの大輪白のカトレアに白赤の品種を交配して選抜されたものです。白と白赤の交配であれほど鮮明な淡いピンクの花が出るとは思っていませんでした。やはり将来のために実生(育種)はやっておくべきでしょうね。」
カトレアの育種は気の長い仕事。布施さんは生産圃場の傍らでカトレアの「将来を育種」します。
【未来のカトレア創造の現場】
カトレアは一定の需要があるのでクオリティを落とさず、数量も安定的に供給していく一方で、布施さんはフローリストやデザイナーのみなさまに使っていただけるような小売用のカトレア、あるいは近縁の品種を日々模索しています。独特な造形美や高級感を活かしつつ、ほかの花とも合わせやすく、且つ切り花としての営利生産に適したカトレアであることが重要です。
「消費世代が変わっていくので、フローリストさんたちと一緒に葬儀に限らないカトレアの新しい使い方を提案していきたい」と布施さんは言います。実際、誠文堂新光社発行の『フローリスト』2011年7月では、日本花き生産協会洋らん部会カトレア部門のみなさまとフローリストのみなさまがコラボして、カトレアに見る新しい魅力を提言しました。
←詳細は『フローリスト』2011年7月号をご覧ください。
カトレアがご家庭で気軽に楽しんでいただける花、あるいは晴れの場でフォーマルに使っていただける花として、多くの人に愛される日が来ることを期待し、カトレアの将来に注目したいと思います。
最後に☆小売店の皆様へ「カトレアの水揚げについて」
カトレア(レリアを含む)を水揚げするときは、切り花栄養剤の使用をお控えください。
ほかの花は切り花栄養剤が大変効果的ですが、カトレアは水を吸いすぎてしまうと、花弁が透けるような現象を引き起こしてしまう可能性があります。ですから、カトレアは水道水に挿しておくだけで十分です。
頭が重く、花瓶が倒れてしまう恐れがある場合は、このように花瓶の中に石やガラス玉などおもりになるものを入れておくといいでしょう♪
<写真・文責>:ikuko naito@花研
]]>鴨川・亀田メディカルセンター店です。
一見、市中の青フラさんと全く変わらないように見えますσ(゚・゚*)ウム・・・
香りのブーケも置いてあるし、
ふむふむ、置いてあるものも同じに見えます。
鉢植え商品までクリスマスとお正月と季節商材をきちんと揃えています。
ハサミやその他小物なども置いてあり、通常の駅前店と変わらないように思います。
おっと、売り場内のPOPで発見!こちらの横顔は榎本バラ園さま(千葉県君津市)ではありませんか!
榎本バラ園さまの特設コーナーがありました。
う~ん、でも何か大きく違うところはるのかな~(゚ペ)?
ショップマネージャーの小川ふみ江さんに直撃インタビュー!
・・・ですが、大変控えめな方なので、写真は接客中の後姿のみにて(*´ェ`*)テヘ
「基本的にはほとんど同じです。特に今はクリスマスシーズンなので、赤い花やクリスマス商品が多めです。キク類は少ないかもしれませんが、お正月、お盆やお彼岸のシーズンになれば、もちろんキクも販売しますよ。
そのほか、市中の店舗ではお持ち帰り用に花を保水ゼリーに入れてお包みしていますが、こちらでは花瓶にそのまま挿してお部屋に持って行かれる方も多いので、そのようなご要望に対応した提案をしています。」
確かに"花瓶に入れてそのまま持っていきまーす"というようなニーズが多いのは想像できますね。
「その際には必ず切り花栄養剤を使います。ウチでは、花瓶の水にもカゴに入ったアレンジメントに使う水にも全てに切り花栄養剤を入れているのです。」(もちろんこれは他店舗でも同様です)
"切り花栄養剤"とは、抗菌剤と花が長持ちする栄養とが入った切り花専用のフラワーフードです。これが入っていれば毎日水を取り換えなくても、花を長く楽しむことができ、且つ花自体も大きく開花するのです。病院内で花を楽しむには本当にちょうどいいですね!(ご自宅でもこれを使うのがスタンダードですが)
青山フラワーマーケットさんでは、適切に希釈した水を事前に作っておきます。
「それから人気は明るい色ですね。赤や濃いピンク、それにオレンジや黄色などのビタミンカラーも人気です。」
と小川さん。やはり元気が出る色じゃなくちゃ!
