2016年2月15日
vol.113 JAふかや 後編■チューリップ(切り花)
さいた~、さいた~、チューリップの花がぁ~♬
この歌の通り市場にはバラエティ溢れるチューリップが市場に流通しています。
そのチューリップの切り花はほぼ国産。なかでも埼玉県のチューリップ生産量は全国第2位で、その多くを深谷で担っているのです。
全国に誇る深谷のチューリップ生産者さん代表で訪れたのは、チューリップ部会部会長の田尻貞由(たじり・さだよし)さんとご子息の田尻重之(しげゆき)さん。
お二人ともナント素敵なスマイルなのでしょう。
田尻さんは面積600坪(≒畳1,200枚!)ほどで、チューリップの水耕栽培をしています。
みなさま、チューリップの水耕栽培ってどんな様子か想像できます??ウン探は・・・正直に申しますと想像できませんでしたが、このように栽培されていたのです。
ジャジャン!
ふむふむ、水槽になっているベンチに水を入れて、その上にプラグ苗のポットのように賽の目に分かれたトレーを入れ、その賽の目ひとつひとつにチューリップの球根を置いていくとッ。
ひとつのマス目の下には穴が空いていて、そこから下根が伸びて水を吸収するというしくみです。
みなさまの想像と近かったでしょうか。
この水は流れているのですか?
「あまり流れていないよ。流れていると万が一病気が入ったときに、蔓延しちゃうからね。
蒸散や球根が吸収するなどして、減った分を足すといったところだよ」
深谷のチューリップ生産はほとんどが土耕栽培です。しかし、田尻さんを含め2軒の生産者さんが水耕栽培をしています。
田尻さんはなぜ水耕栽培を選ばれたのでしょう。
「この辺りは荒川の砂質土壌でね、土は硬いし、石はゴロゴロ入っているし、ジャリジャリしているので、土耕栽培には向いていないんだよ。
同じ深谷でも、利根川と荒川の間の地域は関東ローム層でふかふか土壌。そのような所では土耕栽培を選ぶし、うちはジャリジャリしているから水耕栽培を選んだんだよ」
水耕栽培のメリットはなんでしょうか。
「① 定植から収穫までが速い
1か月と1-2週間で出荷できるからね。
② 作業効率が良い
ベンチで高く設置している分、腰を曲げる必要がないから作業効率も良いし、身体への負担が少ない。つまりその分、長い間仕事ができるということでもあります。」
なるほど。
では、水耕栽培のノウハウはどのように得たのでしょうか。お手本となる産地などはあったのでしょうか。
「特にどこをお手本としたというのはないかなぁ。いろいろな産地の見学には行ったけどね。
自分流で最初は畳1枚分の大きさでやってみて、これは大丈夫と思って徐々に大きくしていったんだよ」
モデルはオランダ方式だったりするのでしょうか。
「いやいや、オランダのやり方とは全然違う。特にマネようとも思わなかった。
この地の気候風土に最も合うやり方を自分で経験を重ねながら作り出していったんだよ。いろいろ失敗しながらね。
オランダには独特のノウハウがあって、1シーズンに5-6回収穫しちゃうみたいなんだけどね。うちは今は2回。」
ではご自身で全て考えてやられたということは、色々と御苦労があったこととお察しします。
「そうだね、いろいろ失敗もしたよ。
水温が上がってしまって、全部腐ってしまったり・・・何かしらの菌が入って腐っちゃったんだろうね。
肥料を入れてみたら根っこが黄色くなってしまったり・・・だから今は肥料を一切入れていないんだ。」
チューリップにとって水温はどのくらいがいいのでしょうか?
「根が張るのに最適な温度は8-9℃くらい」
水耕栽培では水道代が高くついてしまうのではないかと心配してしまいますが・・・?
「井戸水を使っているんだよ。
以前、保健所に調べてもらったときは、その井戸水は飲み水で使えるくらいきれいで清潔。
深谷の市営水道は地下水を使っているほどなんだ。」
水はきれいで日照量も多くて、深谷はイイトコロですね~♪
その土地の環境とあるものを生かしてチューリップ栽培をされている田尻さん。まさに地の利栽培を実現されています。
あらら~?
こちらのハウスでは何やらおとぎ話に出てきそうな美しい少女が椅子に座っています。
「私の奥さんです。」
うわっ。遠巻きでしか拝見できませんでしたが、美少女系ですね。何をしていらっしゃるのですか?
