8月盆は日本の疲れ休み


先週金曜日から、盆の帰省渋滞が始まった。空や鉄道・道路も相変わらず混み合っていると思う。

花の相場は、暑さのため開花が遅れ、一輪菊・小菊を中心に相場が高騰した。8月の盆はお墓にご先祖様を迎えに行き、共に家に戻ってきてお盆をする。そしてまたお墓に送りに行く。心のこもっていて、たっぷりと時間を使った盆の行事である。

しかし、盆を行っている人達は、全ての祖先を崇拝しているかというと、韓国や中国と同じ意味においては、そうとも言えない。彼らなら5代前の先祖の名前を覚えているが、日本では2代前までが普通だろう。その意味で祖先崇拝ではなさそうだ。仏教徒かというと勿論仏教徒であるが、タイやスリランカと同じような仏教徒ではない。日本の仏教は戒律を取り去ってしまった。では何故あれだけ苦労して一家を挙げて帰省するのだろうか。楽しみのためもあろうが、どうもグローバリゼーションと関係があるように思う。グローバリゼーションは先進国、とりわけアングロサクソンという英語圏の民族が科学を発展させていったところに端を発する。自分と自分以外の対象を明確に見極め、その対象を差異分析する。何と何は違う、何と何が同じようだと。何をどのようにすればどのようになる等の理論と技術で誰がどこの国でいつやっても同じ結果になるようにした。これは「文明」なのだが、理屈っぽいところが「文化」なのである。

日本語には、英語の"I"に相当する言葉が「私」「俺」「僕」「小生」「わし」などなど、いくつもある。状況とその人との関係に応じて「私」を位置付けする。英語では自己と客体しかないから、非常に効率的にものを処することができる。よく出される例として、恋人を亡くした青年が「何故彼女が死んだのか」と思い悩む例がある。何故死んだのか。それが交通事故なら出血多量でかもしれない。そしてこの世からいなくなったので、もう思い悩んでも彼女は戻ってこないのだから、その青年は次の彼女を見つければ良い。一般に日本人は「2人称」の場合には、「なぜ死んだのか」「どうしてよりによって彼女が…」と思い悩むことになる。これが3人称の時は「内」と「外」の関係となって無関係になってしまう。日本にはアメリカと違って客観視できず、学んで改善策をスピーディに立てない悪さがある。言いたいことは、グローバリゼーションの中で効率的に仕事をするということは、2人称も客体化し、効率的に処理していくことを求められているということである。

日本と英語圏の民族は、この効率性や普遍性などの点において、かなり異なる。

"Yes, yes..."ということは、「わかりました。私が責任を持ちます」という意味であり、日本で言う「うん、うん、」などと相づちを打つのとはわけが違う。ついかっとなって殴ったとする。殴ってしまい、相手に謝ると日本では普通相手は殴り返さないが、英語圏では「私が非を認めました。どうぞ好きなようになさって下さい。」と当然殴り返されると思っておいた方がよい。「目には目を、刃には刃を」であるからだ。

話を元に戻すと、グローバリゼーションと共に、近年組織の中でも宗教の戒律に相当するプリンシプルが必要になってきた。日産のゴーンさんのように、プリンシプルを明確にし、利益を上げるために効率化を図る。かつての同僚や得意先もプリンシプルによって適合、不適合を決める。この国は宗教でさえも徐々に戒律を骨抜きにしてきた国だから、特に罰則や降格などが行われた時、或いは、行わざるを得ない時に人は思い悩む。友人のドイツ人が大田花きでは入社後3年間は昇給やボーナスに殆ど差がないことを知ると、「磯村さん、そんなアンフェアなことはしてはなりません。」と僕に意見したのは5,6年前のことである。今、大田花きでも一律に処遇するということは不公正だと考えるに至ったが、この10年間グローバリゼーションの中で事業運営をしていく術を学んでいった結果であろう。これはほんの1例で、日本の企業はまさに今までの日本のシステムプラスアングロサクソンの価値基準を取り込んできている。「選択と集中」なぞ、その最たるものだ。

こういう時代の中で、なんらかの組織に所属する人はどことなくギスギスした感じを持っているに違いない。だから家族を連れてお盆に郷帰りするのではないか。

花の相場を見る限り、正月より盆の方が活発でおもしろい。特に8月盆はスリリングだ。なにせ台風や猛暑で事前の計画なぞすっ飛んでしまうことがままある。まあ、そうは言っても「花き産業」だから、plan-do-seeはきちんとする。しかし、8月盆はとにかくパワーがあるのだ。そこへいくと、−うちなどもその口だが−7月の東京の盆は、夏休み前だから、効率的に片づけてしまう家庭が多い。東京でも、もう少しのんびりと盆の行事を行うには、東京も8月にした方がいいのかもしれない。




2002/08/12 磯村信夫