お客様は、お見舞いにいらした方ばかりではありません。入院されている方がご自分用に車椅子で買いにいらしたり、地元の方がご自宅用にご購入されたりもします。
ですから、ほらこの通り!土まで販売しているんですよ。
病院から何か言われていることやお客様が何か気にするようなことはあるのでしょうか。
「病院から特に厳しく言われていることはありません。お客様もお見舞いの生花について、あまり細かいことを気にされている様子はありません」
ま、確かにそりゃそーか。病院が禁止していないのだから、お見舞いする方も好きな花を自由に買って行かれますよね。
「香りを楽しみたい人もいるので香りのブーケも用意します。今でしたらバラのほかにヒヤシンスやスイートピーなど」
亀田院長がおっしゃっていた"厳密に無菌コントロールする"ために、生花持ち込みを控える必要のある病棟に関しては、このようにレジ横のボードで案内しています。
ウン探が拝見したところ、他の駅前店と異なる点はこのポイントくらいです。
このように青山フラワーマーケットさんが院内に出店したのも、亀田院長の熱い思いがあるからこそ。
「都会の人たちと同じセンスで、鴨川にいても同じような生活を楽しんでほしい。
花は芸術。病院の生花店には豊かな感性で提案してほしい」
と、青山フラワーマーケットを運営されるパークコーポレーションの井上社長に会うため、亀田院長自ら足を運びました。
それまで「都市部の駅中・駅前にしか出店しない」と銘打っていた井上社長も、亀田院長のコンセプトにたちまち共感。あっという間に意気投合し、亀田クリニックさんでの出店が決まったといいます。
そして、この店舗あり。亀田クリニックさんの1階にあります。
外来の受付フロアですが、お店の周りも決して病院独特の堅苦しさや直線的な冷たさがありません。
アタクシ自身の経験から、どこの病院に行っても多少緊張するものですが、こちらは天井にお魚ちゃんが泳いでいたりと、海の街鴨川らしさがあり、明るく、柔らかく、温かい雰囲気に包まれています。
亀田メディカルセンターさんには、ローソンもタリーズ・コーヒーも、都心の美容室もネイルサロンもパン屋さんもあり、更には画竜点睛的に青山フラワーマーケットさんが入店され、都心と変わらないような生活ができるひとつの街(と言っても過言ではない!)が院内に創生されているのでした。
おまけ◇ギフトマーケットについて考える◇
2012年、病院のお見舞い品ギフトマーケットは2,300億円(前年比ダウン↓)。これは花だけではなくあらゆるギフトを合わせたマーケットサイズです。
快気祝いの花ギフトマーケット1,800億円、バレンタインデー1,150億円より大きいマーケットです。(出典:『月刊パーソナルギフト』ビジネスガイド社)
と考えると、病院でもう少しお見舞いの生花を容認してもらえるような動きが出れば、花ギフトのマーケットも伸びしろがあるというものです。しかし、それでも尚、花き流通に携わる私たちは病院に従事されるみなさま、患者さまやその周りのみなさまのお考えや立場に立脚し、利便を図った商品をご提案する必要があります。ユーザー目線に立つからこそ、マーケットのシェアを伸ばしていけるものでしょう。
◇編集後記◇その①
亀田総合病院さんを訪問し、ホスピタルの語源をしみじみと思ってしましました。患者さまやその周りの方への温かいホスピタリティを提供される本当のホスピタル。取材でお邪魔させていただきたい旨をお伝えすれば、先回りをして有難いご提案をしてくださる広報の松元さん。これもホスピタリティ。
このホスピタリティという言葉もホスピタルも、ついでに言えばホスピス、ホステル、ホテルもすべてラテン語のhospes(「お客様」の意味)に由来しています。ホスピタルとはもともとお客様をもてなすところ、宿泊所という意味でしたが、そこで旅の傷や心を癒す行為が生まれ16世紀ころから「病院」という意味で使われるようになりました。亀田総合病院さんは限りなく高級ホテルのようなおもてなし(hosipitality)を施す最高のホスピタルであると痛感しました。
「ただ、ホテルはお金を払えば相応のサービスが受けられるもの。米国の医療がそのようになっています。しかし、日本は国民皆保険ですので、当院ではすべての人に平等に満足していただける究極のパーソナルサービスを提供しています」という松元さん。
その大きな視点に立てば、生花持ち込み是非の議論は本当に小さなことにように思えてきました・・・。