「水耕栽培を始める準備。球根を一つ一つのマス目に配置していっています。」
このような形で届いた球根をひとつひとつマス目にセットしているところです。
そして水耕栽培でグイグイと伸びて、1か月と1-2週間ほどで出荷というわけです。
チューリップはひとつの球根から1本(1輪)咲いて、収穫したらそれで終了。次の花を咲かせるためには新しい球根をセットします。
「ウン探さん、チューリップでどうやって収穫するか、知ってル??」
うーん、?c(゚.゚*)エート。。。普通にハサミで切る?
「球根ごとプラグから取り出して、このような機械で球根を切り取るんだよ!」
えぇッ??チューリップって機械で球根を切り取るんですか?知らなんだぁ。
機械で収穫する花って国内では珍しいかもしれませんね。
「ほら、これが収穫した後の球根だよ。」
「元々はこのようにくっついていたんだけどね」
「昔は包丁で切っていたんだけどね。
チューリップの茎元ってよく見ると少し白くなっているでしょ。その白い部分が球根の中に入っていたところなんだよ。」
そういえば・・・σ(゚・゚*)
チューリップの茎元って白くなっていますね。
そうか!ここが球根の中に入っていた部分ということなのですね。
田尻さんの軽トラには収穫が終わった球根の山・・・!
亀仙人のヒゲのような白い根がもしゃもしゃと生えていますが、これらはどこに行くのでしょうか?
「畑だよ。」
ん?畑に?また?芽が出てくるとか??
「畑に持って行って肥料として使うんだよ。球根はほとんどデンプン質だからね。」
へー、そうすればゴミもなくなるし、畑は肥えるし一石二鳥ですね。
ところで、品種が豊富なのがチューリップの魅力の一つですが、品
種選びはどのようにしていらっしゃるのですか?
「出荷量の多いピンク、黄色、赤は人気の定番として大切に作るけど、遊びゴコロで10-20%くらいは新陳代謝用の新品種も導入するよ。
毎年同じ品種ばかりでも、作っていて面白くないからね。
品種選びはその品種が水耕栽培に合っているかどうかも検討しながら、ウチの栽培環境に合ったものを導入する。
今年はトータルで80-90品種くらいあるかな。
あとはJAふかやの花き担当をしている髙野(こうの)さんの言うことを聞く」
強力なアドバイス力を持つJAふかやの髙野さん↓ 生産・出荷を牽引します。
なるほど、最後は髙野さんですね。深谷にはマーケットの声を細かく聞き分けて、未来を読む敏腕アドバイザーがいらっしゃるわけですね。
そして田尻さんをはじめ、生産者のみなさまとの信頼関係が構築されているからこそ、敏腕マーケッターのアドバイスを信じて品種を導入する!納得です。
■ちょっとおまけ「球根について」
チューリップの球根はオランダから輸入します。
みなさん、オランダの大地を色鮮やかなストライプ模様に彩るチューリップ畑の風景、わかりますか。あのチューリップ畑は、切り花用チューリップの球根を養成しているのです。日本に届く球根もあの景色の下にある球根なのです!
でははぜ咲かせているのかというと、花色の確認のため。
「開花して花色を確認できたら2-3日くらいで、すぐにチョキン!と切ってしまうんだよ」
え!?すぐ切ってしまうのですか?WHY?もったいな~い!・゚・(ノД`;)・゚・
「良い花を咲かせるには養分が必要。その養分はもちろん球根から供給されるわけだよね。だから、球根が養分をたくさん蓄え、太らせることが重要。花を長く咲かせてしまうと、養分を花に取られてしまうでしょ。だから、色を確認したらすぐ切ってしまうんだ。私たちのような生産者が良いチューリップを咲かせるためにね」
なるほど、チューリップの花畑は、実はチューリップの球根畑だったのですね。球根の養成のために満開になってから数日のうちに全て花を切り取ってしまう。ですから、あの色とりどりのカーペットの景色を見ることができるのは1年のうちでもほんの一瞬なのです。
満開の季節にオランダにタイミング良く行けるというのはとてもラッキーなことなのですね。
「花首を切ったら球根を掘り起こして冷蔵にかけるんだ。6月下旬くらいかな」
冷蔵にかける?
