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2016年8月15日

世界基準で仕事をする

 8月14日(日)の日本農業新聞の一面に、奈良県農研センターの実験の記事が掲載されていた。菊の挿し芽を46度の湯に3分間漬けて殺菌し圃場に植え付けを行ったところ、植え付け1ヶ月後の白さび病発生率が1割以下に抑えられたという。昨年の11月に実施され、植え付け21日後、34日後の無処理のモノと比べた結果だ。11月だから、20度位が白さび病の適温だと聞くから、この研究結果は大変素晴らしいものである。

 卸売市場では、商品にサビやボトがあると単価が極端に下がる。しかし、日本のよさは花の卸売市場が沢山あることで、サビの程度のよって、仏様の花は白さび病のある菊でも良いという人もいるが、いけばなの伝統のある日本では、花はもちろん、葉も良くないと商品価値が下がってしまう。葉っぱの品質が上がるということは、生産者の手取りを増やすことに繋がる。日本では、生産地からそんなに遠くない場所(国内)で、菊を好きな生活者が沢山いる。しかし、海外の産地であるオランダやマレーシア、ベトナム、南アフリカやコロンビア等では、輸出出来ないと花を作っても収入が殆ど無くなる。もう20年以上前のことだが、オランダのウェストランド地域で菊の生産が盛んになり始めた頃、視察した農場の担当者へ「さびが出始まったらどうするのか」と聞いたところ、「輸出出来ないので、出荷前にハウス一面、全て焼却します」という答えが返ってきた。その時、小生が温室で見たのは、ほんの少しのサビで、日本ではちょうど夏だったが、国産のサビのついた菊が市場へ出荷されていることに比べたら、今見ている温室の中の菊を全て捨てるというのは、なんと徹底した仕事をするのだろうと驚いた。彼らの仕事に対する取組みに頭が下がる思いであったし、日本の生産者は、例え菊にサビがあってもお金に代わるという有り難さを強く感じた次第である。この経験の他にも、コロンビアが日本にカーネーションを輸出し始めた時や、マレーシアからSP菊の出荷が始まった時等、それぞれ現地の農場を視察すると、オランダと同様、彼らの品質に対する覚悟の際立った強さを感じたものだ。

 日本も、生鮮食料品花きを輸出しようとしている。その為には、海外の世界標準になっているその国の植物検疫に受かり、その国の生活者に受け入れられる花持ちと規格を提示し続けなければならない。輸出というと、世界一の品質の日本の花とか、新しい花の色や品種に目をとらわれがちだが、決してそれだけではない。14日(日)の日本経済新聞に掲載されているが、農業分野では、知的財産の保護が甘く、アジア地域では日本の模倣品が横行している。日本が苦労して作った品種がこっそり作られていて、同じ名前であったり、名前だけ変えて販売されていたり、パテント料を払わず育成されている花きや青果が多くあるのだ。TPP締結国に義務付けられている、植物の新品種を保護するユポフ条約だけでなく、産地名ブランドによる特産化を謳い、名前を使用させないのも大切な方法だろう。

 日本の農業者、或いは、農業関係者は、国内だけに目を向けてやってきたので、世界の荒波に揉まれても十二分にやっていけるだけの施策を打たなければならない。そして、農業や農産物流通等、あらゆることに対しルール化している世界標準を最低限の基準とし、環境に優しい、社会の健康をクリエイトする生鮮食料品花き業界を目指して行かなければならない。

 今、最も気が重いことは、神棚に中国産の作り榊が多く供えられていることである。少なくとも小売店で、国産・中国産と選べるよう表示してもらう努力を、我々、花き卸売市場はやっていくべきだ。まず、輸出・種苗まで含めた世界標準に配慮が行き届き、「守り守らせる」業界へ。そして、日本の生活者に世界標準の姿をお知らせする。これを、これから急ぎやっていかなければならないと思っている。

投稿者 磯村信夫 : 15:43

2016年8月 8日

人手不足で需要が満たせない8月

 リオオリンピックが始まっている。表彰式を見ていると、ビクトリーブーケではなく、記念品がメダルと共にプレゼントされていた。何か物足りない感じがする。東京・お台場のヴィーナスフォートでは、今月6日(土)、7日(日)で、東京オリンピックのビクトリーブーケを「こんなブーケはいかがでしょうか」と提案する、『ビクトリーブーケコンテスト』が開催された。主催は東京都花き振興協議会で、今年で3回目になる。シンプルだが、そのレベルの高さは思わず人を唸らせるものばかりだった。さらに、東京都花き振興協議会では、どんな苗物だったら暑い屋外でも元気に咲いて、お客様をおもてなしすることが出来るか、最寄り駅の東京テレポートで植栽トライアルの花庭も設置し、遊びに来ているお客さんたちの目を楽しませていた。