そしてみなさま、この度の番外編の記事を前編からご覧になってお気づきになったでしょうか。
亀田総合病院の皆様は(恐らくグループの皆様全員だと思いますが)、患者「さま」とお呼びになるのです。いかに患者さまを大切にして、たとえ一瞬だとしても亀田総合病院さんで過ごされるひと時を楽しんでいただこうという思いが、その一言に詰まっているように思います。その姿勢にただただ頭が下がります。
産業規模も業種も全く異なりますが、社会に貢献すべく仕事に従事する者として、ウン探は今回の取材で大変意義深い勉強をさせていただくことができました。
◇これで終わりかと思いきや、しつこくてすみません的編集後記◇その②
亀田総合病院さんでは、インターンシップというのでしょうか、研修医の受け入れをしていて、全国から先生たちが研修に来ては元の病院に帰られるそうです。
「ここは学校でもあるんですよ。うちに在籍していた先生も、研修していた先生もみんな亀田フェローだよ」と亀田院長がおっしゃっていました。全国でも現役でご活躍されている先生は亀田フェローの方も多く、例えば今上天皇の心臓手術の執刀医も、亀田総合病院で心臓外科を学ばれた方なのだとか。
このように亀田スピリットが全国に浸透すれば、徐々にでも院内に生花禁止の風潮も緩和されるのではないでしょうか・・・と将来に期待しています♪
これで本当におしまい。長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。
<写真・文責>:ikuko naito@花研
]]>今年もウン探をよろしくお願いいたします。
さて、2015年の記念すべきウン探第1回!なんとも気持ちのいい快晴の日に太平洋を臨む海岸線にやってきました~!
ここは人口約34,000人、東京からおよそ2時間の千葉県鴨川市。
鴨川の花の生産者さんといえば・・・!?c(゚.゚*)エートー
ッといきたいところですが、今日はウンチク初の番外編。
ぬぁんと「あの!」亀田総合病院さんに来てしまいました!v(≧∇≦)v
というのも、なぜか最近メディアがこぞって病院のお見舞いで生花はよろしくないモードの情報を流している!!!∑(゚ロ゚!(゚ペ?)???ナンデ、ナンデ?
でも生花禁止って何か根拠があってのことなのだろうか・・・一方で生花OK、まったく問題なし!というところもあるし、この差はなんでしょう??(・_・*)?
花き業界としてもきちんと勉強しなくては!と思いまして、日本が誇る最高峰医療施設、亀田総合病院さんにやってきたわけです。亀田総合病院さんでは、お見舞いの生花を快く受け入れていらっしゃいますし、生花持ち込み禁止どころか併設される外来施設の亀田クリニックさんの中に生花店を設置するほど!これはいろいろお考えを伺う甲斐がありそうです♪
どなたにお話を伺えるのかと思いきや、なんとご登場されたのは院長の亀田信介先生!!
w(゚ー゚;)wワオッ!!
ドキンチョー。その場でフリーズしてしまったウン探【・・;】
ところが!院長先生のとてもお優しそうな表情と、フランクなお声掛けにいくらか緊張が解け、取材を敢行することができました(´▽`) ホッ。ありがとうございます!
みなさま、ここで亀田院長と亀田総合病院さんについて予習いたしましょう。
亀田院長の亀田家は、1644年(・・・といえば、英国では清教徒革命の時代であり、中国では清の支配下になり、日本では江戸の寛永年間!徳川第3代将軍家光さまの時代。ナンカわかんないけど、スンゴイ昔)から370年にわたり、この地で医療を営んでいらっしゃるお医者様の家系なのです。
現在の亀田院長はその11代目(驚)!ホンモノな感じ~((◎д◎*)) というかホンモノです。
外来診療から入院治療、在宅医療まで地域の基幹病院として機能しています。
また同じ鴨川に、関連法人が運営する亀田医療大学や亀田医療技術専門学校などの看護師養成施設や、亀田院長が理事長を務める社会福祉法人「たいよう」、障害者支援施設「しあわせの里」などもあり、鴨川を中心に医療・介護福祉・教育の3つを柱とした事業を展開しています。雇用も促進され、人口流出にも歯止めがかかります。まるで一つの街の創生にも貢献しているかのようです。その功績が評価され、2013年「ふるさと企業大賞(総務大臣賞)」を受賞されています。
以上、ほんのさわりにすぎませんが概要がわかったところで、院長にインタビューしてみましょう。
(・∀・*)ノGO━━━ッ!!!!