「そう。チューリップは春に咲く植物でしょ。それは一旦、冬(寒さ)を経験して温かくなってきたな~と感じたら花が咲くからなんだよ。
それを今のような寒い時期に咲かせるためには、夏の暑い時に人工的に寒さを経験させないといけない。そのために冷蔵するんだ。
段階的に冷蔵していくんだけど、本冷(ほんれい)と呼ばれる冷蔵処理は5度で8週間ほど。
その冷蔵状態のまま船に乗せて日本に送ってもらうと、すぐ定植できて、この時期に開花するってワケ。」
そか、今は冬だから、この冬に出荷するためには夏の間に冬を体験させるわけですね。
これを春化処理(あるいはバーナリゼーション)といいます。
チューリップの田尻さんのところでも、良い花を咲かせるのは球根会社の連携があってこそなのですね。
JAふかやチューリップ部会 部会長 田尻さんの格言
・品種構成は的確、かつ厳格に!定番&新商品の組み合わせが肝要!
敏腕アドバイザーに従いマーケットで売れるものを投入せよ。
生産者都合で作りやすい品種を作り続けることが、生産者にとって必ずしも良いとは限らない。
・地の利を生かした生産を推進せよ。
良い花を作ることができ、且つ生産コストやゴミを削減することができる!
・チューリップは回転勝負。限られた出荷期間の中でいかに出荷量を増やすかで勝負せよ!
☆最後に
冒頭でうんちく探検隊が歌った(?)
"さいた さいた チューリップの花がぁ~"♬
という国民の誰もが知るこの歌は、世田谷区の近藤宮子さんというご婦人が「みんなの良いところを認め合いたい」という優しい思いを込めて作詞されたものです。
今回の取材でチューリップの田尻さん親子には、とても明るくお優しい印象をお受けしました。色々な人の個性やバックグラウンドを認めうように、田尻さんも色・形・個性様々な品種をそれぞれに特性を見極め1本1本育て上げ、最後は「嫁に出すような気持ちで出荷する」のだそうです。
そんな田尻さん親子も、とてもお優しい心の持ち主なのでしょう。
そして、チューリップこそ多様性を受け入れ平和を願う優しさの象徴なのではないでしょうか。
☆ちょいと深谷探訪
深谷のすぐ駅前には桜並木。3kmにもわたり約300本の桜が植栽されています。
JRの駅前すぐのところにある桜並木は全国でも珍しいと深谷市観光協会の方が教えてくださいました。
寒々しい空の下に黒い枝が浮き上がります。
しかし、よく見ると小さな花芽が。
季節になればそれはそれは素晴らしい桜並木がお目見えすることでしょう。
春はきっともうすぐ。この寒い冬を乗り越えようとする桜のつぼみのように、わたし達も今はじっと寒さを耐え、温かい春を待ちたいと思います。
JAふかや様のチューリップは3月下旬ころまでの出荷です。ぜひ春を待つわびる間に、深谷のチューリップをお楽しみください。
<写真・文責>:ikuko naito@花研
2016年1月29日
vol.113 JAふかや 前編■LAユリ
みなさま、新春!でございます。はなんと素晴らしい響きなのでしょう(´∀`)!
本年も産地ウンチク探検隊をどうぞよろしくお願い申し上げます。
さて、素晴らしい響きの新春第一号は、東京から100km足らずのココ埼玉県深谷(ふかや)市を探検します!
うンわッ、なんだか東京駅のようなクラシックで重厚感のある駅・・・こちらはJR高崎線深谷駅。
この駅は東京駅を模して平成8年に完成しました。なぜ東京駅を模したのか、ここがポイントです。
実は、深谷はレンガ造りが盛んで、東京駅の煉瓦は深谷で作ったものだからです。深谷駅はレンガ調のパネルを使っていますが、それでもビクトリア様式の気品が青い空の下に漂います。
(あ、空、青くない??実は曇りでした^ ^;)
何を隠そうその煉瓦を作った深谷の日本煉瓦製造株式会社こそ、明治20年に近代日本経済の父と呼ばれる渋沢栄一氏が設立した会社です。そう、渋沢栄一氏の生誕の地こそ、ココ深谷なのです。ワオw(*゚o゚*)w
また、日本煉瓦製造は東京駅ばかりでなく、司法省(現法務省)や日本銀行、迎賓館、旧東京裁判所、旧警視庁など、名だたる建設物の建築材となっています。
渋沢栄一氏にばかり気を取られていてはいけません。スーパーやコンビニの冷凍庫の中でひしめき合うアイスクリーム。
今や主食にしている人もいらっしゃるかもしれませんが、そのアイスクリーム生産量は埼玉が日本一。その生産を支える企業こそ、深谷に構える昭和6年創業の赤城乳業さん。
そして、深谷といえば公認キャラクターのふっかちゃん!