 人口動態を考えると、東京オリンピック後、花き業界だけでなく、日本全土にわたる発展の礎を、この4年間で確固たるものにしたい。2021年以降も、前向きで平和に、心豊かに生活をしたい。それが出来る日本の産業や家庭生活の仕組みづくりを、今やっておきたいのだ。東京の花き業界は、おかげさまでビクトリーブーケやお盆、敬老の日、さらに、フラワービズ、ウィークエンドフラワー等、花のある生活の素晴らしさをアピールする活動を迷わず行っている。しかし、地方において、また、他の産業において、具体的に何を今やっておかなければならないか分からずにいたり、分かっていても、"ゆでガエル現象"で、同じことの繰り返しの日々を送ってしまっているところもある。ここをどうにかしたいと思う。

 今年の8月盆は鬼灯が凶作だったり、切花リンドウが前進開花してしまったものの、他のお盆用の花は天候にも恵まれ、また、生産技術により欲しい時に欲しい数量が見通し通りに生産されている。問題は、人口動態による花き業界人の人手不足である。実際、物流上で混乱してしまい、納期に荷が揃わないのだ。もう3年前とは違うのである。生産から輸送、卸売市場、花束加工、小売りの各分野で、赤字を無くすことが第一だったので、人をカットして、人材的に余裕のあるところは殆どない。その間、ここ3年で切花も鉢物も、スーパーやホームセンターが花売り場の主力となってきた。例えばスーパーなら、物日には通常の12倍以上売れるので、売り場面積を広くする。しかも、売っているのは置き花だから、お客さん一人一人を接客する必要はなく、レジで精算して終了だ。スーパーの人は花き業界人ではないが、花束加工までは花き業界人だ。花束加工業者は、物日には通常の12倍のオーダーを抱えるので、人を集めようにも、なかなか満足するほど集まらない。それは卸も仲卸も、輸送業者や荷受センターも同様だ。

 大田花きに入ってくる荷物を見ていると、パレット輸送・台車運送ではなく、一つ一つ直積みしているトラックが多いことに驚く。物日は入荷が何倍にもなっているのに、人手が増えていないから、一個ずつ積んでいれば当然、遅れるに決まっている。人手が足りず、作業スペース(トラックの車両スペース)が足りない。時間がかかって遅れてしまうので、結局消費者が欲しいときに荷物を間に合わせることが出来ないことになる。出来たとしても、業界人は徹夜作業でコストも上がりフラフラだ。

 去年は天候の具合で前進開花したから、肝心の時には花が足りないだけだった。花が足りないから値段は高くなったが、荷が少なかったので物流上は問題なかった。しかし、今年は、需要に合わせて荷が出てきたので、手が足りないから、結局、遅れ遅れでみんなへとへとになって、それでも需要を満たすことが出来ない。こんなことは最初から想定されていることだ。労力が増えないのだから、頭を使って合理的に考える以外方法がない。それは、パレット輸送や一日で処理できる量が限られているわけだから、定温にして毎日物流させる。これを来年からやることだ。花はそれに見合った物量を納品する。鮮度が必要だから、間際にというのが理想だが、量販店では通常の12倍売れるわけだから、適切な品出しの為には、どういう段取りで仏花を納品するか、もう一度、きちんと考えなければならない。

 今年、花き業界は物流上の課題を頂いた。将来に向けての改革をせよ、という天の声なのであろう。まず、物流の合理化を急がなければ、需要を満たすことが出来ず、花の需要は他のモノにとってかわられてしまう。そんな恥ずかしいことは出来ない。必ず物流改善を行って、業界全体が良くなるようにしたい。

投稿者 磯村信夫 : 15:38

2016年8月 1日

花き業界のカギは小売業。花き卸と仲卸はリテールサポートせよ!