【ウン探】病院によっては、お見舞いの生花を禁止するところもある中、亀田総合病院さんではお見舞いの生花を禁止せず、また生花店を設置するほどですが、それはどのようなお考えに基づくものなのでしょうか。
【亀田院長】
それにはむしろ、なぜ生花OKかというよりも生花を全面禁止していることに対して「禁止することに合理性を持ってやっていますか」と伺ってみたいですね。
院内で生花が良くないという明確なエビデンス(確証)もないのに、患者さまの心の安らぎを奪うべく、本当に生花を一律ダメと言っていいのでしょうか。全か無かで生花を拒絶するのは未熟な議論のような気がします。
確かに、きちんとした感染管理・リスク管理と医療サービスというのは相反するところがありますが、このバランスを取り、医療機関としてのコンセプトを持つことが重要です。どこまでを許可し、そのためには病院として何をするべきか。「医療とはどういうものか」という原点を思えば、一律禁止とはならないでしょう。
【ウン探】生花持ち込みを全面禁止している病院はなぜそこまでナーバスになるのでしょうか。
【亀田院長】
感染管理の面から禁止しているのだと思いますが、感染管理というものは世界標準からいっても時間とともに考え方が全く変わってきています。病院ごとに取り決め、禁止しているのだと思いますが、それがエビデンスに基づいた判断なのかと疑問に思います。
例えば、30年くらい前、病院でICU(集中治療室)を作るとき多くのことを禁じました。しかし、エビデンスもなく禁止していることが多く、米国では意味なく禁止していることは2-3年で止めたんです。一方、日本は一度作った制度は止められなくて10-20年と続きました。いくらなんでも、かえって禁止する方がマイナスということもでてきて、米国で2-3年で止めたことを日本では10年以上たってやっと止めたりしたこともあるんですよ。
ウン探さんね、今はICUに土足で入っていいのですよ!
【ウン探】(゚ロ゚;)エェッ!? ド、土足でICUに??(そういえば、つい数年前は某病院でスリッパに履き替えて入らせていただいたような・・・)
【亀田院長】
そう、土足でも何の問題もないということになっている時代。一般の方はびっくりするかもしれないけれど、一番大事なのは手を洗うこととマスクをすること。それから空気感染するもの、接触感染するものに対してそれぞれに国際的に対処法が決まっているんです。
今のスタンダードでも、恐らくやりすぎなどで今後変わっていくでしょう。現時点である一定のコンセンサスがとれたインターナショナル・スタンダードというものがある。当院は最新のインターナショナル・スタンダードに則った感染管理を行っていて、日本でも恐らくベストプラクティスの病院。つまり感染管理には最も厳しい病院のひとつでしょう。
【ウン探】そのベストプラクティスの病院が生花を禁止していないところに意味がありますね。
【亀田院長】
じゃあなぜと言ったら"医療とは何ですか"というところが原点ですよ。病院がどうやって医療をするかというと、病院でも治せる病気と治せないものがあるけど、当然治せるものはうまく治さなくてはいけない。病院にいるその間の生活そのものだって、ある人にとっては大事な時間を過ごすことになるかもしれない。そういうところで"あなたは病気なんだから、おとなしくしていなさい"と厳しく制限することばかりが良い医療でしょうか。
患者さまの中にはお酒を飲むのは良くないという人もいますが、一方で入院中でもお酒を飲んでいい方はたくさんいる。何食べても何をやっても問題ないという方もいるでしょう。ただ自分が病気というだけで、元気がなくなりますよね。例えばガンと聞いただけでショックを受けますし。体の一部を切り取られた人はさらにがっかりする。そういう方々にあれはやっちゃいけない、これはやっちゃいけないとは言えません。
だから当院は(院内に)コンビニエンスストアのローソンもあれば、
タリーズ・コーヒーもあるし、
←おいしいと好評のパン屋さんミコミコ
レディースフロアにアロママッサージからネイルサロン、ビューティサロンも、ウィッグ(医療用かつら;化学療法で脱毛してしまった人に対応するもの)、パーマもフェイシャルまでぜーんぶやれるところが病院の中で揃っている。医療とは究極のパーソナルサービスなのです。
←院内にあるビューティサロンの看板
そう、亀田総合病院さんは院内での飲酒を許可している病院としても有名です。(もちろん治療上許可されていない方は別です。)
