店売り繁盛店の共通項は「捨てて勝つ」こと


6月25日付けの『花卉園芸新聞』の一面に、(株)ブルーミスト・オランダ屋の簔口氏のコメントが載っていて、嬉しく拝読した。花屋さんはまだまだ打つ手がある。他業界で行われている販売技術や経営ノウハウを導入して今後とも大きくはばたいていただきたい。
記事を読みながら小生が尊敬する静岡県のあるお花屋さんに、私塾であるナルシス会のメンバーとお伺いした時のことを思った。2代目のH社長は現在43歳。完璧な店売りの花店を目指す1店舗主義で、簔口氏と同様に2日で切花を売り切ることを実践している。朝4時に起きて仕入れ、それぞれの花の最良品質のものをセリ買いし、午後2時には店頭に並べる。2日前の花でお客様の信頼を裏切らないとするものはサービス花束の素材として、もちろん4日前の花は涙をのんで廃棄する。7時過ぎまでお店を開けていて、そこから経理や経営指標の作成、翌日の準備をする。元日は休むそうだが、それ以外はお店を開けている。
「捨てて勝つ」とはPL教団の故御木徳近(みきとくちか)氏の教えだが、今風に言えば「集中と選択」である。この中で地域に根差した花店を目指しているが、本人は言わなかったが、わたしにはこのH社長は日本一の店売り花店を目指していると感ずる。店売り金額、途絶えることのない客足を自慢するでもなく、もちろん傲慢さのかけらもないこの徹底した謙虚さは、頂上を見て一歩一歩登っていく人の仕事人生の心持ちであろう。
花王の「(現状)不満足企業」ではないが、この花店では奥様をはじめ店員さんの仕事振りや接客をみていると、顧客満足などという自己の利益のために一つの手段として顧客を喜ばせるような自己都合は微塵もない。自分たちの生活を全て花店に注いでいるその姿勢にはお客様もいたく感動するのだろう。

花き小売業界のサイレントマジョリティは、簔口氏やH社長のような方々である。スーパーやホームセンターなどが小売業界に参入し、同業者間だけの競争ではなくなっていている。競争が厳しくなっているという意味はどこから球が飛んでくるかわからないということだと、小売店の方々は捉えている。そのとき広く使われている公式はマイケル・ポーターの「集中と選択」である。何をやらないのかを明確にして、コストリーダーシップで一番になるか、ニッチャーで一番になるか、事業規模によって決めていけばよい。いずれにせよ、自分はどの土俵で一番になりたいか、このこだわれる場所で商売をしていくことが存続可能な道なのである。




2004/06/28 磯村信夫