休暇メモ


1週間休みを頂いてオランダ経由でヨーロッパに入り、久し振りにベルリンとワルシャワで過ごした。ベルリンは今、旧東側の開発が盛んで、首都の風格を備えつつある。ソニーセンターの周りでうろうろしていたらよっぽどこの商業文化施設は地元に溶け込んでいるのか、地元の人だろうか、小生が日本人らしいとわかるとソニー製品の素晴らしさを褒める。ここまでブランド化するのには並大抵の努力ではなかったろうが、思わず日本人に生まれてよかったと感じる一瞬である。
ベルリンの景気はやや上向いているとのことだが、この5月にEUに加盟したポーランドはまずインフレから始まってきている。あえて横丁のパブや食堂を探して食事をすると、昔ながらの物価で思わず安いと感じるが、メヌキ通り辺りでは普通のポーランド人ではなかなか食事ができない価格帯である。統合後インフレから始まるのは経済の常道だが、家電製品や自動車が今後割安になり経済活力が増していくその芽を垣間見ることができた。6月から8月まではポーランドでは輝かしい夏でちょうどいい時に行ったから、街の表情により明るさを見せていたのだろうが、ロシア離れを志向するポーランド人からすると、これでよかったと言ったところであろう。

オランダで旧知の間柄であるアルスメールのボードチェアマンのクィッパーさんとミーティングしたが、先方の関心事はアジアの経済と花き産業のダイナミズム、そして日本の花き産業がその中でどのように生きていこうとしているのか、またオランダからの輸入の可能性などについてであったが、小生からはEUが拡大するとともに、5〜7%の成長を前提に運営されているアルスメールとフローラホランドの花市場は、今年の冬のような春の天候のせいもあるが、EU内の経済成長の鈍化とアフリカ勢の輸出攻勢で本年に入り価格が10%ほど安く、ようやく先々週から昨年を上回り出した。(6月28日(月)、大のお客様に成長してきたロシアがミカンキイロアザミウマだと思うが、それが花に付いていたとして、オランダからの輸入を全面ストップした。30日、オランダの各市場では4割から半値以下になる品目が続出した。)この見通しとのギャップをどのように調整しようとしているのかに関心があった。
アルスメールではこの春従業員を100人解雇した。初めてのことだったので、ボードメンバーは随分動揺しているとのことだったが、今後どのようなコストダウンの計画があるのかということなどを話した。
アジアについては小生からASEAN自由貿易統合後の2015年くらいまでの見通しと、日本の農業政策について語り、クィッパーさんからはコストダウン計画と委託販売手数料率に頼らない収益確保の具体策について話があった。現に大手仲卸の友人たちと話をしていると、大手は市場から受けるさまざまな付帯サービスの合計約5%(くらいの金額)をものとはせず、取引や自社内物流の合理化に役立てていて、メリットありとしているが、中堅以下の輸出商は負担に耐え切れず、最小限のサービスのみを選択していた。ここでも完全に二極化の方向にいっている。

総じて、英国を除きEU諸国内では人口は増えないのだから、量の拡大ではなく、生活の質の向上のため、EU連邦を使おうとしている。それが本来の目的でそのとおりの形になってきている。事業の競争レベルで言うとますます顧客に密着し、顧客の利便性を高める一方で、コストダウンを同時に行うといったトレードオフの関係を解決し、優勝劣敗を繰り返しながら前進してきている。押しも押されぬ産業として花き産業となっているオランダでは国による品種の棲み分けも進んでいる。咲ききる品種として名高い小輪バラのフリスコを手掛けるオランダの生産者は、アルスメールの場合もうたった一人しか存在しない。ほとんどケニヤやザンビア勢が生産している。日本の農林水産省が外に目を向けさせるため農産物の輸出に向けて太鼓を叩き始めたが、価格で見た場合香港の到着値段で、日本よりオランダからの方が安いのが現実なのである。
商売の世界では当たり前のことだが、消費者主義に基づき顧客にどのような高付加価値の製品やサービスをしかも割安な価格で供給できるか、これが産業人としてその組織体が生き残っていくために解決しなければならない事柄だが、これを「貢献と報償」の費用対効果で再度見直す必要がある。日本では所得不足による価格のデプレッションは今後とも続くと考えておかなければならない。そうなると産業人として課題を克服できなかったものは消え去るしかないのである。

今回、一旅行者として3カ国を旅して体感したのは、ヨーロッパでも選択肢の広がりと我侭がこうもきくようになったのかという点、ビジネスマンとしてはどこでも買ってもらうのが難しくなってきるということである。
一般に日本の組織には戦略性が乏しいと言われているが、米政策や市場法の規制緩和で目先の欲に駆られて花き業界が右往左往するようではかなわない。グローバリゼーションと規制緩和施策の中では利他でなければ利己は不可能だ。自己都合を優先した取引ではなく、消費者に選んでもらえるよう機能の異なる特定業者間たちがチームを作ろうと「取組む」ことに生き残りの道がある。




2004/07/05 磯村信夫