【ウン探】亀田総合病院さんの中で、生花持ち込みが禁止されているのはどのようなケースでしょうか。
【亀田院長】
それは徹底した感染コントロールが必要な場合。例えば、
・骨髄移植に関係した方
・化学療法をやっている方
・ものすごく感染しやすい状態の方
・真菌症の方
・・・など。真菌症の方だって、生花がどうというよりは自宅や病院が汚いということの方がよっぽど問題。
このような方たちにはフロア全体で完璧な無菌コントロールをしています。
必要に応じてNASA(アメリカ航空宇宙局)で開発されたヘパフィルター(高性能フィルター)を使い、外気も入らないように完全遮断します。半導体工場のように全てにヘパフィルターが付いたフロアになっているんです。そういうところで生花を禁止するのであれば意味があります。
でもそうでない方は、病室に花があろうがなかろうが関係ないんです。普通にテーブルを指で撫でても菌はありますよ。お見舞いだって、外を歩いた人がそのまま来ているわけでしょ。それで生花の持ち込みはいけませんというのは、やることと言うことに矛盾があるんですよ。生花を禁止するなら、窓を開けさせないのですか?その必要がない人まで、病院中、全員監禁して治療を行うのですかと問いたくなります。
【ウン探】芳香のある花なども問題ありませんか?
【亀田院長】
問題ありませんよぉ(笑)。
だって花の自然な香りが好きで、それによって癒される方、元気が出る方もいらっしゃるわけでしょ。名古屋から定期的に治療でいらっしゃる方で、ご自分が病室に到着する前に大好きなカサブランカを置いておくように注文しておいて、遠路からの治療にも耐えられるよう、ご自分を勇気付けていらっしゃる方もいますよ。カサブランカの香りが好きだからと。
【ウン探】病院内には観葉植物も置いてありましたね。
←造花ちゃうでー。本物の観葉植物です!
【亀田院長】
観葉植物などで土のリスクが高いといわれるケースは、強い抗ガン剤で治療を始めた人くらいです。
観葉植物を置くのにどのようなケースが適していないかなども含め、受付のコンシェルジュがきちんと勉強して、患者さまやその周りの方にアドバイスできるようになっています。
・・・とその時!
おっと、部屋のドアがおもむろに開き、ドアの向こうから白い手袋をした手が声なく振られている。
あれッ??゚◇゚)?
"Merry Christmas!"
と言いながら突然登場したのは、なんとサンタクロース!しかも結構ホンモノ!北欧からのサンタさんのようです。
そう、取材したその日はクリスマス。院内にも大きくて立派なクリスマスツリーが装飾されていました。
WOW!わお~ッ*゚▽゚)ノノ*゚▽゚)ノノ!!なんということでしょう☆☆☆
今日はクリスマスなので、このように外来や病棟を回ってみなさんを楽しませていらっしゃるとのこと。もうずいぶん前から亀田総合病院さんには季節のお楽しみでサンタさんが登場するそうです。
聞いてみれば、このサンタさんは米国出身で、病院管理学(MHA)の専門家である特命副院長ジョン・C・ウォーカー氏。海外の病院事情にも詳しいので、亀田院長から米国の病院における生花取扱いについて聞いてくださいました。
【亀田院長】
今、サンタの彼に聞いてみたけど、生花から菌が感染するのはノーエビデンス(根拠のないこと)で、米国でも院内の特別な区域以外は禁止していないそうです。
つまりね、生花でもなんでもall or nothingじゃないんですよ。何より感染管理をきちんとするということが重要。「管理」というのは全部一律にすることではありません。全部一緒にやろうと思ったら全員檻の中に入ってもらう以外方法はないんです(笑)
この人は感染しやすい、あるいは医療スタッフが感染する可能性がある場合には手当てをする際にきちんと対処するとか。だけど全員にそうするわけではない。例えば最低限1回患者さまに触ったら手を洗うという、「スタンダードを実施すること」と「リスクに合わせて執り行うこと」が感染管理なんです。
この感染管理とリスク管理の中で、医療というのはどこまで行っても究極のサービスであり、究極のサービスとはつまりパーソナルサービスなんですよ。
【ウン探】パーソナルサービス??「(・_・*)
【亀田院長】
そう。人それぞれに適した対応をするということ。
病気と診断され気持ちも落ち込んでいるときに、あれはダメこれはダメなんて禁止していたら、良くなりませんよね。当院はパーソナルサービスを提供するために、ペットさえも連れてこられるようにペットラウンジを作ったんですよ。その名も「ONE」(ワン)!