 花の消費が活発化する為には、小売店の頑張りが欠かせない。小売店には、新しい花との生活を提案する専門店、買い物コストの削減の量販店。そして、玄関や出窓、庭等の、人の生活空間に似合う花を販売するホームセンター、花の買い物時間を削減するインターネット販売やカタログ販売の、以上四つが生活者にとって必要である。

 専門店が新しい需要を創り出し、人々に広くその花が「素敵ね」と認知されるようになると、生産量が増えるので、量販店が取り扱うようになる。従って、フランスやドイツのように、専門店が仕事花も含み、全体の半分の花を販売し、その中でも、チェーン店が全体の三割を販売、活躍するということが起こっている。チェーン店がフランスやドイツでここまで取扱シェアを伸ばしてきたのは、パパママストアの個人経営の店より、やる気が高いことに起因する。社内でも研修を行い、社外の勉強会にも赴く。また、他業界の良い所も取り入れる。店舗の社員が有給休暇を取得しても店が廻るようにする。顧客カードを作り、お客様の好みを良く知る。こういったことを、個人経営のお店よりもしっかり行ってきているからだ。繁盛の秘訣は、何てことはない。当たり前のことだが、時代と伴に生きてゆく、お客様と伴に生きてゆくことだ。一部の優良店を除いて、専門店ではチェーン店よりも努力が足らなかったのだろう。何か残念だ。
 
 今、大田市場花き部でも、団塊世代の専門店がリタイアの話をしている。それならば、例えば、人を雇って店員さんに店舗をやって貰ってはどうだろうか。行きつけの小料理屋さんがあるように、行きつけの花屋さんがあるということは、地域の住民にとっては有り難いことだ。

 小売店の数は、これから減っていく。これは人口動態上、やむを得ないだろう。そして、若い経営者や頑張っている花店が、行場を失ったお客さんを吸収する。それは商店街のお花屋さんであったり、駅周辺やショッピングセンターに出店したチェーン店であったりする。今、ちょうどこういった、チェーン店が活躍する現象が日本でも起きている。フランス・ドイツでは勝負がついた。日本では、この方向に向かっていることが分かっていない小売業界の人たちが多い。花屋さんの力が、花き業界に大きく影響する。花屋さんたちは、自分が頑張らないと花き業界が萎んでしまうという事実を知らない。花き業界の発展は、小売店の肩にかかっているということを自覚してもらいたい。だから、卸・仲卸についても、まず小売店のリテールサポート、次いで、産地サポート。これらの重要性を再認識し、実行して欲しい。

投稿者 磯村信夫 : 15:49

2016年6月27日

セリ前取引での価格設定

 日本農業新聞では、花の市況欄とは別に、札幌花卉園芸・仙台生花・大田花き・名港フラワーブリッジ・なにわ花いちば・広島花満・福岡花市場の計7社の取引の生データが掲載されている。市況欄は、各社によって高値と中値の取り方が違う為、どこの卸売会社が売れているかどうか、一概には比較できない。しかし、7社の生データは、プロの花き業者であればおおよその推測がつく。このように、大変貴重なデータを日本農業新聞は我々に提供してくれている。そして、我々が知りたいのは、もっと踏み込んだセリ前・セリ取引の数量単価と、その取引価格が買い手ごとにどう違っているのか。また、セリ取引の実態はどのようになっているのか、セリが活きているか、残品処分になっている市場なのか、ということだ。どこの卸売会社も、その市場を利用し運営する全ての人は、真実の相場はセリ値であると思っている。一体全体、セリ前で買った買参人は得をしたのか、損をしたのか。また、産地はセリ前で売ってもらった方が良いのか、それとも、セリ取引で売ってもらった方が良いのか。そこを知りたいわけである。

 前回、青果物卸売会社の取引の現状から、花の卸では、もう一歩踏み込んで、サプライチェーン全体を考えた取引を3割程度すべきだと提案した。本日は、今起きている価値の混乱を避けるセリ前・セリ取引のあるべき姿を提案したい。まず、青果卸売市場流通の実態として、産地は委託出荷の商品も、希望価格を伝えて卸が販売するのが通例となっている。卸売会社は希望価格で売れない時、残品相対処理・事故処理等をして、産地に希望価格で仕切りを返すことが多いと聞く。一方、花の場合は嗜好性が強い為、品目のバラエティに富み、品種も多い。担当品目の部署でないと、新品種まではとても覚えきれないので、大手の卸売会社はその品種の輪の大きさ、色、香り等、索引に近いものをデータとしてPC上に公表している。こういった特性があるので、産地の御担当者は、指値委託しようにも全ての知識をカバーすることは難しく、時間的な余裕も無い。よって、花き卸売会社に出荷する場合には全面委託となることが多いのだ。

