2012年3月12日
vol.91 四国のエピデンドラム 後編 ~尾崎洋蘭園~
高知市と徳島市を結ぶ海岸線沿いの国道“ルート55号”(コント55号ではありません)を駆け抜け、中澤蘭園さんのある南国市から、徳島県海陽市へ。これままた南国市に引き続き、海と太陽をイメージさせる良い場所ですな~(≧∇≦)!!
室戸岬をV字に北上しようとしたときに目の前に現れたのは・・・
くッ、空海さまっ!∑(゜◇゜;)
南の海を見つめる空海さま。彼には何が見えているのか。
そうか、ここは四国88箇所巡礼のルートだった。
この日も多くのお遍路さんを目撃!空海さまは年間数十万人と言われるお遍路さんたちを見守ってくださっているんですね。
このV字をかたどる国道55号上にもレポートしたいポイントはたくさん!しかし、今回はタイトスケジュールなのでいちいち車を降りていると、飛行機に間に合わなくなってしまう危険あり。あしからず今回は早回し!
ここ海陽市でエピデン生産で全国に名をとどろかせるのが尾崎洋蘭園の尾崎進一郎さん、75歳!
お若い!!しかも男前!
「昔は俳優の石浜朗(あきら)に似ているってよく言われたものだよ。
ほら、石浜朗ってテレビに出とったやろ。知っとるやろ?」
ウウゥッ(・o+)!わからぬぁい。。。
徳島到着早々に今回の“四国探検”一番の窮地を迎えました。
ウン探がわかるのは世代的に小林旭(あきら)までなので(すみません)、不本意にも反応が遅れましたが、スマホで調べて・・・写真を見てみると、なるほど似ています!ガッテン!
さて、その尾崎さんは、ぬぁんとフラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2011にて、エピデンのチドリで特別賞を受賞された敏腕生産者さんです。
生産にはどのような秘密が隠されているのでしょうか。いざ潜入です。
これまたなんときれいに黄色く染まったチドリ畑!!
「10,000から13,000鉢くらいあるかな」
花のサイズも大きいですね!
cmにして・・・どれどれ
全長11センチ!
花だけでなく、その葉もなんときれいなこと!!WOW!!
生花でありながら、全て計算されて作られた幾何学模様を見ているかのようです。葉に“締まり”があり、肉厚でしっかりしている点もトップフローリストに愛用されるポイントですね。
過日の世界ラン展(於:東京ドーム)に出展されていたエピデンも、葉をよく見るとこの通り。
ちょっとだらけ気味??「(゚ペ)ありゃ?
鉢物といえども、今年のラン展はいつにない長期戦で疲れたか?
「そう、チドリそういう品種なんだよ。互生(ごせい)の葉がしっかりとしていてキレイでしょ」
葉の開き方には主に、
① 互生(ごせい)
互生はこのエピデンのように先に向かって右と左の葉が交互に付いているもの。(写真はツバキ)
② 対生(たいせい)
対生は、左右対称に葉が開くもの。(写真はナギ)
③ 輪生(りんせい)
輪生は茎の節1か所から3枚以上の葉が付いているもの。
があります。エピデンは右と左の葉が交互に出てくる①互生のタイプなのです。
植物を観察するとき、つい花にばかりに目がいきがちですが、「葉がどのようについているのか」を観察すると、面白い発見があるかもしれません。
エピデンは花もさることながら、その葉も観賞価値が高いのですね。特にこのチドリは優秀君。
いかにチドリが優れた品種で尾崎さんの手塩にかけられカッコ良く育っているかよくわかります。
犬が飼い主に似ると言われるように、花も作り手さんに似てくるのかな~?
1鉢から何本くらい花芽が上がってくるものなのですか?