【ウン探】なるほど、犬だけにONEとはうまいネーミングですね!d(゚ー゚*)
【亀田院長】
家族同様にペットと暮らしていらっしゃる方も多いでしょう。しかし、病院内ではペットの感染コントロールができないので、院内の敷地にペット預かりショップを作ったんです。何が良いとか悪いとか単純な話ではない。
例えば、手術をしても食事制限のない人や、体の一部を仕方なく切り取ったとしても、心さえ回復すれば体は十分健康な人はたくさんいる。そういう人たちに心を元気にしてもらわないといけません。女性だったら少しでもきれいになれるようエステに行くとか、脱毛をカバーするためにフィットしたウィッグ(医療用かつら)を用意するとか。ウィッグというのはちゃんとやらないとお帽子になってしまいますが、そのためにはフィッティングやカッティングをやって初めて自信を持って外に出られるようになる。そこまできちんと病院内でやって元気になって帰ってもらいましょうということが私たちの考えです。
ぬぁんと、みなさまご存知でしたでしょうか。
亀田総合病院さんには表参道ヒルズにある人気美容室のパ・ド・ドゥが入店していたり、
ネイルサロンも完備されていたり、
その人に最適なウィッグを作ってくれる場所があったりと、健康な人も健康まであと一歩という方も、美容を意識していつでも再び輝きを取り戻す準備ができるようになっているのです!
【院長】
何しろナンバーワンを目指すというのは結構大変なんですよ。わからないこともあるし。
でも、よくわかって易しいのはオンリーワンなの(笑)患者さまにも優しいでしょ。
だからウチは患者さまのためにスタッフから提案されたことは、できるだけ取り入れるようにしているのです。
合言葉は"Always Say YES!"
患者さまの生活を思って提案されたことであれば、よほどのことがない限りダメとは言わない。ダメと言ったらそこで止まってしまうから。
【ウン探】なるほどそこに亀田総合病院さんの大きな成長の一つの理由があるように思えますね。
こちらがそのAlways Say YES!のバッジ。
院長先生はじめ、スタッフの皆様が胸に付けています。"ダメ"とか"できません"と、一刀両断に断らないことが社訓のようになっているのです。
【亀田院長】
そういう考えの中で、限られた病棟以外で生花を禁止する必要なんて全くありません・・・というのがひとつ。
それから、生花店や美容室を院内に設置したもう一つの理由は、従業員のより豊かな生活を願ってのことなんです。
亀田メディカルセンター(亀田総合病院を中心にした医療サービスの総称)はこの辺りでも最も若い女性がいるところ。看護師さんだけで1,000人いるわけですから。しかも、ものすごく大変な仕事を24時間交代勤務でやっているわけです。そういう若い女性たちに田舎だからこそ少しでも都会的な生活やゆとりを体験してほしいという願いから、そのようなお店に入ってもらっているんです。
【ウン探】亀田クリニックさんには生花店の青山フラワーマーケットさんが入店されていますが、そのコンセプトからでしょうか。
【亀田院長】
そうですよ。青フラさんは都会でも"Living With Flowers Everyday"というのがテーマになっていて、400円から700円くらいまでの日常用の花を誰でも気軽に買っていけるようにしたビジネスモデルがありますね。
ぜひ、当院にも出店してほしいと思ったのですが、都会の駅前などにしか出店しないとホームページに書いてあったんですよ。(当時)
"いやこれは断固として交渉してくる!"と言って(笑)、青山フラワーマーケットを展開する㈱パーク・コーポレーション社長の井上さんのところに会いに行ったんです。
【ウン探】院長自らですか?
