WTOと中国と日本


時間は過去から現在・未来へと流れると思っている人達が多いが、実際は過去から未来、そして現在へと流れる。それがフィードバックループを持つ人間の時間のありようだし、人間社会の時間である。

中国はWTOに加盟すると、当然国際競争力の劣る産業が陶汰されることになる。その中でも特に重要なのが9億人の人口を要す農業部門である。強い品目と弱い品目とがあり、国際価格の点から小麦・とうもろこし・大豆・綿花などは打撃を受けるとされている。一方強いのは野菜生産などで、果菜類や軟弱野菜そして花などは、海を隔てた隣の国日本に鮮度を保って運び込めるという至近距離にある。新聞紙上で中国の農業政策を垣間見ると、各紙若干のニュアンスの違いがあるものの、基本的には2つの方向を打ち出している。一つは企業と提携をしたり農地を貸与して職員となる傾向、もう一つは競争力を欠く農地は緑化プロジェクトの対象とされる事である。この2つの方向に沿って行動が為されており、既に100万人以上の失業者が農村部で出ていたり、1億人以上の余剰労働力があるとされているので、段階的に移行すべく補助金を出している。ここで驚かされるのは、日本と中国とどちらが社会主義の国であるかということである。日本は農業協同組合を中心に農業の確固たるポジションがある。一方中国は、企業が前面に出ている。

私はガルブレイスの信奉者だが、経済の中で資本主義は陶汰するシステムであると見ている。確かに恐れは人を律し、世に合わせようとするエンジンとなるものだが、互助主義である協同組合システムは、脱工業化社会の次にあるポストモダンの経済システムとして有効な手法の一つであると考えている。日本は早くに近代化し中国と比べて幸せであるといえるが、成熟国家にふさわしい市場主義と協同組合システムは共に併存できると考えている。但し条件は、自尊自立と足るを知った成熟国家の国民としてのメンタリティの有無にある。




2001/08/13 磯村信夫