 昨年から花き卸売市場業界で問題視されているのが、買参人数の減少、特に、花屋さんの廃業である。量販店が生活者の花のお買い場の中心になってきていることや、高齢化等で、花屋さんを辞める人たちが目につく。辞めないまでも、出来るだけ経費をかけないように、ロスを出さないようにと細かいロットで仕入れをしたり、家族だけで出来るように、時間のかかるセリを利用せず、仲卸や、場合によってはセリ前取引を利用する小売店が多くなってきた。このままだと卸売市場はセリ参加人数が少なくなり、安値になってしまうのだ。そうすると、花き市場でのセリ前取引に拍車がかかる。しかも、青果なら指値委託があるが、花は全面委託だ。社長である小生の耳にも、セリ前価格の値段が入ってくることがあるが、「あの市場があんな価格でセリ前に売っている」等、他社より早く売ろうと、用意ドンで安売り競争をしているかのような時がある。5月の20日、6月の10日・20日、10月の10日・20日、11月の10日、以上の6回が、花が安くなってしまう時だ。この因果律ははっきりしているが、ここでは紙面の関係で割愛させて頂く。この安い時に、花き卸売会社では、産地から全面委託されているので、品物の価値を無視してセリ前に安売り競争になる可能性があるのだ。

 青果の相場、花の相場はどこで決まっているのか。それは、青果と花きで東洋一と言われている大田市場の、東京青果と大田花きのセリで日本の台の相場が決まるのだ。セリとセリ前取引の比率は、両社とも他の青果花き卸売会社と同じだが、セリにかける時間と数量、金額は圧倒的に多い。証券取引では、今は基本的に東京証券取引所の1つが日本の指標だが、青果・花きの国内相場においては、プロの間では、大果大阪青果となにわ花いちば、東京青果と大田花きのセリが日本の指標となる。他の青果・花き市場は、ここの建値と、日本農業新聞に掲載されている全国各地の7つの拠点市場、そして、自社のセリ値、これを絶えず勘案しながら、セリ前取引を進めていくことが必要となる。そのうち、花き卸売会社も、指値委託中心の荷物を扱っても、赤字にならないで済む体制を整えていく必要があるだろう。

投稿者 磯村信夫 : 17:47

2016年6月20日

特定サプライチェーン三割

 昨日の父の日では、黄バラやヒマワリ等、花き業界が"お父さんの花"とPRしている花が、期待通りの売れ具合であった。日本は母系社会だから、母の日みたいに飛ぶように売れた訳ではない。しかし、専門店やスーパーでも、父の日の花として用意したものがよく売れた。父の日の花は確実に前進しているように思う。

 本日は"契約取引"について話をしたい。青果市場では、荷不足から卸売市場が値段を決めて注文するが、結局、大手買参人や仲卸に無理を言ったり、最終的に残ってしまったり、残品相対や値段を下げての販売、そして事故処理をすることがあると聞く。農協合併で産地も大きくなり、小売店も、野菜・果物の専門店が少なくなり、スーパー主体の売場になった。しかも、スーパーも寡占化が進む中にあって、仕入れも販売も大手の間に小さな卸売市場がある。こういった状況が、現在の青果市場の取引状態を生み出していると想像出来る。

 薬卸や食品卸は合併を繰り返し、仕入れ先・販売先に負けない規模となって、価格競争だけではない能力を身につけて卸業を営んでいる。しかし、生鮮食料品花き流通の太宗を担う卸売市場は、最大手といっても、買い手の小売会社の規模からするといかにも零細だ。また、公共性を重んじる為、差別的取り扱いの禁止を実行しており、日頃は市場外流通をしている産地も、捌けきれなくなると卸売市場に出荷出来るし、同じく市場外流通している買い手も、足りなくなると市場に買い出しに来たりする。従って、卸売市場は相場の乱高下の振れ幅が出きてしまう傾向がある。卸や仲卸は極力、安定価格で仕入、販売をしようとしているのに、買い手より事業規模が小さい卸売市場は、入荷数量や相場に振り回されて、利益を確保出来ない状況になってきているのだ。このような中で、第10次卸売市場整備計画では、卸売市場に対し、多面的な機能が必要であると指導をしている。花き卸売市場の場合、まだ青果取引のようには業界全体はなっていない。しかし、生産減でその方向に進んでいる所もちらほら出てきている。

 では、どうすれば良いか。産地の生産部会、卸・仲卸会社、販売する小売店が一気通貫でチームを組むことだ。無理のない範囲で、即ち、産地の販売量からすると、普段の市場流通の三割ほどの量を別枠で取り扱うのを基本形とするのが良い。三割以上は、「作るに天候、売るに天候」で天候に左右される為難しいのではないか。これなら、ある意味で特定関係のサプライチェーンとなるが、卸売市場を利用する多数の産地や買い手に変に悪影響を及ぼさないで済む。こういった取引を、嗜好性の高い花きで実現をする。そうすれば、「あの市場はあの産地、あの小売店と」と、サプライチェーン同士の競争になる。競争の在り方は、地域ではなく、言葉は悪いが、サプライチェーン系列下の競争、または、サプライチェーンの取組みの競争となってくる。このやり方は、「何でもいらっしゃい」という、平等だがややもすると責任が雲散霧消してしまい、それぞれが利己的になっていく弊害がある生鮮食料品花き流通業界において、新しい活性化の方向にいくのではないかと小生は期待している。日本中の花き市場が、そちらの方向に進んでいくことを祈っている。