到着した瞬間からあちこちでかわいいふっかちゃんがお出迎え❤
ふっかちゃんの頭から大胆にもドカンと生えている角こそ、日本一の出荷量を誇る深谷ねぎ。
平地で内陸、寒暖の差が大きい上に関東平野で日照量が多い深谷は、野菜や花の生産に適しているのです。
←深谷ネギ畑
この気候特性を生かして栽培される農産物は、もちろんネギだけではありません。
埼玉県といえば深谷も含め花き園芸の一大産地。
とりわけ切り花でいえば、生産額全国第1位のユリと第2位のチューリップ!
今回はこの2つの花をご紹介いたします。それでは深谷の花の魅力にズームイン!(古い?)
前編はユリ。
☆深谷のユリ
全国一のユリ産地としてお邪魔したのは、JAふかや深谷ゆり部会、部会長の植竹好宏(うえたけ・よしひろ)さん・・・とご紹介しようと思ったら、
「あ、これ全国ネット?」
なんて、メディア慣れした植竹さんは早速確認。
「はい、全国ネットというか世界中どこからでも閲覧できるインターネットです。」
とウン探が答えた瞬間、
「じゃあ、髭剃ってくる!」
・・・とたちまちご自宅に消えた後、さっぱりされた爽やかNHKアナウンサー系硬派なジェントルマンとして再登場されました。
改めまして、こちらがJAふかや深谷ゆり部会、部会長の植竹さんです。
そんな植竹さんに伺ったお話は、以下の順でご紹介いたします。
■ユリの球根
■土と水と太陽
■LAユリの選択
■2014年2月の雪害を乗り越えて
■ユリの球根
ウンチク探検隊をご愛読くださっている皆様なら既にご存知かと思いますが、ユリは球根から育てます。
取材当日、ちょうどオランダから届いたばかりの球根がありました!JAふかや南部営農経済センターの髙野健一朗(こうの・けんいちろう)さんが指さす先にある、黒い箱の中にその球根が入っているのです。
ブシャーとひっくり返してみるとこんな感じ。
土のように見えますが原則的に土は輸入できないので、土ではなくピートモスというミズゴケが原材料になったものに保護されて船便で日本に到着します。
球根のサイズは直径4-5cmくらい。このとき良い球根はどのように見分けるのですか?
「鱗片が締まり、球根全体にキュッと締まりがあること。大小ではないんだ。
水ぶくれで大きくてもブヨブヨしているものは良くないからね」
え?水ぶくれ??ブヨブヨ??あッ?アタクシ??どーもすみません( ´)Д(`; )
「ナニ言ってんの。球根のことだよ。水ぶくれしていると青カビが出たりいろいろ問題があるからね。
それから、下根がしっかりしていることが大事。」
↑このように、球根の下に、太い根がもしゃもしゃと生えていることが大事。
「でもオランダの球根の納入業者さんが丁寧に神経を使って良い球根を選んで送ってくれるから、そう悪い球根はないよ・・・!」
オランダの球根の輸出業者さんは長期冷蔵に耐えるよう、球根を包むピートモスの湿度調整もした上で出荷してくれます。
「水分を含み過ぎて鱗片の腐敗やフザリウム菌の繁殖を引き起こさないよう、あるいは乾きすぎて枯死しないよう、色々と工夫をされて出荷してくれているんだよ」
球根の輸送にも細かなノウハウがあるのですね。
「そうそう、ノウハウがあるし技術だし、日々進化していると思うよ」
ちなみに、こちらは収穫が終わったユリの球根を引き抜いてみると・・・
ジャジャン☆こんな感じ!