「まあ4本から6本くらいだけど、立ち本数が多くなると1本が細くなるんだ。
1鉢の中で栄養を取り合うからね。たくさん花芽が立つのはいいけど、結局は栄養不足でひょろひょろしちゃうから、立ち数が多ければいいというものじゃない。
それにたくさん本数が採れれば、その分次の年には株が休むからね。結局芽が出るのが遅くなるでしょ。そういうときは温度も上げなくちゃいけないし、肥料管理も変わってくる。だから全体のバランスを考えて、今年切る本数を決めるんだ」
例えばこの鉢を見てみると、断面の白い茎が今年切ったもの、茶色くなっているのが昨年切ったものです。
そして同じ鉢の中に、早くも新芽がお目見えしているものもあります。
それにしてもこれで1株ですから、立派な株です。
通常の温度管理はどのくらいですか。
「16-17度くらいが適温なのかな。そのくらいが最も花保ちが良くなるんだ。最低は8度」
前編の中澤さんはシンビジウムを山上げして、春先から出荷するエピデンは山上げしないとおっしゃっていましたが、尾崎さんは山上げをされるのですか?
「するよ」
中澤さんの場合は、生産品目の中でもシンビ8割、エピデン2割でした。シンビをメインで生産し、シンビの出荷が終わる春先からエピデンを出荷するという全体構成の中で、開花コントロールのためにあえてエピデンを山上げしていませんでした。
しかし、エピデンが主力品目の尾崎さんは、1年の中でもできるだけ長い期間エピデンを出荷する必要があります。
そのためには山上げをするものとしないものに分けているのが石浜朗さん、いえいえ、尾崎進一郎さんの計画です。
山上げをすれば早いものは11月から出荷できます。もし山上げを行わなければ、このように年内に咲かせることは難しくなってくるでしょう。
「エピデンにとっては地上では暑すぎるんだ」
暑い中にいるとエピデンはどうなるのですか?(゚ー゚*?)?
「そりゃもう死にかけやな。生きとるだけ。
シンビもそうやけどエピデンも葉だけダラダラと栄養生長するんだ。そりゃだらしなくね。花芽は付けん」
ご説明いたしましょう。
植物の生長には栄養生長と生殖生長があります。
栄養生長(vegetative growth)とは葉や茎などの栄養をつくる器官が生長することです。
一方、生殖生長(reproductive growth)とは花を咲かせ、結実し、種子を残すための生長のことを指します。
尾崎さんのおっしゃる「葉だけダラダラとだらしなく伸びて、花芽を付けない」というのは、暑いと栄養生長だけが促進されて、花を咲かせるための生殖生長をしないというわけです、ハイ。
「でも山上げすれば生殖生長して開花するから出荷に繋げられる。うちのものでも山上げするものとしないものとに分ければ、11月から7月くらいまで出荷することができるんだ」
山上げはお一人では大変な作業なのでは?
「その時は臨時で雇うけどね。
でも“山上げ”はまだいいよ。“山下げ”の方が大変なんだ」
富士山に登頂に挑んだときも、下山の方が思った以上に大変だったのですが、つまりそういうことですか?膝がガクガク・・・(;´Д`A ```
「下げるときは花が付いているから大変なんだよ。葉も傷つくしね」
なるほど、それは100倍気も遣いますし、作業も丁寧に行わなければなりませんね。
山上げと山下げのときは、何千鉢というエピデンを一つ一つこのトレーに載せて、さらにトラックに載せて1トレーずつ載せたり降ろしたりするわけですから、それはそれは気の遠くなるような作業です。
例えば、施設にある中の半分を山上げするとして、6,000鉢。
このトレーは5鉢入りだから、6,000鉢÷5入り=1,200トレー
この1,200トレー分をトラックに載せて、山に上がって、降ろしての繰り返し!
きょえーーーッ!!(+_+) フニクリフニクラ、アタマクラクラ、貧血オコシソo(@.@)o
それにしてもこのチドリは背が高いですね。
「このチドリっていう品種はとても丈が伸びるんだ。大きくなりたい品種なんだよ」
向上心があるんですね!
