クロックスピード


 暖冬のせいもあって、チューリップの消費が今一つ伸びない。 その重要な原因の一つに、クロックスピードがあると小生は考えている。

クロックスピードとは、いわゆる商品のライフサイクルのことである。 95年までは、チューリップは担当者しか覚えられないほど次々に新品種が出荷される時期が続いた。 しかしその後は、もう出しきったと言わんばかりに同じものが出荷されており、バレリーナやアンジェリケは定番となった。

一方バラは、新品種が年間で200種以上も出ていて、アーチング栽培により消費の先を相変わらず走っている。 だから今後ともバラは切花の女王であり続ける可能性が高い。

食べ物に目を転じれば、8世紀以降続いてきた米のクロックスピードが急速に落込んでいる。 人気がなくなって、もうこれ以上消費が増えないのだ。 それは多様化の中でついていけていないということである。 こうなると、政策の転換はなかなか大変だ。 果菜類でも、トマトとイチゴを除き、どうも消費者の変化についていけずに飽きられた品目が多い。 今、クロックスピードが最も早いのは、携帯電話、インターネットに代表されるネット上の機器、パソコンなどで、3ヶ月から半年でクロックスピードが回っている。

カーネーション、キクにも当然クロックスピードがある。 ゆったりしたテンポで周っていたかのようだが、既存の品種郡の中には、寿命が尽きてきたものもある。 具体的にはピンクのカーネーションの“ノラ”や、赤の“フランシスコ”などである。 キクでは白の“精雲”、“秀芳の力”も長寿の商品とは言えなくなりつつある。 このクロックスピードを早めている原因は、グローバリゼイションで一人一人が地球市民と考えるようになってきていること、よって環境問題について感心を持ち、人間の身体で言えば動脈と静脈で、生存維持のために必要であるということから、新しい価値基準が導入されてきたということである。 すなわち、工業社会との決別が本格的になったこと。 三つめに知識社会と言われ、現在では力の強い者が勝つという、「カウボーイエコノミー」がまかり通っているということ。 そしてそれをサポートするコンピュータ通信ネットのWEBが津々浦々まで張り巡らされているということ。 四つめには、第2次世界大戦後に生まれた人たちが、経済のトップになり、またその子供達が両親の世代よりもっと早く新しいものにチャレンジしていく意欲が旺盛であるということ。 彼ら2世代のベビーブーマーに好まれないものは、世界規模で減退し、一国の文化だけで珍重されるが、量は売れなくなったということ。 (和は日本人には欠かせないが、消費者は口で言うほど実際に買ってくれない。)

以上のことから、クロックスピードが速くなってきているのである。 これは花だけでなく農産物全てに言えることで、再度消費者のライフスタイルとライフステージでマーケティングし直さないと、努力が報われない時代に、昨年の10月以降入ってしまっているのである。


2000/01/24 磯村信夫