【亀田院長】
そう。私、自分ですぐやっちゃう方だから。それで、意気投合して、30分で決めた(笑)。
井上さんもすぐに賛同してくださいました。基本的には当院の若い女性たちに、疲れたときなどにお部屋にちょっとお花を買って帰ろうと思ってもらえるようにと思っています。
そして今、亀田グループの全職員・・・今は4,000人以上いますが、男性も女性も含めてお誕生日には病院から全員に花をプレゼントしています。
【ウン探】ぬぁんと、亀田院長!゚+。感:.゚(O*p´∀`q*)゚.:動。+゚
なーんてお話しているうちに、ぬぁんと救急の患者さまを運んだドクターヘリが到着!chop-chop-chop-chop.....
そうです、亀田総合病院さんは救命救急センターにも指定されているのです。
テレビを通してみることはあっても、実際に病院のヘリポートやドクターヘリを目にするのは初めて☆
亀田総合病院さんのヘリポートは、海岸線付近のこのようなところにあるのです!
こちらは亀田総合病院広報企画室長の松元和子さん。先代の院長の時から30年にもわたり亀田総合病院を支える大きな柱のおひとりです。
【松元さん】
先代の院長の時からずっと言われていました。"田舎の病院であることを言い訳にするな"と。
その言葉を肝に銘じて、ヘリポートを作るなどソフトとハードを充実させてきました。そして、病院にいらした患者さまにはいかに快適に日常を感じていただくかを考えて成長を続けてきたのです。
【亀田医長】
医療というのはそういうものなんです。治せるものは治さないといけない。いわゆるコアビジネスサービスという治療のクオリティは絶対に手を抜いてはいけない。その意味では感染管理やリスク管理、あるいは手術、人員配置、一人一人の技術から何から教育が非常に大切。教育という点においても日本で最も有名な病院のひとつである理由は、そこに力を入れて一生懸命やってきたというのがひとつ。
一方では、パターナリスティック(制約的)にならないということが大事。治せるものは治さないといけないのですが、痛い・苦しい治療はご本人にとっても大変なことですね。だからどうやってできるだけ痛くない治療をするかを考える。そして、病院での生活をいかに楽しく送っていただくかお手伝いをするのが医療の役割でもあるんですよ。
だから病院に入ったからってお酒はダメ、花はダメだなんてひどい話で、病院側がきちんと管理をすればいいのです。もちろん肝炎を患っている方やアルコール依存の方にお酒飲んでいいよなんて言いません。でも飲んでもいい方もたくさんいる。食事も、制約のない患者さまは毎日14種類のメニューからタッチパネルで選ぶことができるのです。お部屋で買い物ができて、更にお部屋まで届けてくれるルームサービスもありますよ。
生花も、制約の必要のない方に持ち込みを禁止することはありません。患者さまのQOL(Quality of Life :生活の質)の向上を目指して取り組んでいるからこそ、当院からさまざまなご提案ができるのです。
そのほか、病院にいること自体患者さまにとっては非日常ですから、少しでも日常を感じて心の安らぎを得てもらえるよう、多くの病室はオーシャンビューですし、
庭に憩いのベンチを置いたり、
←まるでリゾート地のよう!
ナチュラルガーデンという無農薬の家庭菜園を作ったりしています。四季折々に花が咲き、実が成る植物などを育てています。
【松元さん】
色々な方に楽しんでいただけるよう、もちろん農薬などの薬類は一切使用していません。皆さまに生命を感じていただけるように。季節になればプチトマトなども収穫できるたりするんですよ。すると患者さまから、
「このトマト、食べてもいいのでしょうか」と聞かれるので、
「どうぞ、召し上がってください」とお答えするんですよ(笑)
うわーーー。
もうなんということでしょう。毎日部屋から海岸線を昇る朝日や夕日を見ながら、日々14種類のメニューからお食事が選べる上に、お庭のプチトマトも食べちゃっていいなんて!エステにも行ける~♪
むしろアタシャ病気になってココに住みたい(≧∇≦)!
