沈寿官氏の講演


火木土曜日は、できるだけ日頃の運動不足を補うために、歩いて会社に来ている。先週の土曜日もいつものように歩きながら、NHKラジオを聞いていたら、「心の時代」という番組で薩摩焼きの14代沈寿官氏の講演を放送していた。
秀吉の朝鮮出兵で李氏朝鮮から連れてこられた陶芸家は、日本の陶磁器を世界有数なものにし、結果としてIT産業には欠かせないセラミックスの技術を現代の日本にもたらした。沈寿官氏は、たくさんの心に残るお話をされていたが、とりわけ「何のために陶芸をするのか。陶芸を通じてどんな人間になろうとしているのかを常に自分に問い続けている。」というお話は、人が仕事をしていく上で最も重要な問いではないかと思う。

いつだったか忘れたが、まだ僕が若いころ、アメリカ人の友人宅でパーティをしたとき、その席にシンクロナイズドスイミングをやっている女性がいた。「オリンピックに出たい。そのためには○○コーチにぜひ指導をしてもらいたい。」と言っていたのが頭に残り、日本に戻ってきてから、彼女はどうしたのかを友人に聞いた。そのコーチは彼女に「あなたは何のためにシンクロナイズドスイミングをやっているの?あなたはシンクロナイズドスイミングを通して、どんな人間になりたいの?」という質問をしたという。彼女はきちんと答えたのだろう。結果、コーチをしてもらえるようになったらしい。
その話は殆ど忘れていていたのだが、頭のどこかに残っていたらしく、沈氏の話を感銘を持って伺うと同時に、思い出した。

花き業界にとって日々の相場やらお天気や売上、利益は大切なことだが、沈氏のように働くことの意義を自分に問いかけ、考え、自分できちんと答えを出して、仕事に邁進していく人が多いほど、この業界は良くなると確信した。




2003/01/27 磯村信夫