投稿者 磯村信夫 : 15:51

2016年6月13日

昨日の続きが今日ではない場合がある

 先週の8日(水)、一般社団法人 日本花き卸売市場協会(以下、「市場協会」という)の定時総会が九州で行われた。行きの飛行機の中、小生はこんなことを考えていた。世界には70億を超える人口があるが、その人口の半数以上が都市部に集中している。人口が増え都市化が進むと共に、それまでのその国の伝統的な社会や家庭が壊れてきた。そこに、更にインターネットと携帯電話が入り込み、「アラブの春」や「イスラム国(IS)」ではないが、今までと違った社会運動や生き方が展開されてきている。リアルな社会を運営しょうとする為政者や官僚、実業界は、漠然と「ネット社会」と呼んでいるこの実態を見極めることは難しい。しかし、ここと敵対しては、国や秩序、事業が成り立たない。こう実感するようになった。

 花の消費で言えば、携帯電話で何でも済ませてしまう20代・30代の人達が、日本とドイツであまり花を買わない。これをどうすれば良いのかが、先進国花き産業の課題となっている。結論を言えば、SNSを使って花のある生活を「イイね」と言ってもらうことだ。生活空間の味付けとして、花や緑を手軽に楽しめるレシピを作って利用してもらう。科学的な、とりわけ、大脳生理学的に植物が及ぼす影響をエビデンスとしてお知らせする。また、空気中の有害物質を浄化する等の、医学的な、あるいは、CO2問題解決のような倫理性に訴える消費を促す。こういった事が必要だ。

 では、具体的に現在の花き業界で困っている、歴史的に※シンギュラーポイントが突き抜けた状況になっているものは何かというと、葬儀や法事、先祖に対するお参り等の宗教的慣習が、今後さらに少なくなっていくということだ。これを何故、8日の市場協会の総会へ向かう途中に考えていたかと言うと、九州の地で1637年、16歳の天草四朗がリーダーとなって起こした「島原の乱」を思い出したからだ。天草四朗は、国に徹底的に抵抗した。キリシタン農民のあまりの強さに徳川幕府は恐れおのき、その後に宗門改役を設置した。また、寺院に檀家制度を布き、冠婚葬祭の行事は全て檀家制度に基づいて寺院が行うこととした。それ以来、儀式の慣習が日本で続いてきたが、2015年を境に、団塊世代で喪主となる方が少なくなり、それより若い世代が喪主となることが多くなった。また、お亡くなりになる方が「自分の葬式はこうしてくれ」と規模を小さくしたり、伝統的な社会や家庭の崩壊が理由で、お通夜と葬式をワンセットに、葬儀1日の儀式で済ませるところも増えてきている。これにより、今まで冠婚葬祭を中心とした小売店でも、ギフトや店頭販売等、他の需要を求めて出て行かなければならないということになっている。

 物事にはシンギュラーポイントがあり、いつもここを見ておくことが欠かせない。これだけ世界の人口が増えて、インターネットで繋がっていることを考えると、人類初めての経験であるから「歴史は繰り返す」などとのんびりしたことばかりは言っていられない。歴史に学ぶが、それをいったん忘れてゼロベースで現実を見据え、その中から文脈を探ることが花き業界でも必要になっている。仮に、一割の出荷・消費量が少なくなっても、一割余分に花もちすれば、消費者にとって観賞コストは安いし、花に対する愛情は湧く。自己都合ではなく、どのように地球の生きとし生ける人々が地球と共生出来るか。その視点で、効率的な花き業界を見つめ直していきたい。福岡の市場協会 定時総会でお会いした熊本の花市場の社長さん方は、地震にもめげず、一日も休まず開市し続けた。生産者の為、そして、小売店・消費者の為に花市場を開き、社会的な役割を果たしたのは市場協会として誇りである。今後とも、その心意気に花市場業界は学んでいきたいと思っている。

※シンギュラーポイント:水であれば沸騰点や氷結点のことをいう。徐々に 徐々に加熱され、100度に達した時点で水は煮えたぎり、水蒸気となる。シンギュラー・ ポイントを過ぎた時点で、誰の目にも明らかになるが、こうなってしまうと、火を消し ても、水を注ぎ足しても暫くは手の付けられない状態が続く。