「そう、向上心があるの。片親の原種がそうだったから。
でも例えばこういうのは切り花としてあまり良くない。伸び過ぎ」
どれどれ・・・ウン探の短すぎる指を使って図ってみると・・・
なるほど、2.5節分くらいですね。
しかし、節間の詰まった良いものは、指を開ききらなくても3節分リーチできます。
良く見ると葉と葉の間隔も違いますし、比べてみると左の方が良く締まっていてカッコいいですね。
皆さんがエピデンを選ぶときは、この節間の詰まり方が一つの基準になりますので、よく観察してみてくださいね!
この大輪で発色が良く、切り花に十分な丈も採れて、花保ちも良く、丈夫な優秀君チドリは、尾崎さんのオリジナル品種です。
病気とかにも強いのですか?
「そうね、割と強いね」
万が一病気が出たらどうするのですか?
「早く見つけてほうる!これしかない!」
尾崎さんの生産は明快ですね。
エピデンのどのようなところが好きですか?
「まっすぐに立つところね。支柱がなくてもまっすぐに立つ。
それからもう一つは、新芽が出たら100%花が咲くところかな。
“花芽が出たら”じゃなくて、“新芽が出たら”だよ。芽=花なんだ。分かりやすいでしょ」
確かに、そのような植物はちょっとほかに浮かびません。
「エピデンは正直なんだよ。手を抜いたら抜いただけの結果だよ」
ではエピデンは尾崎さんにとって何ですか?
「ナニって言われても、なんでもええよぉ。
そんなこと考えながら作ってないしな。自由に書いといてぇ~」
えーーーー∑(゜◇゜;) !!ナンテ率直!
そんなお答え、初めてです・・・・ドキッ
本当になんでも自由に書いちゃっていいんですかぁ?
“一生離れられねぇ恋人だぁは~ん❤”とか勝手に書いちゃいますよφ( ̄ー ̄*)ムフフ!!
「まあ、一生懸命愛情を注ぐ対象かな。私も凝るほうやから。
人生の中で凝ったものの一つやな。
以前は犬に凝ったことがあってセントバーナードを連れて大井競馬場の品評会に行ったこともあるよ」
大井競馬場って大田市場からすぐそこじゃないですか!
そんなに遠路はるばる大きなセントバーナードを連れて・・・すごくハマっていらしたのですね。
尾崎さなんが凝った犬やエピデンに共通することってなんですか?
「素直で正直や」
そうですね、チドリなんて加えて向上心もありますしね( ^―゜)b
「植物は正直で手をかけただけ応えてくれる。手を抜いたら抜いただけの結果や」
エピデンは「鏡」のような存在でもあるのかもしれません。
尾崎さんがいかに手をかけたかを正直に映し出してくれるわけですから。
取材中、太陽が高くなり尾崎さんが遮光をしようと施設の巻き上げ機をグルグルと回していきます。
「うぅッ。あれ?なんかおかしい。引っかかっているかな・・・」
うまく遮光シートが広がらないご様子。
困りました。どうやってお手伝いしましょう!?
マズイッ!!花の命がかかっている!このままでは強すぎる日差しで花が焼けてしまう!
消防車を呼んだらまずいだろうし、救急車か??レスキュー隊の誰か若い人が手伝ってくるかも!?
こういうときはどうすればいいんだっけ。
・・・と一人悩むウン探。
そんなウン探の心配をよそに、気付いたら尾崎さんはひょいッと屋根に上って、引っかかっているポイントを見に行ッてしまいました。アレッ!?サスガ!!
この身軽さ!とても75歳とは思えない!∑(゜◇゜;)
梯子、途中で終わっているのに、ひょいっと上ってしまいました。→
「上から見ると一面のエピデン畑がキレイだよ~!」
なぬッ??
アンテナピーンッ!
ウズウズ・・・ウズウズ・・・
なんだか上りたくなってしまった。
“探検隊”の名において、生産地の美しい花の光景を読者の皆様にお伝えする責務があります!