うンわッΣ(◎o◎;)!何やらさらにもしゃもしゃしてすごいことになっていますが・・・
「生長過程で上根(うわね)が生長してこうなるんだよ」
まるで、天然のドレッドヘアのようやわ~。こうなっていれば良いユリが収穫できたというわけですね。
キーワードはドレッドヘアのような根っこ。
■土と水と太陽
植竹さんのハウスがある関東平野のこの地域は、関東ローム層の粘土化した火山灰層に覆われています。
しかし、一級河川の利根川と荒川に挟まれ、水分や砂利具合など複雑な土壌のように思いますが、ユリにとってはがでしょうか。
「ユリは土質を選ばないんだよ。
だから世界中どこででも比較的作りやすい。ただ、pH値とEC値(電気伝導度、土中の肥料の総量)だけ整えるように気を付けているけど、基本的には関東ローム層の土をそのまま使っているよ。」
そのまま使うと言ってももちろんそのまま使うわけではなく、まずはこのように耕耘(こううん)機で耕して、溝を作っていきます。
フカフカの土の中に入っていくので、地下足袋は植竹さんにとって七つ道具の一つ。
「畑の中に入っていくけど、土が足の中に入らないし、滑らないし、痛くならないからいいんだ!」
うわー、きれいにできたー。
土を耕せたら、オランダから届いた球根をピートモスの中から手袋もせず一つ一つ傷つけないよう丁寧にカゴに取り出していきます。
「こうして手で定植するんだよ。」
球根どうしの間隔に決まりはあるのでしょうか。
「基本的には15センチ真四角で定植するのが部会の決まりです。」
植竹さんレベルのベテランさんになると定規は使いませんが、これで15センチ間隔になっているのです。
では深さは?
「球根の2-3倍くらいの深さに植えます。ユリ全般にそうだよ」
このように丁寧に置いたら、畝の山を崩し土をかぶせて、さらにその上にもみ殻を敷いてできあがり☆
あれ?えーっと、?c(゚.゚*)。。。もみ殻は何のため?
「乾燥防止だよ。特に夏場はこれをしないと表面がカラカラに乾いてしまうからね。
もみ殻を敷くことで土の表面から水分が蒸散するのを防ぐんだ。また栽培した後も、もみ殻や藁が肥代わりにもなるんだよ。」
マルチングシート代わりといえそうですね。
水遣りももちろん大切な農作業の一つ。どのくらいで灌水するのですか?
「決まっているわけではないんだけど、今回は一週間ぶりくらいかな~」
ユリは水遣りが比較的少ないということでしょうか。
「そうでもないよ。ユリの場合は、次の3つを見ながら水遣りをするんだ。
・土の状態
・空気の乾燥具合
・気候
だから水遣りの間隔は決まっていないんだ。
特によく見るのは、この表層土!」
表層土を見る?
「そう、特に最近は表層部分1-2cmを意識した灌水に努めております~(ニコニコッ!)
畝によって西日の当たる肩の部分がどうしても乾きやすい。 だから表層土の色を見極めながら灌水判断をするんだ。
でも水をジャブジャブやると、背丈が無駄に伸び過ぎちゃうしね。」
日照量の多い関東平野。それだけに、日々農業に勤しむ植竹さんには日照の強弱を肌で捉え、表土を見て、灌水のタイミングを計っています。
■LAユリの選択
LAユリとは、テッポウユリ(学名:Lilium longiflorum ロンギフロラム)とアジアティックハイブリッド(Asiatic Hybrid、スカシユリの系統)との交配種です。
テッポウユリ × アジアティックハイブリッド = LAユリ(写真の品種名はセラダ)
ロンギフロラム-アジアティック・ユリというところですが、あまりにも長すぎるのでそれぞれの頭文字をとって、通称LAユリと呼ばれます。
黄色やオレンジ色が多いこと、また山ユリやオニユリにあるような花弁のそばかすがない(スポットレス)ことが特徴です。
←ヤマユリ:花弁のスポット(そばかす)がある。
LAユリは1992年に日本に紹介された比較的新しいグループですが、現在日本ではユリの中では品種数最多を誇る部類です。
深谷ではこのLAユリが全体の9割を占めます。そもそもなぜLAユリを選択したのでしょうか。
「製品率が高いことが大きいかな。ロスが少ないんだ。
深谷では元々スカシユリとオリエンタルユリを作っていましたが、スカシユリよりも輪が大きく見栄えがして、且つオリエンタルユリよりロスが少ない。この中間のLAユリは営利生産に向いていたんだ。
だから深谷はLAユリの生産において全国初の部会を設立したんだよ。」
また、暑さに強いのもLAユリのイイトコロ~。周年栽培のためには、LAユリは相性の良い花なのです。
更には近年ヒートポンプを入れたことにより、クオリティもグッとアップ↑
冬は湿度を下げて病気を未然に防ぐため、また夏場は夜温を下げるために使います。