投稿者 磯村信夫 : 15:46

2016年6月 6日

卸売市場の第一の仕事はリテールサポート

 農林水産省の統計によると、平成27年の切花・鉢物出荷量は前年に比べ2%減少している。しかし、これは国産の花のことであり、円安で輸入切花の出荷量が減っていることを鑑みると、実際の流通量はこの2%より更に減っている。菊・バラ・カーネーションとも、国産のあと輸入品を売るのが日本の花市場の通例なので、輸入業者は高く買ったのに安く売られてはたまらないと、市場外流通を開拓し、卸売市場への流通量が減った。そして、市場に通う仲卸や花屋さんは「毎年5%以上、少なくなっているのではないか」という感じを持っている。また、卸売市場は、入荷も確かに減っているが、一週間あたりの延べ買参人数の減少を問題視しなければならない。廃業するお花屋さんが出たり、営業を続けていても月・金しか仕入れに来なかったり、「メインの市場の荷が少ないから品揃えが出来ない」と仕入れ先を増やして、市場に行く回数が減ったり等、買参人数の減少が経営上の問題となっている。これでは縮小均衡だ。花き振興法を作って頂き、予算を付けて頂いたのにも拘らず、これでは本当に申し訳ない。日々の業務を通じて、もっとどうにかしたい。

 卸売市場は、地元の生活者に花を供給する為に存在している。中央卸売市場、公設市場、第三セクター等は土地や施設を用意してもらい、卸・仲卸は家賃を払って営業する。一方、地方卸売市場は自分で土地を用意し開設しているが、産地に対する奨励金等は税法上、営業経費で計上することが出来る。このように、様々な便宜を図って貰っている。いずれも、「地元の生活者に花で幸せに感じてもらうことを仕事とせよ」と国や地方自治体から役割を仰せつかっているからだ。だからこそ、卸売市場は地元の小売・花売り場でもっと花が売れるように、仕入代理業に徹するべきである。

 花き卸売市場の役割も、リテールサポートの分野から様々なことが必要となってくる。例えば、先月、日本でも設立されたフラワーウォッチジャパン社の仕事だ。世界基準に合わせたMPSの安全・安心の花作り、流通に対する指導、また、生産者に対しては、何時にどのような開花ステージで採花すべきか、前処理をどのように行っていけば良いか等の指導とチェック。更に、輸送途中の鮮度保持においては、日本では小生が確認出来た限り、JA北空知広域連殿しか適応していない「温度×時間」という科学的な事実に基づく鮮度保持物流方法の確立。また、加工業者や小売店の後処理と水質等の適切な作業環境と販売環境。こういった管理が、日本の花き産業の中では、当然に中間物流業者の仕事にあろう。小売店や産地がフラワーウォッチジャパン社にお願いするのか、或いは、それと同等の機能を卸・仲卸が持つのか。それぞれ、経営方針によって分かれるだろう。しかし、現在、日本の花き消費・生産を拡大する為には、毎日の花き生産流通小売の仕事として、ここに挙げたフラワーウォッチ社のような指導やチェックが欠かせないのである。

 切花・鉢物とも、購入した人が「損をしたな」と感じさせないようにしなければならない。本当は出来るのに、残念ながら今は失望させかねない状況が、花き業界に少なからずあると小生は思っている。まず、バケツの水を綺麗にすること。これはすぐにでも出来るはずだ。一刻も早く、花き業界全体で、花もちを重要視したサプライチェーンとはどんなものか、良く知ることがまず必要だと思う次第である。知ったら実行だ。

投稿者 磯村信夫 : 15:31

2016年5月30日

問題解決はFlower Biz、Flower Friday・Weekend Flowerだ

 5月25日(水)、全国花き振興協議会(以下、「全花協」という。) 第28回通常総会が、JR大森駅に直結している東急REIホテルで開催された。平成28年度は(一社)日本花き卸売市場協会から会長が選任される順番であった為、予定通り小生が平成28年度の全花協 会長へ就任した。トルコ のアンタルヤ国際園芸博覧会をはじめ、全花協で行っている事業について花き業界を代表し、会員団体を取りまとめ、率先垂範しなければならない。