(あ、いえいえ、みなさまは決して病気にはならないようご自愛ください。そして病気になっても、亀田総合病院さんに住めるわけではありません。くれぐれも)
【院長】
実際にアメリカや英国などヨーロッパなどのがんセンターに行ったら、ヒーリングガーデンの存在は非常にポピュラー。抗がん剤治療をしている人がヒーリングガーデンを散歩しているんですよ。ヒーリングガーデンは散歩してもOKで部屋の中の花は禁止だなんてナンセンスでしょう。ただ非常に強い治療をするときは別ですよ。無菌室に入りますので。だけど一般のところで、外にも出るな、ローソンにも行くな、窓も開けるな、ずーっとそこに寝ていろとなんて言われたとしたら、それが良い病院ですか?その挙句治りませんなんてことになったら大変でしょう(笑)
何がいいとか悪いとかではありません。きちんとした管理の下、常にインターナショナル・スタンダードに則り、世界の学界での情報を集めて、その範囲の中でいかに病院として患者さまのQOLに貢献できるのかを考えながら医療を施していくというもの。患者さまの価値観はまさにパーソナルでそれぞれに異なるし、バックグラウンドも違うのです。それにいかに合わせていくかがパーソナルサービスであり、あるいはホスピタリティの最も重要なことと考えます。
このようなお考えの元、外来施設の亀田クリニックさんの1階の受付フロアに生花店を設置しています。
その生花店こそ、先述の通り表参道に本社を置き、全国に多店舗展開される「青山フラワーマーケット」さん。2013年11月28日に亀田クリニックさんに入店しました。
【院長】
私のところでは、青山フラワーマーケットさんの入店前から生花店を院内に置いていたんだよ。花の名産地でもある南房総で、市民のみなさまにとっては花のある生活が当たり前。また花を見る目も高いのです。
もう一つ着目すべき点があります。
それは、亀田総合病院さんは国際的な医療機能の評価機関であるJCI (Joint Commission International:国際病院評価機構)の認証を、国内に先駆け取得されたことです。
JCIとはざっくりと申し上げますと、国際的な基準において医療機関としてのクオリティの高さを第三者から評価されるということです。つまり医療機関の国際認証。亀田総合病院さんは国内でもぶっちぎりで(!)いち早く取得され、現在においても国内で最高レベルで認証されています。
このJCI、日本国内で認証された病院は10施設ほど。(2014年12月時点)
「病院」が全国に9,000施設近くある中のお手本的な10施設と言えるのではないでしょうか。
そこで!ウンチク探検隊はこの10施設すべてに電話をして伺ってみましたd('-'*)
「貴院にお見舞いで生花を持って行ってもよろしいでしょうか?」
その答えは・・・
10施設全て同じ。
「結構ですよ」^^
全ての病院から快くOKをいただきました。もちろん、亀田総合病院さんと同様に患者さまの容体や加療状況により、特別な管理が必要な病室は別です。
しかし、最初からall or nothingで生花を禁止しているところはどこもありませんでした。世界的な基準において、医療機関としての質の高さを評価されているその病院です。患者さまの安全を図った上で、患者さま目線、あるいは患者さまのご家族目線で心のケアをしながら医療を提供される優れた病院であるともいえるでしょう。生花の持ち込みは国際認証を取得する上で、何ら抵触していないのです。
■ウン探的「病院への生花持ち込み可否」についての結論■
患者さま目線の温かい病院は、生花持ち込みを禁止しない!
患者さまの心の安らぎを鑑み、温かいホスピタリティの下、二進論で◎か×かではなく、条件設定しつつもここまではOKと幅のある論理的なアプローチをされているところは、本来の患者さま目線に立った医療を行っているところといえるのかもしれません。
(病院によって性質やそれぞれのお考えがあってのことですので、あくまでもウン探の単眼的な見地です)
亀田総合病院さんの場合、院内に生花店を設置しているのは、患者さま、並びに従業員の皆様への亀田院長の愛(思う心)によるものなのでした!
■花き業界の方へ■
人の生命を預かる医療機関として病院の考え方はそれぞれです。私たちは医療の専門家ではないので、医療関係の先生方にご意見を伺いながらも、生花禁止という病院のお考えも理解し、尊重していきたいと思います。
その上で、花き業界として病院や患者さまをケアしてくださるスタッフの方の手間や患者さまの安らぎを考えた商品を提案していくことを考えるのが役割なのではないでしょうか。
<写真・文責>:ikuko naito@花研
]]>