パラダイムシフトと情報不足が招いた低迷市況


 昨日の千両と苔梅、苔松市から報告したい。松市と同様、上モノの価格がが抑えられ、裾モノは無視されるという結果であった。特に苔梅、苔松は料亭等の飾る場所が少なくなり、小振りなものが人気であった。茨城県波崎は、松と千両の生産地だが、今まで松が安いと千両が良いなど、必ず帳尻が合うようにできていたのだが、本年は2つとも安値となった。

そういう市況を作り出したのは、景気によるものが大きいが、他に要因を探るとすると、①市場流通している切花や鉢物と異なり、全国300以上の花の卸売会社へ潤沢に供給されている点。その意味は、中小ほど先に市をやりたがる。理由は荷が潤沢で、後にセリをしたら安値に泣く可能性が大きいからである。中小の卸売会社では、中小の小売店が仕入れをしている。しかも大手のセリが数日後にある訳だから、買参人は見送り気分が強く、安かったら買おうと思ってセリに参加する。よって相場は安値に終わる確率が極めて高い。大阪のように一定シェアを確保している大手は、価格を生み出す力があるが、シェアの小さい卸が先に競るということは、全体の足を引っ張る結果となるのである。

時代がどの業界でも淘汰を促す昨今、中小はあとで取引された大手の価格より高ければ文句を言われ、安ければそこの買参人は納得するが、大きくその年の松、千両の相場に影響を与えるという悪循環が始まったのである。

②松、千両の荷主さんには、純粋な農家というよりも産地商人的なアグリビジネスマンであることが多い。そのことは供給が不足していた時期には弊害が目立たなかったが、供給過剰になると今年の作柄、生産量など、産地全体で持たなければならない正確な消費地への情報掌握ができない。よって本年は予約相対を組んだ人たちがセリ値よりかなり割高に仕入れたことになって、不信感を募らせている。

全体量の把握をどこですべきなのか?系統共販を利用しない生産者がほとんどであるので、作柄と全体量を把握するには、地域の普及所か鹿島松組合、波崎千両組合などの事務局が数字を積み上げて掌握しなければならない。

供給過剰が誰の目にも明らかになってきた今日、出荷予告は相場を決定するために必要なだけでなく、消費を拡大するためにあるいは自分達のシェアを上げて行くために欠かせない情報と見るべきである。消費者に相場を左右する権力が移った以上、仕事の組立てを変え、組織を変えていく必要があるのである。

以上のように、花き業界では江戸時代の藩と同様の花き卸売市場があり、各自私企業として活躍しているのだが、強権を持って廃藩置県や行政改革のような形にはなっていかない。そうなると、混沌とした相場が続くことになるのである。松にしても千両にしても、国民生活には欠かせない年越しの花。それがビジネスパートナーである小売店に情報不足から博打をさせるような仕入れをさせていたのでは、この先が覚束ないのである。




1999/12/20 磯村信夫