 総会後の懇親会には、国会の自民党の先生方で組織して頂いているフラワー産業議員連盟代表の河村健夫先生に、都心から少し離れたこの大森の地まで駆けつけて頂いた。(一社)日本花き生産協会 副会長の星井さんは、河村先生の出身地である山口県でカーネーションを生産している。そんなご縁だろうか、50%まで輸入品にシェアを奪われた国産カーネーションにおいて、「国産カーネよ、頑張ろう」と、河村先生にフラワー産業議員連盟の会長になって頂いている。また、宮崎県選出で、フラワー産業議員連盟幹事長の江藤拓先生、更に、安倍内閣の中枢から花き産業を応援して頂いている大分県選出の参議院議員 衛藤晟一先生にもお越しいただいた。残念ながら、フラワー産業議員連盟 事務局長の佐藤ゆかり先生は、ご自身の後援会と重なってしまった為欠席とのことだった。そんな中で、先生方の心強い応援やご発言は大変有り難いものであった。

 専門店が減り、その売場面積を補う形で、スーパーやホームセンター等の量販店の売場が生活者のメインのお買い場となってきた。専門店をこれ以上減らさないようにする為に、家庭やオフィスに花や緑を入れてもらう活動をしよう、腕さえあれば、目利きであれば、夫婦でも花屋さんはやっていける。多数の専門店が品質を見極め、花市場で良い花を仕入れてくれる。しかも、質や持ちが良いことがリピーターを増やすことに繋がる。こうなると、量ではなく、質を追求することが得意な国内生産者は、結果として生産拡大を行うことが出来る。こういう風に、先生方も応援してくれるという。農水省 花き室のブリーフィングが効いているのかもしれないが、まさに全花協が行おうとしていることを、先生方も抱負として挙げてくださった。これに向かって、花き業界が一丸となっていく必要がある。

 その翌日の26日(木)、全花協が国の「国産花きイノベーション推進事業」を受け、JFTD主体に活動している「くらしに花を取り入れる新需要創出事業」の平成28年度第一回検討委員会が開催された。会社やデスク回りに花を取り入れてもらう「Flower Biz」、週末に花を買ってもらい、自宅に飾ってもらう「Flower Friday・Weekend Flower」を普及させる。また、普段あまり花を購入しない人が多い若年層をターゲットに花を飾ってもらう。この需要を検討する会議である。当日、お隣に座った企画検討委員長の上原征彦氏(昭和女子大学 特命教授)と小生との2人だけの会話の中で、以下のような話をした。全世界で社会が壊れ、家庭が壊れている。そこに、パーソナルユースの携帯電話が普及してきた結果、衝動的にあらゆることを行うようになってきてしまった。そんな事件が本当に目につく。このような状況の中、花文化の普及はなかなか難しいかもしれない。しかし、「花のある生活はカッコいい」というメッセージであったり、伝統や文化をSNS等も使って情報発信することで、昔は親や先人たちから教わっていた文化を取り入れてもらう。時代に合わせたツールを使用して、花のある幸せな生活を送ってもらう。ここに向けて、花き業界は努力する必要がある。というのが、先生と話したエッセンスであった。

 「くらしに花を取り入れる新需要創出事業」は、まだ第一回目と始まったばかりだが、具体的・効果的にどうするのか、外部委員の先生のアドバイスを聞きながら、全花協の会員自ら動く。また、情報を受け取るだけでなく発信する側に回って、「Flower Biz」、「Flower Friday・Weekend Flower」を行っていく必要があると強く感じた次第である。

投稿者 磯村信夫 : 15:59

2016年5月16日

サプライチェーンで考えると、発展途上国の日本

 5月26、27日に伊勢志摩サミットが開催されるが、その議題の一つに「食品ロスの問題」が取り上げられる。今後、世界の人口が100億人を突破することが予想されており、無駄にしている食べ物をどうするかは大切な課題である。フランスでは、今年の2月はじめに「賞味期限切れ食品」の廃棄禁止を大手スーパー等で義務付ける法律が成立された。日本の場合、鮮度を重んじ、しかも一人、二人世帯が全世帯の半分以上となっている現在、どのようなルールを決めて、我々の習慣を変えていくかが問題となる。また、消費期限内であれば良いのか、製造年月日はどうなるのか、という問題もある。例えば、おにぎりやお弁当でも、製造年月日が大切になるとすれば、夜中の12時を過ぎてから作るようにしようとする業者がある。しかし、これは何か本末転倒のような気がする。生ものが大好きな日本人も、労働条件まで含め、ヨーロッパ諸国に学んで良いルールを取り入れ、農家や加工食品メーカー、花束加工業者まで含めて、世界的な承認基準を設け、自称ではなく、チェックを受けてもらい、嘘のない生産・流通をする必要がある。