深谷で球根切り花の生産が盛んになったのはいつごろなのでしょうか。
「昭和30-40年代かな。深谷でチューリップ、スイセン、クロッカスなどの球根切り花があって、その中でユリも導入されたんだ。
そもそもは関東平野は米・麦・養蚕(べいばくようさん)が盛んでしょ。深谷でも養蚕が盛んで、お蚕(かいこ)さんのえさになる桑をたくさん作っていたんだ。
その桑の木の閑散作物として戦前から桑の木の間に球根を植えたっていうのがきっかけ。この辺りの栄養分の少ない土壌には土質を選ばない球根がちょうどあったのかもしれないね。
東京にも使いことから周年栽培の技術か早くに確立して、ユリの生産が大きく普及して根付いていったんだよ。」
LAユリの良いところはどのような点でしょうか。
「花の輪が大きすぎないところが一つ。
このことによって、他の花との調和が取れやすいし、例えばご家庭で飾っていただくにも大袈裟でなくていい。おうちの雰囲気とも合いやすいでしょ。
他には花色が豊富なところだよ。」
ごく一部ですが、JAふかや様の品種はこちら。
写真左からパーティダイヤモンド・エルディーボ・ハイドパーク
明るく鮮やかな発色と陶器のような花弁の質感に魅力がありますね。
■2014年2月の雪害を乗り越えて
まだ記憶に新しい2014年2月半ばの記録的な大雪。
諏年栽培を実現し全国シェアの20-25%を占めながら、深谷のユリは全体で7割、とりわけ植竹さんのハウスは9割以上(つまりほとんど)が潰れてしまい、甚大な被害を受けてしまいました。
「上からハウスごと雪がドサッと落ちてきたから、伸びていた芽は全て潰れてしまったよ。
まだ芽が出ていないものであったけど結局温度がかけられないから、凍害(とうがい)でダメになってしまったんだ。
花芽が上がっているものもあったけど、潰れていなくても全て凍結してしまうし、生長しなくなってしまう。ほとんどが台無しになってしまったよ」
生き残った球根を救ったとしても、栽培する施設が全て崩壊してしまったので、すぐには栽培を再開できません。
被害は収穫間際のユリ、生長中のユリ、球根を含め、植竹さんの圃場の全てのユリなど出荷物ばかりでなく、栽培施設も壊れて立て直しをしないといけないので、ダブルパンチ(*_*;
降雪から半年後の2014年9月から少しずつ出荷を開始。
「2015年11月に施設はほとんど修復されたよ」
2015年11月ってまだほんの2か月前ではありませんか!?・・・雪害から1年10か月が経過したころです。いかに雪害の被害が大きかったかを物語っています。
「耐雪式のハウスに立て直し、生産ができる状態には戻ったよ。
でも、生産体系を組み立て直す必要がある。今後の色バランスや球根の導入計画など、ハードは一応整ったけど、ソフトはまだまだこれからなんだ。
雪害のお見舞いで天皇・皇后陛下がお越しくださってね」
て、て、テッ、天皇陛下??
そう、2014年2月の記録的な大雪で雪害に見舞われた植竹さんのハウスには、ぬぁんと天皇陛下・皇后さまがお見舞いに来てくださったのです。
「そうそう、歩くパワースポットッという感じで、神々しかったね。
ハウスの入り口からまさにこのルートを歩いていらしたんだよ」
わー、天皇皇后陛下が踏まれた土と同じ土の上に立っているウン探・・・ありがたき幸せ~。
どのようなお言葉をいただいたのでしょうか?
「いろいろお話させていただきましたケド、とりわけ印象に残っているのは、育種のお話はご興味を持たれたようでございました。」
(天皇陛下の話題になると、なんだかお互い急に丁寧語のレベルが上がる^ ^;)
オランダで育種されていることをお話ししたところ、"ヤマユリを栽培したりすることもあるのですか"ということも聞かれましたので、"ヤマユリはございません。改良された営利栽培用の品種のみを作っています"と答えました。」
あ、さようでございましたか。
大雪の日は何をされていましたか?しんしんと降り積もる重い雪で気が気でなかったのでは?
「私はソチオリンピックのフィギュアスケート羽生君を応援していたんだ。それがちょうど午前3時頃。優勝が決まって表彰式があっ
たのがちょうど4時ころ。"ヤッター!羽生君、スゲーナー"って喜んでいたんだよ。
それが終わって雪でも降っているようだし、様子見ながらタバコでも買いに行こうかと外に出たんだ。
すると、"んッ?雰囲気が少し違う"って思ってハウスまで歩いたら、暗闇の中でもハウスのぼんやりとした山がないってことがわかってね。
そこからあちこちと連絡撮りあって、被害確認が始まったんだ。
雪が腰の高さまで積もったからね、もちろん車も出せないし、スキーを履いて移動したくらいだよ。」
被害を目の当たりにしたときの衝撃は?