「あのぉ~尾崎さん、アタクシも上らせていただいてもよろしいでしょうか・・・」
ドキドキ、ドキドキ((o(б_б;)o))ドキドキ
「いいよ」
あ、意外とアッサリC=(^◇^ ;
「ありがとうございます!」
喜々として梯子を登り始め、施設の上に立つウン探。
コント55号を辛うじて知る世代とはいえ、このくらいまでならなんとかOK。
上から見ると、写真では少しく施設内が曇って見えますが、施設の三連棟一面にチドリが広がり本当にキレイです。
写真ではお伝えしきれないのがなんとも心苦しい限りです。
ふと顔を上げれば、心配そうにこちらを見る尾崎さん。
ダイジョブ、ダイジョブ!パチッ☆-(^ー'*)bオッケー
転ばないように気を付けて歩きますからぁ~!
って、違うか。尾崎さんが心配しているのはアタシじゃなく施設の方か。
アタシの体重で施設が壊れるじゃないかって?。。。ナルホド!←やっと正しく理解できました。
どうもすみません。速やかに降りましたm(_ _)m
そもそもは尾崎さんもシンビジウムの鉢物を生産していたました。
それが10年くらい前から鉢を減らして、徐々に切り花に転換していったといいます。
現在尾崎さんが切り花として作っていらっしゃるのは、チドリとオオデマリの2品種。
「オオデマリは晩生(おくて)、チドリは早生(わせ)品種なんだよ」
↓オオデマリ。輪はこれからまだまだ大きくなります!
ご説明いたしましょう。
“早生・中生(なかて)・晩生”という言葉を聞いたことがあると思います。
生育期間が短く、定植から早く収穫期を迎えられるものが「早生」
遅いものが「晩生」
その間が「中生」となります。
中でもとりわけ早いものを極早生、遅いものを極晩生といいます。
これは品種特性といっていいでしょう。
これらの成熟の早晩性は主に遺伝によって決められています。
これらの特徴を品種別に把握した上で一部山上げしたり、地上に残しておいたりと調整しながら、本来1年に1度しか開花しない花を1年の中で少しでも長い間、途切れずに市場出荷できるようコントロールしているのです。
これは知恵と腕ですな!
チドリは尾崎さんのオリジナル品種で、名前を付けようと思ったときにアルバイトの女性が“チドリがいい!”とおっしゃったので、そのままチドリになったということでした。
「チドリは白い鳥なのに、なんで黄色いエピデンにチドリなのかわからない」
と尾崎さんはおっしゃっていますが、それでも“チドリ”という名を受け入れるところが心の広さを物語っていますね。
尾崎さんを支えるアルバイトの皆さんと(取材当日は1人お休み)
バイトさん「写真、いやー」
尾崎さん「ええやん、すぐ終わるで」
という和気あいあいとした会話が聞こえてきそうですね!
★尾崎洋蘭園の格言
・ 植物は正直者。難しいこと考えずに、無心でエピデンに愛情を注ぐべし!
彼らは必ず応えてくれる
・ エピデンの品種ごとに早生、晩生、中生の性質を把握し、
山上げシステムと組み合わせ、できるだけ長い間市場出荷するべし!
<尾崎さんのエピデン流通期>
※①出荷期はその年の気象条件にも大きく影響されますので、変更になることがあります。
②通常11月は下旬より出荷スタート。
6月、7月くらいまで切れないことはないのですが、クオリティ優先のため、OTAへの出荷は5月終了を目途としています。
それでも尾崎洋蘭園さんのエピデンはこんなに長い間出荷されていますので、是非ご利用くださいませ!
・チドリの丸い黄色は海陽町の太陽なのだー!
エピデンのチドリを見かけたら、尾崎さんの愛情と海陽町の海&太陽をイメージすべし!(写真はイメージ)
「海の男」的な潔さと懐の深さを感じるさせる尾崎洋一郎さんでした。