 この11月から豊洲市場が開場するが、いよいよ、卸売市場も、鮮度管理が出来ない市場は消費者や小売店から選ばれなくなる。これは、青果の見た目だけでなく、中身についても鮮度への関心が高くなり、市場流通の質のレベルが上がるということだ。

 西武プリンスドームで開催されている「第18回国際バラとガーデニングショウ」のバラを見た時、趣味で作った方が出品しているバラには無かったが、恥ずかしいことに、プロの生産者の出品物や小売店が販売する商品の中に、ボトリチスで傷んだ花弁のものがあった。「国際バラとガーデニングショウ」は、「世界ラン展」と同様、日本の生産技術を世界に誇り、国際的評価を得ているものだが、生産する温室の中や、農協の集出荷場の中、輸送トラックの中、卸売市場、小売店の作業場の中のどこかにボトリチスの菌がいたから、花弁が傷んだのだ。花びらを剥けば販売している時は分からないが、翌日にまた出てくる。これでは、どこの国にも輸出出来ない。従って、生産者だけでなく、輸送会社、流通会社においても衛生管理を徹底していかないと、世界の花の生産国にはなれないのだ。それにも関わらず、日本はお客様が自国内にいることから、長い間輸出しなくても済み、従って、脇の甘い国内流通をしてきた。もう一度、生鮮食料品の有効利用、ロスを少なくすること、また、輸出に取り組むことによって、日本が世界レベルからするとやりそびれていることを早急に行い、科学に基づいた、身体や環境に害のない食べ物や花を流通させていく必要がある。また、病気がなく、虫が付いていないとチェックされた元気な花や青果を輸出するだけでなく、国内でも当然生産流通させるのだ。

 今、我々、少なくとも花き業界がやっていることは、消費者に手渡しするまでの、世界レベルの花の流通基準からして、甚だ劣るものであり、世界に通用しないことを知ること。この事実認識から始めなければならない。その意味で、輸出や農業改革等は、我々がレベルアップする大変良いチャンスなのだ。

投稿者 磯村信夫 : 13:36

2016年5月 9日

母の日も"質"の日本

 昨日はGW中の母の日であった。本年の母の日は、生活者の気持ちがレジャーの方に向いてしまい、花き業界全体からすると、過去の経験から予想した通り、需要量は少し少なくなっていた。生活者がどこのお花屋さんを通じてお母さんに花をプレゼントしたのか。「疾風に勁草を知る」ではないが、母の日のギフトに強い花屋さんを知るには、今年はもってこいの日めぐりだったと言える。

 小生が尊敬するお花屋さんの一人が、次のようなことを言っていた。「年末と母の日は、お店の通信簿のようなものです。そのお宅に尽くしたら、お嬢さんやお孫さんは買いに来てくださる。もし来てくださらないとしたら問題ですね」。先週の始め、セリ場上の通路でのことだ。本年の流れは、お母さんにプレゼントするのだから、数量や金額はもとより、より本物を求め、信頼の置けるところで用意をするというものであった。カタログやインターネット販売でも、信頼のある花店が自分の贈る花を担当するのかといったところに重点が置かれた。また、初めて見る生産者の「私がつくりました」という写真がついたカーネーションやアジサイの花があっても、「この人のことを知らないから止めておこう。それより、信頼の置けるフローリストが担当するものを贈ろう」。という人が多かったのではないか。すなわち、専門店かどうか、そして、日頃から値段ではなく、品質がしっかりしていて、贈った時、貰った時も、「良かった」と得心の出来るものであることが大切であった。そうなると、限られた店が繁盛し、母の日だからと出てきた、いわゆる「物日販売業者」は、今年は総崩れだった。例えば、ペットボトルのお茶なども、信頼のある会社が監修・チェックをしたか、あるいは、その茶葉を納品した等でないと選ばれなくなってきている。まさにそれと同じ流れとなった。

 花き市場においては、国産のカーネーションが圧倒的優位であった。そして、国産しかないカーネーションの鉢物では、「この人なら大丈夫だ」と思わせる、つくりの良いブランド生産者の鉢は予定価格で通ったが、それ以外は安値に泣いた人もいる。仏花の物日の時は、量販店の花売り場が優位になっているが、母の日は、素材ももちろん、質の確かな、綺麗にデザインされた切花、また、全体のバランスだけでなく、いかにも「根っこも健全です」ということを全体で表している鉢物を扱う専門店が、今年の生活者の負託に応えていた。

 今後とも、お客様として大切にしたいお父さんと子どもたちが、店頭で並んでいる姿を見ると、我が花き業界は、総出で母の日を応援しなければならないと思った次第である。

投稿者 磯村信夫 : 13:54

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