「球根代が払えない!
ハウスの新設費どうしよう!?というのが頭をよぎったね」
球根代の支払いやハウスの新設費を何とか工面しながら、部会長植竹さんをはじめ深谷ゆり部会のみなさまはいま再びスタート地点に立ちました。
深谷のユリは周年出荷。特に4-6月は最高のクオリティです!
ボリューム感、花の大きさ、品種構成、全てにおいてお客様の満足が高くなるタイミングです。
是非、今シーズンの深谷のユリにご期待ください。
生活者のみなさま、生花店のみなさまにおかれましても、JAふかや様を応援のほどよろしくお願い申し上げます。
■JAふかや深谷ゆり部会の格言■
・農業は常に自然との対峙。
日差しを肌で感じて、土を見て灌水のタイミングを図ろう。
ときに予想をはるかに上回る自然災害に襲われるが、常に未来を見て進んでいきたい(by 植竹さん)
天皇・皇后陛下、お越しくださりありがとうございます❤
・球根はオランダからキュッとしまったものを輸入。上根がもしゃもしゃなものを定植し、下根がドレッドヘアのようにもしゃもしゃになるまで育てよ。
・JAふかやのLAユリは周年栽培、安定供給が売り。雪害から復活中で、これからも喜ばれるユリを出荷しますので、是非深谷のユリをご指名ください!
後編のJAふかやチューリップ部会に続きます。
<写真・文責>:ikuko naito@花研
2005年5月 3日
Vol.3.5 富山県高岡市 JA高岡のチューリップ 編
皆様、今期も大田花きからチューリップをたくさん買っていただきましてありがとうございました!今回のウンチク探検隊はチューリップです!
・・・え?旬が終わりじゃないかって??
いやいや?、新たなチューリップ戦はもうスタートしているんですよ。チューリップの今秋デビュー品種決定戦は今がまさに旬!今回はヨシダに代わりまして、当室最年少のヨーコ嬢にリポートしてもらいましたのでどうぞ!
チューリップ生産量・品種数日本一を誇る大森花き
(左から、安藤営業本部長・大森花き渡辺社長・ワタシ・大森花き桜庭さん )
今回の訪問地はチューリップ生産量・品種数日本一を誇る富山県の高岡のチューリップ生産地です。
大森花きの渡辺社長、桜庭(姉)さん、当社の安藤営業本部長にくっついておじゃましました。
富山では県がバックアップしてチューリップの育種を行っていて、まさにチューリップ王国。
まず、富山県農業技術センター野菜花卉試験場(なが?い名前。現地の方も言うのが大変)で最新品種を見学!
現地に着いて感じたことは、空気がおいしい!
さあ!長靴に履き替えて圃場へレッツゴー!
魅力的な品種が勢ぞろい!!
圃場は一重・八重・ユリ咲きなどタイプ別に区切られて栽培。 「今年は寒さの影響で花は咲いたけど、茎が伸びないんです。それと、チューリップは太陽が昇る方向から順順に咲くんですよ。」 と、富山県砺波農業改良普及センターの佐藤さん。 「こんなにきれいな色なんて、市場にいると全然わからないですよ!」 今までに見たことのない個性のあるチューリップを見て感動の連続のワタシ。我を忘れ、写真撮影が止まりません。(この時点で既にデジカメのバッテリーがピーンチ!)なかでも、ド迫力なのが‘ミランダ’。上の写真でもわかるように八重で大きくてこの色。ラナンキュラスやシャクヤクにも負けない色と大きさで誇らしげに咲いていました。
ミランダに負けないくらいインパクトある大輪系の新品種も続々登場予定です。
ワタシが気に入ったのは‘エリアスマーチン’。
「だんだん色が変わるんです!黄色からピンクに。他にも葉が黄色から茶に変わる品種もあるんですよ。ちなみに枯れるわけじゃありませんから!」と、チューリップ博士の佐藤さん。
こちらの2つは、県育成品種です。
「品種改良は種が出来てから花が咲き、数を増やして、一球を決め、そしてまた増やす。
一つの品種が流通できるようになるまで、10年から20年かかるんですよ。」
すごい、並ならぬ努力が必要なんですね。圃場では、実際一本一本茎の長さや花型をチェックしていている試験場の方がおり、つくづく大変な作業だと感銘を受けました。
なかには、これがチューリップ!?と思うものも。
左の写真は超稀少品種‘新拓’みどりのガクが付いていてかっこいい!
まだまだ増殖中だそう。出回るのが楽しみです。
こちらはパーロットキングチューリップはかわいいだけじゃないのよ!といっているかのよう。
燃え上がる炎のように生命力を感じます。
他にも、原種チューリップがたくさん!!
花は、星型でかわいい!
そして葉はタコの足みたい!
「これらはスピーシーズといって原種のチューリップで交配用に使います。一株でたくさん咲くから花壇に最適ですね。」
と佐藤さん。
こちらはまだ名前がない品種。
八重のフリンジ咲きです。
切花デビューの日が楽しみです!
次に場所を移動しまして、砺波チューリップ公園で開催されている‘2005となみチューリップフェア’を訪れました。
チューリップ四季彩館の中には、一年中チューリップが展示されていて、いつでも見ることができるそうです。
限りなき青への憧れ
富山県では、昭和30年頃から青系の品種の作出を目指し、数多くの品種改良がされてきました。左の写真は‘サファイアスター’。チューリップの中では最も青に近い色を持つ
といわれている品種です。
しかも原種だというから驚きです。他にも、青?というか紫のチューリップが数多く展示。
バラと同様、青を表現するのは本当に難しいのですね。
独創的なネーミングと人々
またまた場所を移動して、今度は富山県花卉球根協同組合の圃場を見学。 ここで、ご紹介!左の方が、あの衝撃的な‘夜の帝王’の名付けた生産者の高畑さんです。
「夜の帝王は、クィーンオブナイトの枝変わり品種なんだよ。ボリュームのある花ができたから、女王に勝つのは帝王しかない!って思って名付けたんだ。」
「さっすが!インパクト大ですね。次はどんな名前を!?」
と聞いてみますと、
「次は、羽衣とか天使みたいな和名でいきたいな。」
(これが、高畑さんが次のネーミングを狙ってる品種。)
オランダからの導入品種で、ツボミはピンク、そして咲くと真っ白八重なんです。
二度楽しめるってことですね。
「そう。名前は‘白玉あずき’でもいいっかな?。」 と高畑さん。
「おばんくさいわ?。」となにわ花いちばの高橋さんからきっついツッコミが!(笑)
「‘イチゴミルク’でもいいんでない?」と、めげない高畑さんでした。
最後は清都組合長の圃場へ!
(左から、大表組合部長(英語ペ?ラペラ!)・清都組合長(全然大魔王じゃないって!)・‘夜帝’の高畑さん)
清都組合長は、日本一広いチューリップ生産面積を持つ生産者さんです。
葉を見ただけで、花がわかる!まさにチューリップ大魔王!?(帝王の影響が・・・。)
圃場はほんとにひろ?い!色とりどりのチューリップが咲き乱れていました。
(アイスフォーリス)
ここで、咲いているのは全て球根生産用のチューリップ。花を咲かせて球根を太らせ、すぐ花を切って、6,7月に堀り上げを行い乾燥させて出荷。
そして10,11月に植えるというサイクルを繰り返します。咲いた花は本来であれば捨てるそうですが、各地のイベントがあると摘んだ花を提供するそうです。
一回に提供する本数は20万本と想像がつかないほどの数量。
「すごいお花畑状態になりますね!」
と目の前も頭の中もお花畑になったワタシでした。
JA高岡チューリップ切花生産部会の皆様と市場人
今回訪れた日は最高に天気が良く、太陽のまぶしいい光を浴びて
本当にたくさんのチューリップが元気いっぱいに咲いていて、
お花屋さんに売られているチューリップとは別の顔を見ることが出来ました。
ゴールデンウィーク中、‘2005となみチューリップフェア’ではまさにチューリップが満開とのこと。
ぜひ、富山に足を運んでみてはいかがでしょうか。
また、今回チューリップ生産者さんや、県の指導員の方々とお話ができ、
チューリップに対する気合や愛情が伝わってきました。
本当にありがとうございました。
JA高岡(旧JAといで)の格言
・チューリップ育種にコストは関係なし!
・富山の高岡でしか出来ないナチュラル品質!
お花屋さんへ一言・・・
JA高岡から出荷されているチューリップたち
新品種も続々導入予定です。秋、こうご期待!!